ニデック不正会計の第三者委員会報告書が公表される5日前。同社名誉会長の永守氏は、“すべてのステイクホルダーの皆さんへ ”と題されたメッセージを発信した。冒頭に以下の記述がある。
「まもなく、第三者委員会報告がまとめられると聞いています。まさにこれからが、ニデック再生の正念場であり、剣ヶ峰です」
まるで他人事だ。第三者委員会が糾弾したのは「ニデック」ではない。永守氏自身である。
「最も責めを負うべきなのは、永守氏であると言わざるを得ない」
報告書はこう結論付けた。不正会計の影響額は1397億円。調査はまだ続いており、さらに2500億円規模の費用(減損)が発生する可能性もある。
報告書によると、会計監査人に不正確な情報・ミスリーディングな情報を与え、都合の良い意見を引き出そうとする。虚偽説明・必要な証拠書類の隠蔽を行う。このような様子が「至るところ」で観察されたという。これらの不正は過度の業績プレッシャーから発生している。そして、そのプレッシャーの起点にいたのが永守氏だった。

ニデック公式サイトより
メールで罵倒・人前で罵倒
利益を出す人が偉い。赤字は罪。これが永守氏の哲学だ。罪を犯した者には罵倒メールが飛んでくる。
「君ほど指導しがいのない人物は日本電産創業以来初めてである」(経営幹部宛)
「君を頼りにしてきた私が馬鹿だったようだ!」(創業メンバーの小部氏宛)
「全員やめてくれや!」(業績管理部門宛)
人前でも罵倒する。22年4月、当時後継者と目されていた関潤氏をCEOからCOOに降格させ、自身がCEOに復帰したときの記者会見で、永守氏は関氏本人を前にこう言い放った。
「業績が上がらん人を後継にするわけにはいかんから」
人事権をちらつかせることもある。
「〇〇関係では、君の降格案が取り沙汰されている」(事業部門を統括する経営幹部宛)
「大きな実績を上げて貰わないとNIDECでの任務は終了となると思っておいてほしい」 (国内グループ会社社長宛)
こういったプレッシャーに潰される役員も少なくない。
「このままでは心がどんどん壊れていき、家庭でも笑えることが出来なくなりそうです。申し訳ございませんが、日本電産を辞めます。もう会社に行こうとしても心と体が拒否をしてどうにもなりません」(国内グループ会社CFO)
「心底この会社で働くのが嫌になっております。ストレスで最近は夜眠れない日が続いており、心療内科にも通い始めているのですが、そろそろホントに限界かも知れません」(グループ会社CFO)
東芝の「プレッシャー」と酷似
このようなプレッシャーのかけ方には既視感がある。東芝だ。
「チャレンジ」と呼ばれる努力目標値の達成を強要した結果、費用の先送り(原発のれん償却回避)、収益の前倒し(バイセル取引)といった粉飾決算が行われた。粉飾発覚後、債務超過を防ぐため、アクティビストの出資を受け入れたものの、経営方針をまとめることができず、最終的に上場廃止となっている。
かつて、永守氏は、この東芝の「プレッシャー」について問われ、以下のように答えている。
「(プレッシャーをかけるのは)当たり前じゃないかと思いますが。では、みんな自由にしなさいとか、計画未達でよいとか言ったら、どこの会社もつぶれますよ。どんな名馬でもムチで尻をたたかれなければ走りません」
「ただ、プレッシャーをかけるほうも、100ぐらいの力を発揮している者には130までいくなと考えてプレッシャーをかけるようにしないとだめでしょう。100しか力がない人に200やれといったら、人間というものは弱いので、不正をするかもしれません」
『逆説の日本経済論』/株式会社PHP研究所
人間は弱い。追い詰められれば不正する。永守氏はわかっていた。にもかかわらず、高すぎる目標を課し追い詰め続けた。
その背景には、
「一番以外は全部ビリ」
こう公言してはばからない「強さ」への執着がある。
愛読書は自著
子どもの頃から「一番」。騎馬戦では必ず大将。野球ではピッチャー。劇では主演。学校写真は校長の隣。風呂屋の下駄を入れる箱も、飛行機の座席番号も「一番」を選ぶ。
愛読書は「自著」。毎日のようにページを開き、そのたびに「なるほど」「そのとおりだ」と感心しているという。こうして、自身の考えを先鋭化・強化してきた永守氏だからこそ、部下の弱さに気づけず、自社の実力を見誤ったのではないか。
結果、役員はおろか、招聘した後継者候補たちまでニデックを去っている。旧カルソニックカンセイ(現マレリ)元社長の呉文精氏、シャープ元社長の片山幹雄氏、日産元幹部の吉本浩之氏。そして、元日産の関潤氏だ。先の22年6月の記者会見で永守氏は
「逃げない限り後継者として育つやろ」
と述べたが、関氏は「育つ」ことなく3か月後にニデックを去った。翌23年1月には鴻海(ホンハイ)精密工業の最高戦略責任者(CSO)に就任している。ニデック公式サイトには、「辞任の理由 業績悪化の責任をとるため」という記載がいまだ残されている。
永守氏は、今後本格的に人材育成に挑戦していくという。挑戦の前に、ぜひ第三者委員会報告書に目を通していただきたい。248ページに及ぶ厳しい提言は、これからの人材育成にきっと役立つはずだ。
【参考】
第三者委員会調査報告書
『逆説の日本経済論』/株式会社PHP研究所
『日本電産永守イズムの挑戦』/日本経済新聞社
『成しとげる力』永守重信/著 サンマーク出版







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