猫がじーっと見てくる。あれ、何なの?

Jenae Escobar/iStock

うちの猫が、またこっちを見ている。

ソファに座ってスマホをいじっていると、ふと視線を感じる。顔を上げると、猫がまっすぐこちらを見ている。ごはんの時間じゃない。おもちゃを出してほしいわけでもなさそうだ。ただ、じーっと。あの目で。「何?」と聞いても、当然返事はない。

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猫と暮らしたことがある人なら、たぶんこの感覚はわかると思う。要求があるときの視線とは、明らかに違う「じーっ」がある。ごはんのときはもっと切迫しているし、遊んでほしいときは体全体でアピールしてくる。そうじゃなくて、ただ静かに、こちらを見ている。あれは何なんだろう。

実はあれ、「好き」のサインらしい。

猫はもともと、長いアイコンタクトをしない動物だ。野生の世界では、目を合わせ続けることは「ケンカ売ってるのか」という意味になる。人間だって同じだ。知らない人にじっと見つめられたら怖い。電車で向かいの席の人と目が合い続けたら気まずい。でも、好きな人のことは——つい見てしまう。猫も、どうやらそういうことらしい。

わざわざ野生のルールを破って視線を向けてくるのは、「あなたに心を開いていますよ」というサインだ。敵意じゃない。むしろ正反対。「あなたが気になる」「そこにいてくれて安心する」。そういう気持ちが、あの静かなまなざしには詰まっている。

ここまで読んで「いやいや、うちの猫は絶対ごはん催促してるだけだよ」と思った人もいるだろう。まあ、それもある。否定はしない。猫は現実主義者だから、空腹のときは全力で訴えてくる。でも、全部が全部そうじゃない。満腹のはずなのに見てくる。遊び疲れて寝てもおかしくないのに見てくる。あれは要求じゃない。

赤ちゃんが眠る前に母親の顔を確認するのと似ている、と言った人がいた。なるほど、と思った。「そこにいるね?」「いるよ」——それだけで安心する。猫も同じことをしているのかもしれない。

そう思うと、あの視線がちょっと愛おしくなる。

さて、じーっと見つめてくる話をしたので、逆の話もしておきたい。目をそらされる問題だ。

こちらを見ていたから「なあに?」と声をかけたら、ふいっと横を向かれる。あれ、地味に傷つく。「嫌われたか?」と一瞬焦る。でも安心してほしい。あれは「嫌い」じゃなくて、むしろ「好き」寄りのサインだ。

猫にとって目をそらすのは「敵意はないよ」「ケンカしたくないよ」という意味。野生では目を合わせ続けることが挑発になるから、あえて視線を外すことで「私はあなたの味方です」と伝えている。人間的に言えば、好きな人と目が合って恥ずかしくなってそらす——あの感じに近い。たぶん。知らんけど。

ただし、おもちゃを取り上げられた直後とか、大はしゃぎを止められた直後の目そらしは、ちょっとニュアンスが違う。あれは「もっと遊びたかったのに」というふてくされだ。子どもが親に「もう帰るよ」と言われたときの、あの顔。猫も同じことをする。まあ、それはそれで可愛いのだが。

最後にもうひとつ。猫の愛情表現で最も有名なやつ——「ゆっくりまばたき」の話。

猫がこちらを見ながら、ゆーっくりと目を閉じて、また開ける。あれは「猫のキス」と呼ばれている。野生の世界で、相手の前で目を閉じるのは危険な行為だ。敵かもしれないのに、わざわざ視界を遮る。つまり「あなたの前では完全に油断してますよ」「信頼してますよ」という意味になる。

試しに、猫と目が合ったときに、こちらからゆっくりまばたきを返してみてほしい。最初は無反応かもしれない。でも何度かやっていると、猫がまばたきを返してくれることがある。あの瞬間は、ちょっと泣きそうになる。大げさじゃなく。

叱ったあとに、距離を取りながらそっとゆっくりまばたきしてくる猫もいる。あれは「ごめんね」「もう怒ってない?」のサイン。そんなことされたら、怒ってるほうが悪い気がしてくる。ずるい。

結局のところ、猫の視線はぜんぶ「好き」に繋がっている。見つめるのも、そらすのも、まばたきするのも。表現が違うだけで、根っこは同じだ。それに気づいてから、うちの猫に見つめられるたびに、ちょっとだけ背筋が伸びる。

見られてるぞ、と。好かれてるぞ、と。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

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