衆議院選挙で日経平均急騰。飛びつくのが正解?(藤村哲也)

2026年2月の衆議院選挙で自民党が歴史的大勝を収め、日経平均は一時3000円超の急騰を見せました。「選挙は買い」という経験則通りのご祝儀相場に、新NISAで投資を始めたばかりの方も含め、多くの個人投資家が沸き立っています。

しかし、こうした政治イベントに連動した株高(いわゆる「政治相場」)には明確な賞味期限があります。歴史を振り返れば、期待先行で飛びついた投資家が痛い目に遭うパターンは何度も繰り返されてきましたので、繰り返さないためにも、少し冷静になって注意すべきポイントを挙げておきましょう。

この記事では、投資助言歴21年の立場から、政治相場で個人投資家が陥りやすい落とし穴と、資産を守りながら増やすための冷静な視点をお伝えします。

衆院選に大勝した高市首相

熱狂の裏側にある「違和感」

2026年2月8日、衆議院選挙で自民党が316議席を獲得し、単独で衆院の3分の2を超える歴史的圧勝を果たしました。週明け9日、東京株式市場はまるでお祭り騒ぎでした。日経平均株価は一時3000円を超える上昇となり、史上初めて5万7000円台に到達。終値でも前週末比2110円高の5万6363円と、歴代5位の上昇幅を記録しています。

SNSには「自民党が勝つと株が上がる」「もっと買っておけばよかった」といった声があふれ、口座の評価額がみるみる増えていく高揚感に包まれた方も多いでしょう。その気持ちはよくわかります。

しかし、お祝いムードに水を差すようで恐縮ですが、数多くの個人投資家にアドバイスを21年続けてきた立場からお伝えします。このような政治相場こそ、冷静さを失わないようにしておかれることをお薦めします。急騰中という痛い目に遭いやすい局面では注意も必要です。

実際、日経平均は選挙翌週の2月12日に5万8015円まで上昇しました。しかし、わずか数日後の2月17日には5万6135円まで下落。中東の地政学リスクというきっかけがあったとはいえ、選挙直後の「ご祝儀分」はあっという間にしぼみ乱高下が激しくなっています。こうした動きこそ、政治相場の本質をよく表しているのです。

「期待」で上がり「現実」で売られる構造

「選挙は買い」は、株式市場で長年語り継がれてきた経験則の一つです。専門用語では「アノマリー」と呼びますが、要するに「過去にそうなることが多かった」という傾向のことです。1970年以降の衆院選を振り返ると、解散から投開票日に向けて日経平均が上昇したケースは確かに多く、今回もその例に漏れませんでした。

しかし、この経験則には大事な続きがあります。それは選挙後の株高は長くは続かないことが多いという事実です。

相場の世界には、「噂で買って、事実で売る(Buy the rumor, sell the fact)」という格言があります。選挙前には、「自民党が勝てば政策が安定する」「積極財政で経済が良くなる」といった期待が先行し、株が買われます。ところが、選挙結果が確定した瞬間、「期待」という燃料は燃え尽きてしまうのです。その後は、実際にどのような政策が打ち出され、それが本当に企業業績や経済に効くのかという「現実」が待っています。

今回でいえば、高市早苗首相が掲げる「責任ある積極財政」、いわゆるサナエノミクスへの期待が株価を押し上げました。2月20日の施政方針演説では「経済成長を実現するために必要な財政出動をためらうべきではない」という力強いメッセージが発せられています。しかし、市場が織り込んでいるのはあくまで期待です。複数年度予算や戦略分野への重点投資、物価上昇対策などが、どの程度の規模で、いつ実行に移されるかはまだ見えていません。

新NISAから投資を始めた方の多くは、こうした期待相場を初めて経験しているかもしれません。「自民党が勝ったら上がる」というわかりやすいストーリーは、投資初心者ほど信じやすいものです。しかし、わかりやすい話ほど多くの人がすでに同じ行動を取っています。あなたが買おうと思った時点で、期待の大部分はすでに株価に織り込まれていることが多いのです。

歴史が証明する「宴の終わり」

ここで過去の政治相場がどのような結末を迎えたか、具体的に振り返ってみましょう。

記憶に新しいのは2024年9月の石破ショックです。自民党総裁選で石破茂氏が新総裁に選出された直後、日経平均は翌営業日に1910円安と暴落しました。

当時、市場は積極財政・金融緩和継続を掲げる高市氏の優勢を見込み、いわゆる「高市トレード」として株高・円安が進んでいました。しかし、石破氏は増税や早期利上げへの警戒感を抱かせる政策スタンスとみなされており、予想外の勝利で期待への急速な巻き戻しを引き起こしたのです。政治の結果が市場の期待と異なった瞬間に何が起きるか、これほどわかりやすい事例はありません。

さらに、2024年10月の衆院選では、自公が過半数を割り込む惨敗を喫し、半世紀以上続いた「選挙は買い」という経験則が崩れました。解散前から投開票日にかけて日経平均は約3%下落するという、異例の事態です。選挙後の株価上昇は鉄則ではなく、あくまで傾向に過ぎません。

2005年の小泉郵政選挙では、自民党が圧勝し日経平均は大きく上昇しました。ただし、株高が持続した背景には世界的な信用拡大という強力な追い風がありました。構造改革への期待だけで上がり続けたわけではなく、結局2008年のリーマンショックで日経平均は7000円台まで暴落しています。

2012年末のアベノミクス相場でも、衆院選での圧勝と「大胆な金融緩和」への期待で急騰した後、2013年5月には急落し、2014年5月にはアベノミクス相場で初の前年割れを記録しました。

共通するパターンはこうです。選挙直後のご祝儀相場で急騰し、投資家が熱狂する。しかし、政策の実行には時間がかかり、その間に海外発のリスク要因が襲ってくる。結果として、期待先行で高値掴みをした個人投資家が、含み損を抱えたまま身動きが取れなくなる。21年にわたって個人投資家の運用に伴走してきた中で、この光景を何度見てきたかわかりません。

今回もすでにイラン情勢や再度のトランプ関税リスクが株価の重石になり始めています。一部メディアでは、2022年に大規模減税を掲げて就任直後に市場の信任を失い、わずか44日で退陣に追い込まれた英国トラス政権との類似性を指摘し、「サナエ・ショック」の可能性に警鐘を鳴らす報道も出ています。選挙で勝ったからすべてがバラ色というほど、相場は甘くありません。

ムードではなく「自分のルール」で資産を守る

「じゃあ、せっかくのチャンスを見送れというのか」と思われた方もいるでしょう。もちろんそうは言っていません。問題は、このチャンスとどう向き合うかです。投資でもっとも重要なのは、資産をどう守りながら育てるかです。特に選挙後のような急騰局面では、

3つの落とし穴を意識していただきたいと思います。意識するだけでも、万が一の急変時にも対処が変わります。

1つ目は、ご祝儀相場への飛びつき買いです。選挙翌日に3000円上がったのを見て、乗り遅れたくないと慌てて買うのは典型的な高値掴みのパターンです。相場の格言に「頭と尻尾はくれてやれ」というものがあります。最初の急騰を取り逃しても、失うものは何もありません。興奮が一巡して相場が落ち着いたところで、冷静に銘柄を選ぶ方がはるかに合理的です。

2つ目は、財政政策のテーマだけで銘柄を選ぶことです。「サナエノミクスでインフラ関連が上がるはず」「防衛関連は間違いない」といった大雑把な連想で飛びつくと、期待が剥落したときに真っ先に売られてしまいます。政策テーマで物色された銘柄は、具体像が明らかになるにつれて、期待と現実のギャップで値を下げることが多いので注意が必要です。銘柄を選ぶ際は、その企業の足下の業績や財政体質、各種指標といったファンダメンタルズ(企業の基礎的な実力)を必ず確認すべきでしょう。

3つ目は、ムードに流されて損切りルールを忘れることです。「自民が圧勝したんだから大丈夫」「積極財政をやるんだから下がっても戻る」といった根拠のない楽観は、損切りの判断を鈍らせる最大の敵となります。私がクライアントに常々お伝えしているのは、ロスカットを大切にするという規律です。相場に「大丈夫」や「絶対」はありません。自身の資産を守れるのは、ムードではなく、万が一の失敗は失敗と認め、早めに見切る勇気です。

新NISAを機に投資を始めた方にとって、今回の政治相場は初めて経験する熱狂と冷却のサイクルかもしれません。だからこそお伝えしたいのは、政治に踊らされるのではなく、政治相場を学びの教材にしてほしいということです。

相場はこれからも続きます。高市政権の政策が実際に動き出し、企業業績に反映されるのはまだ先の話です。期待を上回る政策が実行されるのか、失望されるのかは、これからの高市政権次第です。焦って飛びつかなくても本当のチャンスは必ずやってきます。その日のために資産を守り、ルールを守り、冷静を保ちながら資産を育てること。それが、投資を一部の人の賭け事ではなく、誰もが続けられる生活習慣にするための第一歩だと、21年の経験をもって申し上げたいと思います。

藤村哲也 ライジングブル投資顧問株式会社 代表取締役
千葉県出身。横浜市立大学経営学科卒業後、1990年に太平洋証券(現・三菱UFJモルガン・スタンレー証券)に入社。個人・法人の資産運用を担当し、バブル崩壊後の市場を第一線で経験する。のちに本社投資情報部でプラント・機械・IT・半導体など幅広い業種を担当し、年間数百件におよぶ企業取材を通じて成長株分析に強みを培う。1999年の台湾地震では、TSMCをはじめとする現地半導体メーカーを取材し、アジア市場リスクを日本の投資家へ発信した。
2003年にライジングブル投資顧問株式会社を設立し、代表取締役に就任。「投資を一部の富裕層の特権から、誰もが続けられる生活習慣へ」を理念に、投資助言と教育を融合した“伴走型”のビジネスモデルを追求している。創業21年を迎えた現在も、金融庁登録の投資助言・代理業として行政処分ゼロを継続。700件超の売買助言ログを公開し、“信頼を見せる投資顧問”として、投資家に寄り添った長期的な資産形成を支援している。
公式サイト https://www.risingbull.co.jp/
公式ブログ https://www.risingbull.co.jp/stock/
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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年2月27日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。