米司法省が少女らの性的搾取で起訴され勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスタインの関連ファイルを公表して以来、エプスタイン関連の記事が報道されない日がないほどだ。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、米マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が、エプスタインと交流があったことについて、自身が設立した慈善団体「ゲイツ財団」の職員に謝罪したと報じていた。

ミルバートン(シドニー・パジェット画)
「ストランド・マガジン」掲載時の挿絵
Wikipediaから
時事通信が今月に入って報じたエプスタイン関連記事を拾ってみると、
「チャールズ英国王の弟アンドルー元王子が19日、公職上の不正行為の疑いで逮捕された。アンドルー容疑者は英貿易特使だった2010年に、米富豪ジェフリー・エプスタインに公文書を渡した疑いが浮上していた」
「英警察は23日、与党労働党の重鎮だったマンデルソン前駐米大使を公務上の不正行為容疑で逮捕した。同前米大使はエプスタインとの親密な関係があり、閣僚在任中に政府の機密情報をエプスタインに漏らした疑いが浮上していた」
「欧米メディアは12日、米金融大手ゴールドマン・サックスの法務部門の幹部、キャスリン・ルームラー氏が退任すると報じた。エプスタインの親しい友人だったことが、司法省が公開した捜査資料などで明らかになっていた」
といった具合だ。
上記の事例はほんの一部に過ぎない。全てを書き上げるならば、このコラム欄では無理であり、時間の経過と共にその数は増えていくことが予想されるのだ。
エプスタインは英国の小説家アーサー・コナン・ドイルの名探偵シャーロック・ホームズ・シリーズの一つ、「犯人は2人」(1904年)の中に登場する恐喝王チャールズ・オーガスタス・ミルバートンを思い出させる。
ミルバートンは富豪、名士、著名人、美人の弱みを武器に、相手を次々と脅迫していく。弱みとは多くは男女間に関係する情報だ。ホームズはある日、結婚を控えたとある令嬢から依頼を受ける。令嬢が田舎の貧乏貴族に書き送ったというラブレターをネタに、その書簡買取を高額で要求されているというのだ。名探偵のホームズも合法的な手段でミルバートンからラブレターを取り返すことができないことを悟り、ミルバートンの屋敷に侵入して金庫からその手紙を奪い返そうとする。ミルバートンは脅迫した相手が自身の名誉や名声を守るために必ず要求に応じるだろうと確信している。
エプスタンの犯罪を紹介するメディアは決まって、「少女性的搾取事件で起訴された」と書くが、エプスタインの本当の狙いは、相手側の弱み(多くは少女たちとの性的行為)をネタに相手から情報、政府機密などを手にすることにあったのではないか。エプスタインは政府要人や実業家から手に入れた政府情報、企業情報を第3者に売ることで何らかの富を得ていたはずだ。エプスタインの犯罪が少女性的搾取だけに留まっていたならば、今日のように世界を震撼させる大事件とはならなかったはずだ。
例えば、マンデルソン氏は閣僚在任中に政府の機密情報を漏らした疑いが浮上しているし、アンドルー元王子も公職上の不正行為の疑いが出ている。
ポーランドのトゥスク首相は3日、ジェフリー・エプスタインとロシア情報機関の関係を調査する方針を示した。米司法省が追加公開した300万ページ以上の新たな資料で、エプスタインとロシアとの深いつながりが明らかになったためとしている。
トゥスク首相は「ロシア情報機関が同スキャンダルに共謀していた可能性が高まっている。わが国の安全保障にとっても深刻な事態だ。このスキャンダルが現在の国際情勢にも影響を与え続けているからだ。ロシアは現在も活動している多くの政治家にとって不利な材料を保有している可能性がある」と述べている。
公開された資料には、エプスタインとロシア、およびプーチン大統領との関わりを示唆する記述が多数含まれていた。米捜査当局はエプスタインの偽造パスポートを発見しており、そこには英国、サウジアラビア、フランス、スペインなどの入国スタンプと共に、ロシアへ少なくとも3回渡航した記録が残されていた。
現時点では、エプスタインが正式な「ロシア情報機関の協力者」であったと確定できないが、公開された司法省のファイルには、彼がロシアの国家中枢や情報機関と極めて密接な、あるいは協力的な関係にあったことを示唆する具体的証拠や証言が多数含まれているのだ。
最後に、人工知能(AI)に「エプスタイン」と「恐喝王ミルバートン」との共通点を整理してもらった。
ジェフリー・エプスタインと、コナン・ドイルの短編「犯人は2人」に登場するチャールズ・オーガスタス・ミルバートンには、その「恐喝の手法」と「社会的な立ち位置」において驚くほどの共通点が見られる。
1)「情報の蓄積」による支配
ミルバートン: 「恐喝王」として知られ、貴族や名士の過去の不祥事や手紙を組織的に収集し、それを武器に相手を支配した。
エプスタイン: 自身の邸宅やプライベートアイランドに監視カメラを設置し、政財界の有力者のスキャンダルを動画や写真で記録していたとされる。単なる金銭目的ではなく、相手を「自分のポケットに入れる(意のままに操る)」ための材料として情報を蓄積していた。
2)「上流階級」への食い込み
ミルバートン: 表向きは美術商などを装いながら、上流階級の秘密に深く精通し、彼らの弱みを握ることで社会の裏側に君臨していた。
エプスタイン: 億万長者として振る舞い、王族や大統領、著名な科学者たちと親交を結び、彼らを自身のネットワークに取り込むことで、法的・社会的な「盾」を築いていた。
3)被害者による「直接的な報復」という結末
ミルバートン: 人生を壊された被害者の女性によって射殺されるという劇的な最期を遂げる。
エプスタイン: 拘置所内で死亡(自殺とされる)したが、彼の死後、長年沈黙を強いられてきた被害者たち(主に女性たち)が次々と声を上げ、その巨大な犯罪網が暴かれることになった。
4)「実在の人物」という背景
ミルバートンには、ドイルがモデルとした実在のゆすり屋(チャールズ・オーガスタス・ハウエル)が存在した。エプスタイン事件もまた、現代における「情報の武器化」を象徴する実在の恐怖として語り継がれている。
ホームズはミルバートンを「ロンドンで最も卑劣な男」と評したが、情報を盾に他者の人生を弄ぶその犯罪は、情報時代を迎えた今日、各方面でますます拡散してきている。エプスタインは21世紀の恐喝王ミルバートンだ。

逮捕時のエプスタイン氏
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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