
kuppa_rock/iStock
「先延ばしにしない」という名の死刑宣告
「経営課題を先延ばしにしない」
東京信用保証協会の『保証マンスリー』2026年1月号
その年頭挨拶に躍った理事長の言葉を、あなたは「寄り添い」だと感じただろうか?
もしそうなら、あなたの経営感覚は致命的に麻痺している。
実務の現場から見れば、これは明確な「選別開始」の宣告だ。2月号の最新統計がその残酷な実態を証明している。前年比で保証承諾率は下がり、リスケ(条件変更)件数は増大。そして何より、保証債務残高が一向に減っていない。この傾向はコロナ禍明けからずっと続いている。
中小企業の多くが、元金を1円も減らせず、利息だけを払って時間を買う「デッドロック(行き詰まり)」に陥っている。
国と協会は今、救済から市場の「敗戦処理」へと舵を切っている。
金融庁公式データが暴く「リスケ列島」の実態
これは一個人の感覚ではない。金融庁が公式に公表している数字が、その実態を示している。
金融庁ホームページには、「金融機関における貸付条件の変更等の状況」と題するプレスリリースが、銀行分・信用金庫分・信用組合分と業態別に分けて公表され続けている。最新版は「令和2年3月10日から令和7年3月末までの累計実績」(2025年6月更新)だ。
そのデータは、大量のリスケがコロナ明けとともに始まったのではなく、コロナ特例融資の辺りから纚続し、現在も進行中であることを示している。地銀や信金といった中小企業の身辺な金融機関がリスケ対応に追われている状況は、金利が上昇する中で、ますます状況は悪化している。
ここで重要なのは、リスケの本来の姿だ。
プロが関与する本物のリスケとは、出口を先に設計し、その返済原資を投資に回して売上と利益を上げるための手段として使うものだ。リスケで生まれた余力を経営改善に注ぎ込み、正常返済へと戻る道筋を描く――それが再生の本質である。
しかし、現実に行われたほとんどのリスケは、出口など何も考えない単なる延命に過ぎなかった。もうこれ以上リスケできない状況になるまで、リスケが際限なく繰り返される。当然、会社の体力は消耗されるだけに終わる。
それが、300万件を超える途方もない数字だ。
金融庁データを若実に確認するには、同サイト(fsa.go.jp)内「金融機関における貸付条件の変更等の状況」ページからPDF・Excelをダウンロードしてほしい。銀行・信用金庫・信用組合と業態別に分かれ、コロナ禁請明けからの累積対応件数と金額が一目百然だ。そして最新の令和7年3月末データが示すのは、「リスケは引き続き増加している」という冷たい事実である。
社長が飛びついた「100%保証」という名の毒入り饅頭
なぜ、これほどまでに「返せない」のか。
景気が悪いからか?
物価高のせいか?
賃金の高騰が止まらないからか?
違う。
社長、あなたの「無知」が原因だ。
コロナ禍、国が用意した「コロナ特別枠」という制度を覚えているだろうか?
当時の政府資料(中小企業庁)には、明確にその「特例」の構造が記されていた。
本来、保証枠には「一般枠(8,000万円)」があり、そこに災害等の際の「別枠(4号・5号認定)」が重なる。これを殆どの業種に認めた異例の措置であった。
これでも不足と考えたのか、国はここにさらに「コロナ特別枠(8,000万円)」を創設し、計2.4億円もの巨大な「目安」を作った。
もっと重要なのは、共同分担割合だ。
通常、銀行と協会はリスクを「2:8」で分かつが、コロナ4号枠は「協会100%保証」。銀行のリスクはゼロ。
銀行員が「今のうちに借りておきましょう」と熱心に薦めてきたのは、あなたの会社を心配したからではない。1円のリスクを負わずに金利を稼げる「ノーリスク・ハイリターン商品」だったからだ。
消失した「空き枠」と、銀行の門前払い
目先の低金利という数字に踊らされ、事業計画も持たぬまま印鑑をついた社長たちがあふれた。
私が出口戦略ないまま借りたら、その後が大変ですよといくら助言しても、一顧だにせず、今こそ借り時だと社長達は我先にと借りられるだけの借金をした。
その後どうなったのか?
コロナ特例制度は終了したが、借りた残高は当然積み上がったままだ。
現在、多くの中小企業は、本来の「身の丈(保証枠)」を遥かに超える残高を抱えている。
「銀行が追加融資に応じてくれない」と嘆く社長がいるが、それは貸し渋りではない。あなたが自ら、将来の「空き枠」という名の退路を、当時の無知によって食いつぶした結果だ。
100%保証という強烈なインセンティブのない銀行が、枠のない社長にプロパーで貸す道理など、この世界のどこにも存在しない。
日本政策金融公庫が示す「生存選別」の同期
この傾向は保証協会だけではない。日本政策金融公庫の2025年度業績データも同じ方向を向いている。
政府方針で「創業融資の要件緩和」を謳いながら、実際に伸びているのは「設備投資」だ。一方で、赤字補填になりやすい「運転資金」への審査は極めて厳格化されている。
「形として残る資産には出すが、消えてなくなる金(運転資金)は、もはや回収不能なコストとして切り捨てる」。
公庫と協会は今、完全に同期して「生存選別」を行っているのだ。
結論:国に夢を託すな、自らの足で立て
よく「銀行は晴れの日に傘を貸して、雨の日に取り上げる」と言われる。
しかし、それは違う。
取り上げられるような借り方を、社長自身がしているに過ぎない。
巷では「貸し渋り」「貸し剥がし」が始まったと言われるが、それも違う。
ほとんどの場合、原因はコロナ特別融資での「借りすぎ」という、社長の無知から来ている。
もう一つ、笑えない話がある。
信用保証協会の保証料率はCRD(中小企業信用リスクデータベース)によるスコアリングで9段階に決まり、その収入は代位弁済の損失補填に充てられる――これは各信用保証協会のホームページに堂々と書いてある公式の仕組みだ。
つまり、無計画に借りすぎて返済に行きずまった会社が増え、代位弁済が膨らめば膨らむほど、何も悪いことをしていない健全な企業が、割高な保証料というかたちでそのツケを払わされる構造になっている。
協会が再生を急ぐ本当の理由の一つは、ここにある。あのとき適正に借りた社長が、何も考えずに借りた社長たちのとばっちりを食う。これが正常な姿だろうか。
保証協会を始めとして国が「再生」に力を入れるのは、あなたの会社の「成長」を願っているからではない。彼らにとっての「事故(代位弁済)」を最小限に抑え、いかに効率よく債権を回収するかという論理で動いている。
なぜなら、その不良債権は最終的には国民の税金で穴埋めしなくてはいけないからだ。
債務償還年数 = 既存債務残高÷年間FCF(フリーキャッシュフロー) > 20年
この数式に当てはまる会社を、国はもはや救わない。
2026年5月、企業価値担保権が施行されれば、この二極化は完成する。
救いがあるとすれば、たった一つ。
自らの事業がいかにキャッシュを生むのかを、社長自らの言葉(事業計画)で証明することだ。
制度のカンニングペーパー(政府資料)すら読まず、銀行に生殺与奪の権を握らせてきた「在りよう」を今すぐ捨てなくてはいけない。
自分の言葉で、自分で計画を書く。
銀行を真のパートナーに変えなくては令和の時代は生き残ることはできない。
「自立」なき者に、令和の夜明けを拝む資格は与えられない。







コメント