
数字が語る「政策破綻」の現実
行政の役割は、予算を消化することではなく、それによって区民生活を向上させることにあります。しかし、現在の中野区政において、その大原則が揺らいでいます。
中野区の最上位計画「中野区基本計画(2021-2025年度)」の進捗状況(2024年度時点)を見ると、驚くべき実態が浮かび上がります。
- 政策の成果指標(20指標・表1):達成率 0%
- 施策の成果指標(112指標・表2):達成率 16.9%
- 政策・施策に基づく主な事業(401事業・表3):達成率 92.5%
注目すべきは「C」と「A・B」の乖離です。C(区が実施する事業)は9割以上着手しているにもかかわらず、その結果としてのAの政策の成果はゼロ、Bの施策の効果はほぼありません。

表1 A.政策の成果指標の進捗状況(すべての指標が低下し、達成率0%)

表1 A.政策の成果指標の進捗状況(すべての指標が低下し、達成率0%)

表2 施策の成果指標の進捗状況
つまり、「予算は使ったが、効果は出ていない」という、投資として見れば極めて深刻な不全状態に陥っているのです。
そして、ろくな反省もなく2026年度より新たな中野区基本計画(2026-2030年)がスタートします。
「他責」の検証と「雪だるま式」の予算膨張
さらに問題なのは、この結果に対する区の姿勢です。令和8年第1回定例会において、指標が改善しない理由を質したところ、「社会情勢」に求め、事業そのものの妥当性や執行能力への反省が見られませんでした。
表3に示す成果指標の未達成の理由において、例えば、施策「人権と多様性」に対して、指標として「社会全体における男女の地位が平等だと思う人の割合(中野区区民意識・実態調査)」があります。

表3 「中野区基本計画における成果指標の未達成項目とその理由」の一部(中野区議会令和8年予算特別委員会・要求資料総務97)
ベースの数字が14.5%で目標値は20%ですが、2024年度においては14.8%に留まっています。その数字が上がらない理由は「男女共同参画事業の拡充により取り組みを推進したことで、指標の数値は上昇傾向にあるが、いまだ社会全体においてはどの年代でも男性優遇が高い状況が続いており、ジェンダー平等意識の低さ等が推測され、目標達成に至っていない」としています。
ここから読み取れるのは、①予算を増やして、拡充をしたという事実、②たった0.3%という誤差ともいえる数字を上昇と判断すること、③社会が悪いからどうしようもないという他責の理由です。
ほかの指標においてもコロナ禍だった、多様化が進んだ、物価高騰、人材不足、人材育成が不十分、アンケート手法が悪いなど事業のせいではなく、自責ではなく、他責の理由が並んでいます。改善マインドが欠如したまま、「成果が上がらないのは予算が足りないからだ」という論理で新規・拡充事業が繰り返されています。
「雪だるま式」の予算膨張と「焼き太り」する体質
区はこれまで指標の目標達成を名目に、過去に類を見ない規模で「新規・拡充等事業」を次々と計上しています。
図1はソフト事業費の推移で、ソフト事業費とは職員人件費、借金返済、生活保護などの扶助費、施設整備などのハード事業費以外の区民サービスにかかる費用です。その中で、一般事業費は区民サービスの経常経費で、新規・拡充等事業は当該年度で新たに始めた事業です。

図1 ソフト事業費の推移
既存事業の廃止(スクラップ)が進まない中、新規予算が翌年度には経常経費として固定化される「雪だるま式」の膨張が続いています。まさに、実証性の乏しい仮説に巨額を投じ続ける「焼き太り」の構造です。
図2にソフト事業費と一般財源歳入の推移を示します。ソフト事業費は図1の数字を足し合わせたものです。

図2 ソフト事業費と一般財源歳入の推移
区歳入のベースとなる一般財源歳入に対し、ソフト事業費の占める割合は右肩上がりであり、24.7%だった数字が1.5倍の37.0%となり、結果的に施設整備に回すお金が減ることになっています。ここで令和3年度の一般財源歳入が減少しているのは、コロナ禍で歳入が激減すると仮定した予算だったためで、実際には大きく減ることはありませんでした。
施設整備費の「先送り」という禁じ手
肥大化したソフト事業費を捻出するため、区はハード面(施設整備)で危うい操作に手を染めようとしています。2026年4月改定の「中野区区有施設整備計画」では、建物の耐用年数設定を従来の60年から80年へと強引に延伸しました。これにより、直近20年間の整備費を453億円「見せかけ上」削減する一方、その後の20年間で360億円の負担を増額させる計画となっています。

図3 施設整備費の後年度への先送り
図4に示すように20年後、中野区の子どもの人口は現在よりも減少していると推計されています。人口が減り、現役世代の負担が増す未来に向けて、老朽化した施設の建て替え費用を先送りする。これは「子育て先進区」を掲げる区の姿勢と真っ向から矛盾する、次世代への重大な負担転嫁にほかなりません。

図4 中野区の年齢3区分別人口推移(図3の前後半と同期間)
「基金枯渇」という足音
現在の財政運営には、不測の事態に対する弾力性が全くありません。物価高騰や工事インフレを考慮しない楽観的な財政試算(図の青線)に依拠していますが、現実的なインフレ率、過去の傾向をとらえたソフト事業費の増額を加味すれば、基金残高は急激に下降線をたどります。
基金の底突きは、かつて中野区が経験した「職員給与カット」や「行政サービスの一斉削減」という悪夢の再来を意味します。

今こそ、客観的なエビデンスに基づく「事業精査」を
無計画な事業拡大を直ちに停止し、一つひとつの事業が本当に区民生活の向上に寄与しているのか、客観的なエビデンスに基づき徹底的に精査すべきです。「社会情勢」を言い訳にするのではなく、数字に向き合い、持続可能な区政へと舵を切らなければなりません。
中野の未来を守るためにいま求められるのは「放漫財政」への決別と、責任ある財政運営への転換です。







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