幸せになる3つの自由「お金、時間、そして人間関係」

黒坂岳央です。

FIREを多くの人が憧れている。20代の若い世代はもちろん、40代以降の中高年の人も「一日も早く仕事をやめてのんびりしたい」といっていたりする。

まるでお金と時間の自由があれば幸せになれる、と言わんばかりだが、実際にはそれだけで人は幸せになることは出来ない。極論をいえば、年金生活になれば実現するわけだが、多くの場合、そのような生活が幸せとは限らない。

お金、時間の自由の他に必要なものがあると思っている。持論を述べたい。

maroke/iStock

FIREの「やり方」は再現できる

FIREの方法論そのものは、すでに多くの人が言語化している。基本的なロジックはシンプルだ。

収入を増やし、その余剰を投資に回し、資産所得が生活費を上回った時点で労働をやめればいい。

一方で60代で「もう働かなくていい」状態になるのはFIREではなく、ただの定年退職だ。「70代になって時間とお金の自由を得た!」と言われてもまったく羨ましくない。FIREとは20代・30代でお金と時間の制約から解放されることを指すといえる。

ルートはシンプル、実際にできるかどうかは別だが、まずしっかりと収入を増やす。そして長期投資で堅実に増やす。やり方はこれが最も再現性高く実現できる王道だろう。自分自身も脱サラして独立した上で王道ルートを経てFIREしたので自分の肌感覚としても妥当性は高い。

だが、問題は「その先」である。

FIREのリアル

自分自身の話をする。東京での会社員生活を終え、熊本に移住した後、がむしゃらに働いた。大富豪とはいえないが、とりあえず経済的な不安はなくなった。そこで「もう完全に仕事をやめてみよう」と思って試してみた。

朝から何もしない。消費し、娯楽を楽しみ、ただ時間を過ごす。だが、まったく耐えられなかった。数日で限界が来た。

理由を突き詰めると、消費と受動的な娯楽には幸福の天井が低いという事実にぶつかる。自分一人を楽しませることだけを目的にすると、やることはすぐに尽きる。

旅行も、ゲームも、グルメも、最初の新鮮さが消えれば空虚だ。結局、社会や大切な人に価値を提供することで生まれる喜び、目標を設定してそこに向かう過程そのものが楽しいのだと気づき、また動き始めた。

これは驚くほどFIRE達成者は似たようなプロセスをたどる。誰もが一度は仕事をせずに遊び回り、その生活のつまらなさに絶望して再び労働を始めている。

「労働はクソ。不労所得で生きろ」と提唱する発信者をよく見るが、例外なく彼らは発信活動という不労所得の真逆の労働者をやっている。note、YouTube、ブログ、SNSと媒体や手法は様々あるが、結局やっていることは仕事である。

「いや、これは仕事ではなく遊びだ」と彼らは反論するだろうが、能動的労働が遊びなのであればそれは適正のある仕事についたサラリーマンでも同じ事が言える。ゆえに対価をもらい、パフォーマンスを向上させる努力を継続している以上は間違いなく労働である。

そう、FIREしても満たされずに労働者に自ら戻るのだ。

お金、時間、そして「つながり」

結論をいう。人間は幸せになるには3つの要素が必要だ。すなわち、お金、時間、そして人とのつながりである。最後を否定する人が実に多く、「自分は一人で生きてきたのでFIRE後も人とかかわらず生きていく」という人もいる。

だが、実際には彼らもつながりを消費する。商品サービスの買い物をし、SNSを使い、情報収集をしている。本当に人と一切関わらないなら、無人島で自給自足の生活をして、ネットに一切つながらない生活を求めるはずだが、それをする人はいない。孤独が好きだという人間でも、完全な社会的切断を望む人はいない。

またビジネスマンの中には対面でこそ、人間との関わりを避けるが、マーケットという社会からのフィードバックを求める人もいる。結局、人間は社会的な動物であり、脳は常に意味を求める作りになっているので「社会とのつながりなし」で幸福になるようには作られていないのだ。

科学が示す幸福の本質

ハーバード大学が75年以上にわたって行った研究がある。数百人の人生を追跡し続けた結果、幸福と健康を最も強く予測する因子として浮かび上がったのは、収入でも地位でもなく、人間関係の質だった。

これは大変腹落ちする意見に思える。お金や時間には「飽き」があるが、人間関係にはそれがないと感じるからだ。

心理学には快楽適応という現象がある。人間の幸福度は環境が大きく変化しても、数ヶ月から1年で元のベースラインに戻る。宝くじ当選者の研究でも確認されている事実だ。お金も時間も、慣れれば当たり前になる。

実感としても符合する。10日以上の長期旅行でホテルの豪華な朝食を食べ続けると、シンプルな湯豆腐と白ご飯が恋しくなる日がある。自由な時間も同様で、FIRE生活1週間もすれば「何か生産的なことをしたい」という欲求が自然に湧いてくる。それまで興味がなかったポイ活を急にはじめて、それが楽しく感じたりする。これが快楽適応の正体だ。

だが、人間関係の幸福には飽きない。毎日、家族や地域のコミュニティと交流があり、記事や動画にもコメントがつく交流は楽しい。「煩わしいので一人になりたい」と思ったことがない。しかし逆に今の人間関係がすべて消滅すれば、自分は確実に不幸になることはわかる。

人間は人とのつながりが最重要なのである。無人島で食料と時間を無限に与えられても幸せになれる人はいないのだ。

お金と時間の自由を得た先に何があるかを考えずにFIREを目指すと、達成した瞬間に空虚さと向き合うことになる。本当に必要なのは、労働からの解放ではなく、嫌な関係や無意味な消耗から解放された上で、自分が価値を提供したい相手と関わり続けることだ。FIREの本質はそこにある。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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