トランプ関税の現在地

The White House より

米最高裁は2月20日、トランプ大統領が昨年4月に米国の貿易赤字を「国家非常事態」と宣言し、緊急事態法(IEEPA)を用いて貿易相手国に一方的に課した大規模な関税を違法と判断した。返還について6対3の判決の多数意見は言及しなかったが、トランプが任命したカバノー判事は反対意見の中で次のように述べた

一部の輸入業者は既に消費者などにコストを転嫁している可能性があるものの、米国はIEEPA関税を支払った輸入業者に数十億ドルを返金しなければならない可能性がある。(昨年11月の)口頭弁論で認められたように返金手続きは「混乱」を招く可能性が高い。

ベッセント財務長官はこの判決を受けて、一般市民が直接的な補償を受ける可能性には懐疑的な見方を示しているが、シューマー上院民主党院内総務は「ようやく家庭や中小企業が当然受けるべき救済が与えられる」とし、「(トランプ大統領は)この無謀な貿易戦争を永久に終わらせるべきだ」と述べた。

28年の大統領選挙で共に民主党の有力候補と目されるプリツカー・イリノイ州知事とニューサム・カリフォルニア州知事も翌21日、返金を求める声明を出した。ニューサム知事は、米国の有権者のポケットから出た金は返金されるべきだとして、こう主張した。

この関税は違法な現金強奪に過ぎず、価格を引き上げて働く家庭を傷つけ、長年の同盟を破壊し、彼らを脅迫するためのものだった。違法に取られたドルはすべて、利子付きで即座に返金されるべきだ。さっさと払え!

『ブルームバーグ』の分析では、目下1500件超の関税還付訴訟が係属中で、その大半は最高裁が昨年11月に口頭弁論を開いた後に提起された。が、これは還付を求める可能性がある企業の数から見ればほんの一部に過ぎず、政府によれば25年末までに関税を支払った輸入業者は30万社余りに上る。

米国際貿易裁判所(CIT)は昨年12月、最高裁の判断が出るまで通関手続きを停止するよう求めた企業側の申し立てを退け、政府の保証がある以上、裁判所が介入する必要はないと説明した。司法省もCITが当局に関税の再計算と差額の返金を命じる権限を持つことに異議を唱えないとしている。

もっとも通商分野の弁護士は、還付を巡る争いの可能性を政府が完全に排除したわけではないと警告した。司法省も過去数カ月、最高裁で敗訴した場合でも、還付請求に関する「個別の訴えに異議を唱える権利を留保する」とCITに表明してきていた(前掲『ブルームバーグ』)。

トランプ大統領も、還付の問題は訴訟で争う必要があるとし、法的手続きは今後5年間にわたって続く可能性があると述べた。この発言の通り、還付問題は引き続き司法の場で争われることになる。

但し、直接還付を受けるのは最高裁判決以前に還付訴訟を起こした企業であり、シューマーの言う「家庭」やニューサムの言う「有権者」ではなく、関税を納めた輸入業者であると言うことだ。が、輸入業者に還付された関税を消費者や輸出元にどう還元するのか、今のところ全く見えない。

そんな中『時事通信』が3月10日、「独VW、純利益37%減 米関税直撃で」と報じた。米関税で25年通期に約50億ユーロの損害を被ったとある。日本円で約9千億円だ。『日経』も2月12日、「自動車7社の関税影響2.1兆円 4〜12月、利益3割押し下げ」との記事で、トヨタの4〜12月期の関税影響額が1兆2千億円、7社合計では2兆円を超えるとした。

トランプ関税が話題に上り始めた昨年1月、ベッセント長官が中国は、米国市場のシェアを維持するために価格を下げ続けるでしょう」と中国の関税対応を予想した。が、某ワイドショーの名物コメンテーターは「関税は米国民が払う」と公言していた。果たして結果は、ベッセント発言の通り輸出元も関税の一定部分を値下げによって負担していたようだ。

つまり、輸入業が納めた関税額は、輸出元と輸入業者と消費者とで負担しているのである。架空の例で説明すると、100万円の輸入車に10%の関税が乗って110万円になり、他方に100万円の米国産車があれば、消費者の何割かは安い方を選ぶ。そこで輸入車側は、次のような対応をしたと推定できる。

輸出元は従来90万円だった仕切り値を85万円に値下げ(5万円負担)し、輸入業者は口銭10万円を17万円に増やしてそこから関税10万円を収め(3万円負担)、消費者は102万円(85+17)で乗り慣れた輸入車を買った(2万円負担)のである(関税は厳密には10%ではないが、便宜上無視した)。

その10万円の関税が25年4-12月に累計1700億ドル(約26兆円)に積み上がり、その内の2兆円を日本の自動車メーカー7社が負担したという訳である。然らば、米国政府が1700億ドルを、関税を納めた輸入業者に還付するとして、その内の2兆円は日本メーカーに戻されるべきであろう。

が、それはB2B(企業対企業)の取引だからさして難しくない。が、消費者が負担した2万円分(1700億ドルの幾らかは不明)を、輸入業者は一体どのような方法で還付するのだろうか。カバノー判事が指摘する「混乱」やトランプが「5年間続く」と言う意味の中には、このことが含まれるように思う。

そう考えると、最高裁判決までに徴収した関税の消費者への還付は、トランプ大統領の在任期間には具体化しない可能性が高い。トランプ政権は関税収入を当て込んで減税やら補助金やらを予定していた訳だから大いに厄介な事態である。そこで直ぐさま別の法律を使ったリカバリー策を打った。

2月24日に通商法122条に基づいて発動した一律10%の追加関税である(税率は同日15%にup)。同法は150日間最大15%の関税を課す権限を大統領に与えるが、議会の承認がなければ150日後に失効すると『BBC』は記す(議会が承認すれば150日以上に延長可能かどうかには触れられていない)。

こうした事情からトランプ政権は3月11日、16の主要貿易相手国・地域に対し、通商法301条に基づく不公正な貿易慣行の調査を開始することを発表した。グリアUSTR代表は、122条が失効する7月までに是正案を含めて完了したいとし、次のように述べた(12日の『ロイター』)。

大幅かつ持続的な貿易黒字や低稼働率、あるい⁠は未活用の生産能力など、さまざまな製造業分野において構造的な過剰生産能力や生産量を示すとみられる証拠がある国・地域に焦点を当てる。

調査の対象国は、中国、EU、インド、日本、韓国、メキシコ、台湾、ベトナム、タイ、マレーシア、カンボジア、シンガポール、インドネシア、バングラデシュ、スイス、ノルウェーとなっていて、なぜかカナダは含まれていない。

グリア氏は12日、60カ国以上を対象に強制労働によって生産された製品の輸入禁止に向けた301条に基づく追加調査を開始するとした。米国はバイデン政権下で成立した「ウイグル強制労働防止法」に基づき、中国新疆ウイグル産の太陽光パネルなどの輸入を規制したが、同様の措置が他国にも拡大される可能性がある(前掲『ロイター』)。

来る高市・トランプ会談の議題は、この関税問題を始め、イラン戦争、台湾有事、対米巨額投資など実に盛沢山、中でも重要なのは中国が絡む台湾有事だ。そこで、ここ最近のトランプ政権によるベネズエラ・イラン対応や301号の「追加調査」などに通底するのは「対中国」、高市総理に隙は窺えない。

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