戦争に興奮する学者・評論家たち

アメリカ・イスラエルの攻撃に端を発するイラン危機が深刻化する中、日本では奇妙な現象が起きている。戦争の現実を冷静に分析するはずの学者や評論家が、むしろ戦争に興奮しているのである。威勢のいい言葉遣いにかかわらず、日本の閉塞的な状況を示しているように思われてならない。

確かに、イラン危機は、大きな混乱をもたらしている。長期消耗戦の様相が深まる中、イランの友好国以外の船舶によるホルムズ海峡の通行が止まり、世界中でエネルギー危機の懸念が広がっている。一般市民に悲惨な被害をもたらす国際人道法違反の爆撃が繰り返されているが、イラン側は断固として長期消耗戦に持ち込む構えで、イスラエルへのミサイル攻撃を続けている。最高指導者の暗殺を通じたイランの体制転換という都合の良いシナリオを夢想していたトランプ大統領は、焦りを隠せず、事実から乖離した内容の発言を重ねている。それに振り回されて株式市場や原油価格が乱高下しているようだが、端的に言ってアメリカは戦争の行方を統御できていない。そもそも自分が何を目的として戦争をしているのかが、はっきりわかっていないようでは、戦争の終わり方をめぐる戦略など作れるはずがない。

この混乱の中で、さらに眉を顰めざるを得ないのは、学者や評論家という肩書を持つ人々が、国内の人間関係の対立図式にそって現実を勝手に脚色して一方的に「マウントを取る」場面や、アメリカなど紛争当事者の一方に肩入れし過ぎて根拠不明で現実と整合しない情報を流布して特定のファン層だけを喜ばせているような場面が目立つことである。SNS時代の言論空間では、学者や評論家であっても例外ではなく、フォロワーを動員する「政治的インフルエンサー」として振る舞う圧力が強まっている。

SNS時代になって旧時代の評論活動は不可能となり、学者や評論家といえば、刹那的な発言で人気者となっている人たち、のことになってしまったようである。SNSの登場によって、専門家の言論は「知識の提供」から「感情の動員」へと変質した。SNS空間では、分析の正確さよりも、支持者を興奮させる言説の方が拡散されやすいためだ。恐らくは近い未来に、学者とか評論家とかという言葉は、その意味内容を、大きく変質させているのだろう。

イランの最高指導者ハメネイ師が暗殺されたとき、真面目な地域研究者であれば容易には突破口が見いだせない地獄が到来する懸念を持ったはずだ。しかし日本の一流評論家であれば、「アメリカがイランを支配することになった!」と高揚していた。

トランプ大統領の非現実的な夢想通りには現実が進まないことが次第に明らかになって、株価が下がり、原油価格が上がり、トランプ大統領がSNSで実態の伴わない虚言を乱発して何とか「マーケットを鎮静化」させようとすると、それに呼応して、日本の国際政治学者らが、側面支援するようなSNS活動を行った。「イランのクルド人がすでにイランに侵攻した」、「イランがすでに停戦提案を行った」といった、根拠不明で、その後も全く検証されない現実から乖離した内容であった。

 

しかし日本は今や「反中国」「反サヨク」「反ロシア」「親米」「保守」のようなレーベルで表現される「立ち位置」にそって、インフルエンサー学者・評論家とフォロワー信者が、日々、集団的に行動するための話題作りで、国内問題のみならず、戦争をめぐる国際問題なども消費されてしまっているようである。アメリカのイラン攻撃で、新たに「反イラン」が、「反サヨク」「反中国」「反ロシア」「親米」などと同義になった。そして学者・評論家・ジャーナリストらが、イランを徹底的に邪悪に描写し、さらには「イランよ、無条件降伏せよ」と主張して喝采を浴びる現象が起こった。

学者や評論家の価値はSNSでの「いいね」の数で決まる、といった観念が常識化する時代が本格的に訪れたときに、日本は「世界の真ん中で咲き誇る国」になっているだろうか。恐らくなっていないだろう。

世界のほとんどの国々は、日本の後を追っているわけではない。しっかりと国力を充実させる方法を考えることを、何よりも重要な最優先事項として、社会を運営している。

現実の問題として、日本の国力は低迷の一途をたどっている。イラン危機の後、その傾向が変わる気配はない。日本の国力が疲弊していく傾向は、さらに高まっているだろう。

現実は厳しい。だがだからといって、国力の停滞の現実から目をそらし続けるための刹那的な快楽の文化だけを発達せても、もちろん国力の疲弊は止まらないだろう。それどころかむしろ加速していくだろう。

刹那的な興奮は、国力を強くしない。むしろそれを静かに蝕んでいく。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより

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