米保守派の論陣を代表するウォール・ストリート・ジャーナルは、イラン危機の開戦当初から一貫して強硬路線を支持してきた。その主張は最近の論説でも繰り返されている。
同紙は、トランプ政権によるイランとの交渉に対して強い懐疑を示し、「体制との取引は問題の解決ではなく延命にすぎない」という立場を明確にしている。交渉による妥協ではなく、圧倒的な圧力によってイラン体制そのものの変質、あるいは崩壊を促すべきだ、というのはWSJの一貫した論理である。

トランプ大統領とヘグセス戦争庁長官 ホワイトハウスXより_10
さらに同紙は、米国が提示しているような核放棄やミサイル制限を含む包括的合意についても、イラン側に時間と余地を与える危険な幻想にすぎないと批判する。実際、米国は核施設の解体やミサイル開発停止など厳しい要求を突きつけているが、イラン側は強硬な対抗条件を提示し、交渉は平行線をたどっている。
このように、WSJの論調は開戦当初から現在に至るまで一貫している。すなわち、「中途半端な外交は失敗し、力こそが解決をもたらす」という信念である。
しかし、この強硬路線は重大な戦略的盲点を抱えている。
それがホルムズ海峡の問題だ。
世界のエネルギー輸送の要衝であるこの海峡は、単なる地理的ボトルネックではない。イランにとっては、国家の存続を賭けた最終的な抑止手段であり、非対称戦争の中核をなす戦略資産である。
WSJの議論は、軍事的優位の確立が秩序の回復につながるという前提に立つ。しかし現実には、仮に米国が戦術的勝利を収めたとしても、イランは海峡封鎖、機雷敷設、無人機攻撃、さらには代理勢力による攪乱といった手段で抵抗を継続する可能性が高い。
その結果として生じるのは、明確な勝利ではない。むしろ、ホルムズ海峡が常時危機にさらされる「半恒久的戦場」へと変質する事態である。
言い換えれば、軍事作戦の帰結次第では、この海峡そのものが長期的に「人質化」される。
さらに問題なのは、WSJ型の強硬路線が外交的選択肢を構造的に狭める点にある。圧力の最大化は相手の譲歩を引き出すどころか、体制の結束を強化し、妥協の余地を奪う傾向がある。
現にイランは、米軍撤退や賠償といった高いハードルを掲げ、交渉条件を引き上げている。
歴史が示す通り、中東における軍事的成功はしばしば戦略的失敗へと転じる。イラク戦争はその典型例であり、「勝利後の秩序設計」の困難さを物語っている。
WSJが唱える強硬路線は、短期的には明快で魅力的に映る。しかし、その延長線上にあるのがホルムズ海峡の恒常的不安定化であるならば、その代償はあまりにも大きい。
問われるべきは、「イランに勝てるか」ではない。その勝利が、どのような世界を残すのかである。もしその答えが、「世界経済の生命線が恒久的な危機にさらされる状態」であるならば、強硬路線は戦略ではなく、単なる危険な賭けにすぎない。







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