イラン原油輸送の拠点「ハルク島」の話

米・イスラエルのイラン攻撃が開始されて以来、世界の原油・ガス輸送の約20%が通過するホルムズ海峡をイラン革命防衛隊(IRGC)が海上封鎖を実施すると警告したこともあって、世界の原油市場は大混乱し、原油価格が急高騰するなど、世界経済に大きな影響を与えてきている。IRGCの広報担当は「米国とその同盟国には1リットルの油もここを通過させない」と脅迫している。

イランの原油輸送拠点ハルク島、NASA公式サイトから

イラン攻撃と原油価格問題が世界のメディアで大きく報道されるたびに、「ハルク島」(Kharg)という名前が頻繁に登場するようになった。イランの原油輸出の90%が同島を経由して輸送されることから、同島への関心が高まったきたからだ。

コラムで使用した同島の写真は2003年1月12日、 国際宇宙ステーションに搭乗した宇宙飛行士が撮影した高解像度写真だ。タンカードック施設、タンク、その他のインフラの詳細を示している。水面のサングリントは海面の少量の油を際立たせ、局所的な海流の方向を明らかにしている。

ハルク島はペルシャ湾の北西部に位置し、戦略的に極めて重要な場所にある。島は南北に約8km、東西に約4kmの長方形に近い形で、面積は約20k㎡~32k㎡。島の中央部は丘陵地になっており、最高地点は約82m(270フィート)。現在は、その大部分が石油貯蔵タンクやパイプライン、巨大タンカーが接岸できるシーアイランド(積み出し施設)で占められている。イラン本土の港町ゲナーヴェから西へ約32km(20マイル)、ブーシェフルから北西へ約48km(30マイル)の距離にある。

イラン沿岸の海域は浅瀬であるため、大型タンカーはアクセスできない。輸出用の原油は海底パイプラインで約25キロメートル沖合にあるハルク島に輸送され、そこで3つの石油ターミナルで処理された後、ホルムズ海峡を越えて出荷される。ハルク島の石油タンクの貯蔵容量は約2,800万バレル。数十の貯蔵タンク、両側の超大型タンカーを積み込むために深海まで伸びる長い突堤、そして滑走路は、空爆の格好の標的となっている。

ハルク島はイランの国家収入の大部分を支える経済的支柱だ。しかし、米軍とイスラエル軍はこの島にある巨大な石油ターミナルへの攻撃をこれまで避けてきた。中東専門家は、「ハルク島攻撃は戦争の今後の展開と世界経済の両面において非常に危険だ」と警告を発しているほどだ。。

2月末には、島近辺での爆発の報道が石油市場の懸念を引き起こした。ワシントンの戦略国際問題研究所(CSIS)の推計によると、島への攻撃や原油輸出の混乱は、価格を1バレルあたり約100ドル押し上げる可能性があるというのだ。

米国とイスラエルは、8日にテヘランの主要燃料貯蔵所を含むイラン国内の他の標的への攻撃を継続しているが、ハルク島は今のところ完全に稼働している模様だ。フィナンシャル・タイムズ紙は「タンカー追跡プラットフォームのデータによると、先週、複数の巨大タンカーが同所で燃料を積み込んだことが示唆されている」と報じている。

米国とイスラエルは共に、ハルク島への攻撃には高いリスクが伴うことを認識している。米軍がハルク島を攻撃し、原油関連インフラが破壊されれば、原油価格がさらに上昇する可能性があり、イランは湾岸諸国の石油インフラへの報復攻撃を大幅に拡大する可能性が出てくる。さらに、政権交代が発生すれば、イランの後継政権は経済基盤を失い弱体化することは必至だ。トランプ米政権はイランの戦後経済の基盤を破壊したくないはずだ。また、原油価格のさらなる上昇を懸念している。

一方、イスラエル側は、イランのハルク島のすべての油田とエネルギー産業を破壊したいはずだ。イラン経済の崩壊と政権の転覆につながる絶好のチャンスと見ているからだ。

すなわち、イスラエルと米国は対イラン攻撃では初めからその狙いが異なっているのだ。ハルク島への対応で米国とイスラエル間で今、激しいやり取りが舞台裏で展開しているはずだ。

大型タンカーが積み込み作業が行われれるハルク島 Wikipediaより


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月12日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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