赤ちゃんを「待つ」なんて、誰が言い出したのか

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育児書を開くたびに、同じ結論にたどり着く。

「言葉が出るまでは気持ちを読み取ってあげましょう」。

読み取る。読み取るって、どうやって? 泣いている理由が「おむつ」なのか「空腹」なのか「なんとなく不安」なのか、正直わからない。

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わからないまま抱き上げて、あやして、ようやく泣き止んだと思ったら5分後にまた泣く。あの無限ループの中で「頑張って読み取ろう!」なんて言われても、こっちが泣きたい。

でも、最近の研究を知って、ちょっと救われた。というか、根本的に考え方が間違っていたのだと気づかされた。

赤ちゃんは「読み取ってもらうのを待っている存在」じゃない。生まれたその瞬間から、自分のほうから必死に話しかけているのだ。泣き声で、視線で、あの小さな手足のばたつきで。こっちが読み取れていなかっただけで、赤ちゃんのほうはとっくにコミュニケーションを始めていた。

エジンバラ大学のトレヴァーセン教授は、1979年の時点でこれを指摘している。「一次間主観性」という、まあ正直とっつきにくい名前の概念だが、要するに赤ちゃんは受け身じゃない、自分から関わりにいっているということだ。

1979年! もう半世紀近く前の研究である。なのに、いまだに育児の現場では「言葉が出るまで待ちましょう」がまかり通っている。研究と実践のタイムラグ、ここでも健在か。

そういえば、と思い出したことがある。新生児の視力はおよそ0.01〜0.02。焦点が合うのは18〜30cmの距離だけ。これ、授乳中の母親の顔までの距離とほぼ一致する。偶然? いや、そんなわけがない。赤ちゃんは生まれた瞬間から、一番大切な人の顔を見ようとしている。見えないなりに、見ようとしている。その事実だけで、なんだか胸がつまる。

聴覚にいたっては、もっと早い。妊娠7ヶ月で胎児はすでに外の音を聞いている。モントリオール大学の研究(Beauchemin et al., 2011)では、生後24時間以内の新生児が母親の声と看護師の声で脳の反応部位が違ったという。24時間。生まれて1日だ。もう母親の声を「特別な音」として聞き分けている。

運動面もそうだ。赤ちゃんの手足の動きは全部「反射」だと思っていた。ところがノルウェー科学技術大学の研究(van der Meer et al., 2015)によれば、あれは自分の意志で動かしているらしい。水中から突然重力のある世界に放り出されて、まだ体の使い方もわからないのに、「関わりたい」「反応したい」と必死に手足を動かしている。

あのぎこちないバタバタは、赤ちゃんからの最初のメッセージだったのだ。

「読み取れない」と自分を責めていた時間は、無駄ではなかったと思いたい。でも、知っておきたかった。赤ちゃんは待っていたんじゃない。ずっと、こっちに向かって手を伸ばしていた。気づくのが遅れただけだった。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムに編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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コメント

  1. 岡本マヤ より:

    損得と勝負けの違い

    何が損か得か?生まれたばかりの赤ちゃんでもわかる。どうすれば何かをしてもらえるとか。勝負けは大人にしかできない。
    自分の弱気に対して勝つ事ではないかと思うンですよ。