イラン情勢で駆け込み給油をしてはいけない

黒坂岳央です。

中東情勢の緊張が高まり、ガソリン価格の上昇懸念が広がると、日本ではしばしば「駆け込み給油」が起きる。今回も例外ではない。ニュースやSNSでは、ガソリンスタンドに長い列ができている様子が報じられている。だがこの行動は経済的に合理的なのだろうか。

結論から言えば、基本的に合理性は低い。簡単に言い換えると「駆け込み給油は損をする可能性が高い」と言える。もちろん、これは1つの予測なので「短期的に大幅値上げが確実」という状況なら、限定的に合理性が生まれることもある。そこを踏まえても駆け込み給油は損の可能性が高い。

SAND555/iStock

20円値上げしても満タン差額は1000円

仮にガソリン価格が1リットルあたり20円上がるとする。一般的な自家用車の燃料タンクはおおむね50リットル程度である。軽自動車なら30リットル程度だ。この場合、満タン給油した際の追加負担は次のようになる。

普通車(50L)20円 × 50L = 1000円
軽自動車(30L)20円 × 30L = 600円

つまり、20円の値上げがあっても満タン1回あたりの差額は、普通車で1000円程度に過ぎない。日本のガソリン消費は国民1人あたり年間約357L(2023年)となっている。ざっくりいうと、「自動車に乗る人は月1回満タン」と仮定して大きな間違いはない。

20円という大幅上昇でも月1000円の負担増加という計算だ。自分自身も毎日車を運転してガソリンを使っているので、確かに痛手ではある。だが直ちに生活が破綻するようなレベルではない。

仮に50円、100円といった大きな値上げが起きても、それ自体は駆け込み給油の合理性とは別の話だ。

行列コストの方が高くなる

「それでも早く給油しないとドンドン値上がりになる!」という声もありそうだ。だが、それは駆け込み給油におけるコストを見ていない。コストとはなにか?行列にならぶ時間である。

例えば駆け込み給油が増えてガソリンスタンドで30分待つとする。仮に時間価値を1時間1000円とすれば、30分は500円の機会損失に相当する。

つまり1000円節約するために500円分の時間を失うという状況になりかねない。こうなると2回満タンにしたら損益分岐点に達する。時給が高い人はさらに割高だ。

経済的には「確実な損失」を払って「不確実な利益」を取りに行く構図であり、合理性は低いと言わざるを得ない。このため、駆け込み給油は年金生活者など、時給概念がない人以外は「ほぼ確実に損をする」行動なのだ。

ガソリンは節約できない

もう一つ重要なポイントがある。ガソリンは節約出来ないという性質がある。そのため、駆け込み給油というタイミング投資はほぼ無意味に終わる。

まず、ガソリンは需要が減りにくい財である。通勤、物流、生活移動といった用途は簡単には削減できない。引っ越したりEVに乗り換えるのは明らかに非合理的だ。

しかもトイレットペーパーのように「値上げ前の買いだめ」がほぼ不可能だ。つまり短期的、長期的に価格が上がっても、結局どうやってもガソリンを買い続けることになる。

駆け込み給油は本質的には未来の給油を前倒ししているだけであり、長期的な支出はほとんど変わらない。

最も合理的な行動は行列には並ばず、普段より少し早めに給油するくらいだろう。例えば通常はタンク残量が4分の1で給油している人なら、半分の段階で給油すればよい。これなら行列を避けられ、さらなる値上げリスクを多少ヘッジできるので両方のメリットを得られる。

仮に価格が逆に下がれば損をするが、満タン補給ではないのでダメージは限定的だ。

値上げによる節約額は数百円から数千円。一方で行列による時間コストは確実に発生する。つまり利益は不確実、コストは確実という構図だ。SNSやニュースで駆け込み給油の写真を見て並ぶのはほとんどの場合、損をするのだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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