顧客本位の業務運営の見地から、生命保険業界の現状について、金融庁が特に問題にしてきたのは、銀行等の販売力を前提にした営業戦略に適合した商品戦略、生命保険特有の税制優遇措置のもと、金融商品に薄い死亡保障を付した形式だけ保険の濫造、単なる金融商品であれば明瞭だったはずの手数料等の不透明化などである。
更には、根本的な疑念として、生命保険の基本中の基本に立ち返ったとき、業界全体として提供されている死亡保障の付保額の総額は、被保険者全体の家計の実情に照らして適正な額を大幅に超過しているのではないかという問題がある。

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昭和の時代には、扶養家族として、専業主婦に複数の子供がいたわけだから、基準となる保障額が大きかったうえに、所得の上昇に比例して、生活水準が上昇していたので、必要保障額も上昇していたのである。そのなかで、生命保険業界は、死亡保障の量的拡大により、成長できたわけである。
しかし、現在では、少子化、共働きが普通となり、状況は激変している。また、住宅ローンがあれば団体信用生命保険で住宅が資産として残ることなど、死亡保障の必要性は大きく低下し、将来に向かっての成長性にも限界がある。そうしたなかで、旧態依然たる量的拡大の営業がなされれば、死亡保障が過剰になることは避け得ない。
他方で、生存保障の必要性は上昇している。つまり、公的年金を補完して、豊かな老後生活のための原資の形成である。この目的で、生命保険を使うのなら、個人年金保険の終身年金という選択肢があり得るが、これでは物価変動の危険には対抗できない。また、豊かな暮らしというのは個人の生き方の問題だから、原理的に個人主義的であるはずであり、生命保険の相互扶助原理になじまない。実際、金融庁は、生命保険ではなくて、就労期間中の投資信託による超長期積み立てを推奨しているのである。
では、生命保険において、成長分野は医療保険くらいであろうか。医療の高度化は、医療費の自己負担の高額化を意味するから、医療保険は重要な成長分野である。しかし、医療費の補償よりも治療を確実に受けられることのほうが重要であり、更には、治療よりも病気にならないことのほうが重要なのであって、ここに、生命保険に限らず保険一般に通じる保険の本質が露呈するのである。つまり、保険の金銭補償だけでは問題解決にならず、事故防止が徹底されれば保険の必要性が低下していくということである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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