AIで時短を喜ぶクリエイターが見落としていること

黒坂岳央です。

最近、SNSでいわゆる「AI驚き屋」が一気に増えたように感じる。AIで記事を自動量産している、プログラミングの知識ゼロでアプリを作った、自分はほとんど手を動かしていないのに!と「いかに汗をかかずに楽をしているか」という「時短自慢」がタイムラインに流れてくる。

もちろん、自分は時短自体を否定しない。自分自身がAIの力を借りることで一部の仕事を省力化しているし、生産性が上がることは経済合理性にかなっている。だがこうしたAI驚き屋クリエイターが本質を見落としていると感じる点は「時短を実現し、肝心のコンテンツのニーズを自ら消している」ということだ。

AIの活用は手段であって目的ではない。だが、彼らが喜んでいるのは「時短できた」という目的である。

Nutthaseth Vanchaichana/iStock

AI生成すべきもの、人が作るべきもの

まず整理が必要である。すなわち、AI生成すべきもの、人が作るべきものという分類だ。

AI生成で済ませるべきものの筆頭が情報である。事実を伝える記事、データの要約、定型的なビジネスメール、議事録、仕様書。これらは情報伝達が目的である。そのため、価値の本質は正確さと速度であり、書き手の個性は本質ではない。こうした領域はAIに任せるべきである。むしろ人が時間をかけるほうが非効率だ。事実、すでにニュース速報はAIライターが担っている。

一方で、クリエイターや専門家が発信する記事は性質がまったく異なる。読者が求めているのは情報だけではない。誰が、どの立場で、どの経験を踏まえて語っているのか。その「文脈」に対して対価を払っている。つまり「何をいうか」ではなく「誰がいうか」に真の価値がある。

「この人の言う話なら聞きたい」と感じた読者はクリックという期待値コストを払って、時間をかけてその人のコンテンツを見る。つまり、発信者の信頼に対してユーザーはコストを払うのだ。

その本質を考えず、「AIで全自動で作りました」と誇示することは何を意味するか。それは、自分の属人性を自ら薄めているという宣言である。AIが生成できる平均的な文章に近づくほど、「その人である理由」は消えていく。

時短を実現し、ニーズが消える本末転倒

時短は手段である。浮いた時間をどう使うかが本質だ。本来であれば、より深い取材、実体験の言語化、独自の視点の研磨に投下すべきである。少なくとも自分はそれを実践している。情報をリサーチしたり、妥当性を検証、または誤字脱字を修正するといった部分でAIを使うことがある。

だがAIで時短することが目的化した時、その人のコンテンツを見る価値がゼロになる。情報を得るだけでいいなら、別にその人のコンテンツに頼らずとも、読者は自分でAIに聞けばよい。わざわざ特定の発信者を経由する必要はなく二度手間になる。まだ生成AIが世間に騒がれてから数年しか経過していない過渡期だが、時間の経過で時短自慢をする人の価値はゼロに近づく運命だと自分は見ている。

時短は実現する。しかしニーズが消える。これは効率化ではなく、自ら価値を捨てているだけだ。

人はAI臭さを嫌う

実際、noteやYouTube、SNSで「AI臭」が見えた瞬間に見る気が失せる人は多いはずだ。

これには様々な理由があるが、本質的なものとして「見る価値がない」ということが伝わるからだ。どこの誰かがポジションや経歴を明かさず、AIポン出しのコンテンツにはユーザーが自分で引き出す以上の価値が含まれている保証がない。さらに専門家のフィルタリングを通していないので、ハルシネーションリスクがある。つまり、クリックして時間を使って脳のエネルギーを使って得られる確実なリターンがないので、忌避されるのだ。

時々、「人類はAIに慣れていないから拒絶反応を起こしているだけだ」と言う人がいるが、情報の妥当性、ハルシネーションリスク、発信者に紐づくブランディング価値などを総合的に考えると、少なくとも当面はAI成果物は忌避されると思っている。

「人間成果物と見分けがつかない」という人もいるが、AI登場以前は「100%人間成果物」しかなかったが、質の低いコンテンツは見られなかった。それと同じで、AIポン出しとAI以上の価値を付帯させた、少なくともポン出し以上の質に高めたコンテンツでなければ、相対的に選ばれる理由がないという本質に違いはない。

AI時短自慢をする人が稚拙に感じる理由は視点が極めて主観的だからである。確かにAIを使えばnote、YouTube、アプリを大量生産できるだろう。だが、肝心のニーズがなければ電子ゴミでインターネット空間を汚して終わるだけだ。プラットフォーマーもAIで増加する電子ゴミを放置などするわけがない。質の低い大量のコンテンツを待ち受ける運命は、今後も変わることはない。

2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者様登録フォームより登録ください。

コメント