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子宮頸がんワクチンが安全であるとするエビデンスの一つが、2018年に発表された鈴木貞夫氏の論文です。これは2015年に実施された名古屋サーベイのデータを分析した論文(名古屋スタディ)であり、ワクチンと重篤な症状との関連性はないと報告しています。
この論文では、ワクチン接種群と未接種群のオッズを比較しています。その後、同じデータを用いて、関連性ありとする論文を、八重ゆかり氏が2019年に発表しています。つまり、同じデータを用いて分析したのに、結論が逆になったのです。
現在、論文で使用された解析手法の妥当性をめぐって、双方が論文で(論文1、論文2)批判しあっています。第三者の研究者も、この論争に参加しています。
今回、私が着目するのはサンプルサイズの妥当性です。サンプルサイズが小さいと、第II種の過誤の確率が高くなります。つまり、実際に差や効果が存在しても、有意差が検出できなくなるのです。解析手法やバイアスについては既に論点となっていますが、サンプルサイズについては、ほとんど考察されていません。
名古屋サーベイは、しばしば大規模調査と解説されますが、この解説は適切ではありません。このサーベイでは、接種者数は約2.1万人(未接種者は9千人強)であり、これでは稀な副反応の発生頻度を調べるにはサンプルサイズが小さすぎるのです。
厚労省の審議会の報告(報告1、報告2)によれば、医師が重篤と判断した有害事象の報告頻度は、サーバリックスで0.0079%、ガーダシルで0.0054% です。100万回接種あたり54~79件の発生となります。
ただし、この発生数には偶発事例も含まれていると考えるべきです。未接種者においても同様の症状が発生することは、祖父江班の研究で判明しています。また、この発生頻度は、すべての重篤な有害事象を含んだ数値です。個々の有害事象の数値は、この数値より当然小さくなります。
仮に、ある有害事象の発生頻度を100万回接種あたり5~30件とします。そうしますと、接種者2.1万人のうち、その有害事象が発生すると予想される件数は0.1~0.6件となります。つまり、未接種群に比べて、接種群ではその有害事象の件数の増加は僅かに0.1~0.6件のみと予想されるということです。これでは、とても分析などはできません。
したがって、サンプルサイズが2.1万人の群間比較分析(接種群と未接種群の比較)では、発生頻度が5~30件/100万回接種の有害事象のリスクを適切に検出することはできません。
この論文では、年齢と初回接種年によるサブグループ解析が追加されていますが、当然サブグループ解析では、更にサンプルサイズが小さくなります。そのため、更にそのリスクの検出は困難になります。
発生頻度が5~30件/100万回接種の有害事象のリスクが検出できないようでは、適切な研究デザインとは言えません。参考までに、新型コロナワクチン接種後の心筋炎の発生頻度は、100万人あたり6~13件と報告されています。ワクチンの安全性を検証するのであれば、稀な副反応のリスクも検出できるサンプルサイズでなければなりません。
医薬品は第3相試験を経て認可されます。第3相試験で実施されるRCTの総サンプルサイズは、通常数百~2万程度です。したがって、発生頻度が5~30件/100万回接種の有害事象のリスクは検出できません。第4相試験では、稀な有害事象のリスクを検出するために、第3相試験より遥かに大きなサンプルサイズ(最低でも数十万以上)が必要なのです。
本来、研究デザインの段階で事前に適切なサンプルサイズを計算し、適切な設計をしておく必要があります。それを怠りますと、今回のように、ワクチンの安全性を確認するという目的が十分に達成されなくなってしまいます。
他の都市もまきこんで、サンプルサイズ100万人以上の調査を目指すべきでした。しかし、そうなりますと地方自治体には手に余る規模となってしまいます。この調査は、本来、国が主導して行うべきものだったと私は考えます。また、アンケート調査ではなく、医師が関与するデータを分析するべきでした。
【結論】
名古屋サーベイのデータを用いてワクチン接種群と未接種群のオッズを比較した鈴木論文では、サンプルサイズが小さいため、稀な有害事象(5~30件/100万回接種)のリスクを検出できていない。したがって、この論文により子宮頸がんワクチンの安全性が保証されたとは言えない。
【補足】
狭義の研究デザインでは、サンプルサイズは、その概念に含まれません。
【補足2】
サンプルサイズが小さいために接種群と未接種群との比較ではリスクが検出できない場合においても、接種群のみを分析対象とする 偶発性分析 ではリスクを検出できる場合があります。
【補足3】
2021年に韓国の研究者が公表した子宮頸がんワクチン副反応の論文では、接種群のサンプルサイズは約38万人でした。2017年にフランスの研究者が公表した論文では、接種群のサンプルサイズは約83万人でした。







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