中国の全国人民代表大会(全人代)の最終日(3月12日)に可決された「民族団結進歩促進法」に対し、宗教団体、少数民族グループ、人権団体からは、民族の多様性を損ない、同化政策を加速させるものとして強い懸念と非難の声が上がっている。人権擁護団体は、新法がウイグル族などの少数民族をさらに疎外する可能性があると警告している。

中国共産党政権のチベット人弾圧を訴える亡命チベット人たち(2012年2月8日ウィーン市内で撮影)
新たな「民族団結」法は、習近平政権が掲げる「中華民族共同体意識」を強化し、少数民族への統制を法的に裏付けるために、社会的結束を重視し、「暴力的なテロ活動、民族分離主義活動、宗教的過激主義活動」への関与を犯罪とする内容が盛り込まれている。中国は公式に55の少数民族が存在、各民族は数百の言語や方言を話す。政府の政策はすでに、チベットや内モンゴルなどの少数民族が多い地域での授業に、中国語を使用するよう指示している。新法のポイントは、中華民族としての帰属意識の義務化と「団結を損なう行為」への厳罰化だ。同法は2026年7月1日に施行される予定だ。
中国の「民族団結進歩促進法」に対し、欧米諸国や国際社会からは、この法律が「民族の団結を妨げる行為」を処罰の対象としている点に注目している。「中華民族としての共同体意識の強化」という目的が、少数民族のアイデンティティを奪い、漢民族への同化を強制するものであるとの批判が専門家や欧米メディアから上がっている。また、法律が歴史認識についても触れていることから、当局の意に沿わない歴史的見解や表現が処罰されることで、「言論の自由」がさらに狭まることを危惧する声が出ている。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)の中国担当調査員ヤルクン・ウルヨル氏は、新法について、「少数民族が自らの言語を使用する権利を保障した鄧小平時代の政策からの大きな逸脱」と表現し、この法律を「思想統制の強化」であるとし、平和的な表現や文化的自律性が犯罪化されるリスクを警告している。新疆ウイグル自治区、チベット自治区、内モンゴル自治区など、少数民族人口が多い地域では、新たに発表された規制は既に現実のものとなっている。
世界ウイグル会議(WUC)は「この法律はウイグル人、チベット人、モンゴル人への抑圧を深めるものであり、長年の同化政策を国家の法的枠組みに正式に組み込んだものだ」と非難している。
宗教に関連する組織や専門家は、「信仰の自由」へのさらなる介入を懸念している。新法は、宗教活動が「民族の団結」や「国家の安全」を損なうと判断された場合に法的措置をとる根拠となる。宗教的な教えよりも国家のイデオロギーを優先させる圧力が強まると見られている。
興味深い点はローマ・カトリック教会総本山バチカンから新法に対して批判の声が挙がっていないことだ。バチカンが慎重な姿勢を保っている背景には、①バチカンと中国政府は、司教任命に関する「暫定合意」を結んでおり、その更新や維持のために外交的な摩擦を避けたいこと、②「中国化が宗教の「中国化(Sinicization)」を加速させる懸念がある一方で、バチカンは中国国内の信者の安全と教会活動の継続を優先し、公の場での直接的な批判を控えている、等が考えられる。
パロリン国務長官(バチカンのナンバー2)は過去、「中国化」をキリスト教の「インカルチュレーション(文化的受肉)」、つまり「その土地の文化に教義を適応させること」と解釈できるという旨の発言をしている。フランシスコ前教皇は「偉大な中国国民」への敬意を繰り返し表明しており、中国を「敵」ではなく、世界の安定のための「対話相手」として位置づけていた。
バチカンの沈黙について、「道徳的権威であるはずのバチカンが、ウイグル人やチベット人、そして信者の人権侵害に対して沈黙することは、教会の信頼性を損なうものである」といった批判の声が聞かれる。
中国は「宗教の中国化」を主張しているが、「宗教の中国化」とは、一言で言えば「宗教を共産党の指導と社会主義思想に従わせ、中国独自の文化に同化させる」という政策だ。習近平指導部が2015年頃から本格的に提唱し始めた方針で、「神」や「経典」よりも「党」が上であり、宗教的な教えよりも、中国憲法や法律、共産党の政策を優先させることだ。聖書やコーランなどの経典の内容を、社会主義の価値観に合うように読み替え、解釈し直すことが求められている。
また、 教会や寺院に掲げられていた宗教的シンボルを、中国国旗(五星紅旗)や習近平主席の肖像画に置き換える動きが進んでいる。イスラム寺院のドームやミナレット(尖塔)を取り壊し、中国伝統の瓦屋根(仏教寺院のようなスタイル)に改築させている。キリスト教会の屋根から十字架を撤去する、あるいは目立たないようにする措置が各地で行われている、といった具合だ。
キリスト教やイスラム教など、国外に起源や指導部を持つ宗教に対し、外国からの資金援助や介入を徹底的に拒否する。「外国勢力が宗教を利用して中国を分断しようとしている」という警戒心が背景にある。
共産党にとって、党のコントロールが及ばない「集団(宗教団体)」は、体制を脅かす潜在的なリスクだ。特に、少数民族のアイデンティティと結びついた宗教(チベット仏教、ウイグル族のイスラム教など)は、「団結」を乱すものとして厳しく同化が進められている。ラマダン(断食)の禁止や、イスラム風の名前を付けることの制限、さらには「過激思想の除去」という名目での再教育施設への収容が行われている。
いずれにしても、中国にとっての「宗教」は、個人の救済のためではなく、「国家の安定と党への忠誠」を支えるための道具であることが求められている。
中国は、欧米メディアや非政府組織による同法への批判を「傲慢だ」と一蹴した。国営ニュースチャンネルCGTNはウェブサイト上で、「彼らは論争を煽り、否定的な言説を広め、中国の信用を失墜させようとすることで、中国の内政に干渉している」と述べている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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