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少子化の理論、データ、政策
三月下旬に、現代日本に見られる多くの社会現象のうち、緊急で重要だと私が判断した「少子化と縮減社会」を標題にした本を刊行した。
とりわけ令和の世になりますます顕著になった「結婚と家族からの逃走」という国民的現象を重視して、長年使ってきた「少子化する高齢社会」に新しく「縮減社会」と命名し、その構造と課題を浮き彫りにしようと試みた。
基本的な認識としてそれは、これまでの「少子化する高齢社会」の一断面ではあるが、異次元の研究を志向する中で、少子化を単なる出生数減少や出生率低下ではなく、資本主義における少子社会変動論に位置づけなおした研究をめざした。
要するに、少子化の現状分析とその対応の両者を理論とデータと政策の三点からバランスをとりつつ考究したことになる。
「ワークファミリーバランス」への転換を
現状分析を受けた喫緊の解決のための政策づくりには、これまた新しい理念である「ワークファミリーバランス」を中心軸として設定した。過去40年間、少子化対策として出生数の増加、年少人口の微増、合計特殊出生率の反転を目ざしたはずの「待機児童ゼロ」と「ワークライフバランス」(前半期は「両立ライフ」)政策は、これらの目標達成には無力であったからである。
そのため時の首相自らが「異次元の少子化対策」を唱道することになった。それを受けて、私も「異次元」の対策を模索して、本書で「新しいワークファミリーバランス」の理念と対策を提唱したのである。
この背景には、40年にわたる「ワークライフバランス」政策の主流が、既婚者の子育て支援に特化しており、その裏側に存在し、しかも増大してきた「単身者=未婚者」への配慮が不足していたという認識がある。何しろいわゆる「若者」の40%がすでに「非正規雇用」で暮らしていて、たとえば橋本の分類ではそのまま「アンダークラス」に分類される事態になってきた。
階級分類
2022年に実施された独自の社会調査による日本の三大都市圏での収集データを使い2025年6月に「階級ピラミッド」(図1)が作成された。そこでは原図にあった「失業者・無業者」、「旧中間階級」、「パート主婦」の3カテゴリーが省略されているが、それでも調査票で集められた結果を基にした現代日本の4大ピラミッドの「個人別の平均年収」と「未婚率」が鮮明に分かる(橋本、2025:28)。

図1 日本の階級構造
出典:『日経ビジネス 徹底予測 2026』日経BP 2025:193.
(注)元データは橋本健二「2022年三大都市圏調査」による。
図1から「新中間階級」の未婚率が28.3%、「正規労働者階級」のそれが31.3%、そして「アンダークラス=非正規雇用」が74.5%というように、階級が下がるほど未婚率が高くなる。
この状態を放置していては、毎年少子化対策の総予算を6兆円も使いながら、「待機児童ゼロ」で保育園を増やしたり、「ワークライフバランス」で子育て中の既婚者に各種の子育て支援金を支出したり、その働き方改革を行っても、少子化対策の効果は限定的でしかなかった。なぜなら、現状分析が正確ではなく、その結果として政策の対象に焦点が定まらず、したがって予算が有効に活かされない歴史が続いてきたからである。
資本家階級の二分割を提言
この橋本のピラミッド図に対して、私は日本全体では3.9%とされた「資本家階級」250万人のうち、0.1%(2500人)ないしは1%(25000人)を別枠の「ピーク資本家階級」として区別することを提案した(金子、2026a)。
なぜなら、零細企業、中小企業、中堅企業、大企業の経営者・役員をすべて「資本家階級」として包括するよりも、むしろグローバルな展開をしている巨大企業の経営者・役員は別枠の「ピーク資本家階級」とした方が現実をより正しく理解できるからである。次の野村総研レポートの用語を使えば「超富裕層」となる。
幸いに、2025年2月に発表された野村総研のレポートでは、図2が公表されていた。これは野村総研が、2023年の日本における純金融資産保有額別の世帯数と資産規模を各種の統計から推計したものであり、「資本家階級」の細別にも有効である。

図2 純金融資産保有額の階層別にみた保有資産規模と世帯数
出典:野村総合研究所(2025年2月13日)
金融資産保有の階層別世帯数
橋本分類は4カテゴリーであったが、野村総研の方は5カテゴリーに分けられている。内訳を計算すると、これらは「超富裕層」(0.21%)、「富裕層」(2.75%)、「準富裕層」(7.25%)、「アッパーマス層」(10.34%)、「マス層」(79.43%)になる。
橋本分類の「資本家階級」は250万人とされたが、それよりも「超富裕層」と「富裕層」合計2.96%のみが「資本家」にふさわしいのではないか。さらにNISA枠の株式投資を活用して金融資産を増やした層が、「富裕層」、「準富裕層」、「アッパーマス層」の3階層に少なからず存在すると想定して、これを「いつの間にか富裕層」と命名している。株式投資の成功により豊かになった階層が日本でも誕生していることになる。
やや乱暴ではあるが、両者を合わせると、資本家階級は野村総研のカテゴリーの2.96%のように細分化できる。そして、そこでの「マス層」(約80%)の内訳が、橋本が言う「新中間階級」、「正規労働者階級」、「アンダークラス」(非正規雇用)の集合になると考えられる。
野村総研5分類のうちの「マス層」を橋本の3類型に分けたので、階層と階級の定義の違いを無視すれば、現代日本には8階級階層が存在するとみなすことにした。
「パワーファミリー」と「スーパーパワーファミリー」
さらに野村総研レポートでは、都市部居住の「大企業とも働き世帯」に代表され、世帯年収1500万円以上の「マス層」を「パワーファミリー」と定義したうえで、そのうちの世帯年収3000万円以上の層を「スーパーパワーファミリー」として存在を突き止めている。これもまた株式投資による富裕になった上昇移動組に該当する。
以上、二種類の「ピラミッド」は調査手法が全く異なるため単純な比較はできないが、調査票による「平均年収」の結果に基づく橋本の「階級ピラミッド」と、金融資産保有を各種統計から算出した野村総研レポート「階層ピラミッド」はともに現代日本の一断面を象徴する姿ではあろう。そのため問題意識に応じて、両者の使い分けも可能なように思われる。
「ワークファミリーバランス政策」の狙い
ただし両研究成果には新著の校正が進んでいたときに出会ったので、新著には取り込めなかった。しかし、いずれも貴重なデータと類型なので、ここでは両者を活用しながら、資本主義論とからめながら「ワークファミリーバランス政策」の説明を行うことにする。
社人研調査結果などに認められるように、非正規雇用=アンダークラスの若者のうち8割程度が結婚を希望してきたという歴史がある(岸田内閣、2023:4)。この調査結果を受けて、
- 仕事(働き方改革で、非正規雇用=アンダークラスの正規雇用、生活安定と将来展望)
- 家族(若者8割の結婚希望者については、「家族形成」支援を積極的に進める)
- 子育て(教育と医療の分野で、家族、企業、政府・自治体を超えて、社会全体での支援)
という介護保険と同じような社会全体で支え合う制度を創設しようと国民に向けて訴えたのである。
新しい資本主義
そこで、政府が主導する「新しい資本主義」に「縮減社会」を位置づけることが次の課題になる。ここでは石破内閣がまとめた『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画-2025年改訂版基礎資料集』(2025年6月13日、以下『2025年基礎資料集』と略称)から、「新しい資本主義」として「成長戦略」に有益な「社会動向」を拾い上げておこう。
なぜなら、「資本主義はみずからの基盤を変えることによって、みずからを変革し、人類史における新時代を創造せざるをえない」(ポパー、第2巻(上):290)からである。
新時代を実現するためには、AI時代に需要が急増する電力事情に関していえば、10年前からの太陽光パネル発電や風力発電への期待はもはや冷めて、日本にとっては自前の豊富な資源であるヨウ素を主原料とした日本発のペロブスカイト発電を主流にしたい。なぜならこれはまさしく「みずからの変革」につながるからである。
ハーヴェイの「資本主義の7領域」
もちろん依然として言葉が先行しがちな政府による「新しい資本主義」への道は多様であるが、たとえばハーヴェイの「資本主義の7領域」はそのための議論にも参考になると思われる。それは、「資本主義の深化の軌跡の内部で識別」される領域であり、
- 技術と組織形態
- 社会的諸関係
- 社会的・行政的諸制度
- 生産と労働過程
- 自然との関係
- 日常生活と種の再生産
- 世界に関する精神的諸観念
とまとめられている(ハーヴェイ、2011=2012:158)。
「共-存在」と「共-進化」
これらの諸領域は基本的には独立しているが、それぞれの間には動的な相互作用があり、その総体として資本主義システムの遂行を促すという関係をもっている。
相互作用間には調和だけではなく対立や緊張もあるが、大局的には「共-存在(co-present)と共-進化(co-evolve)」にあるとハーヴェイは総括した(同上:159)。しかも「どれか一つの領域が他の諸領域を支配するわけではない」(同上:164)から、問題意識に応じてどの領域からでも取り組める。
マルクス経済学ならば「生産と労働過程」から論じるのは当然であろうが、社会学からも「社会的諸関係」や「社会的・行政的諸制度」そして「世界に関する精神的諸観念」などを取り上げることが可能になる。
「新しい資本主義」を先に進めるためにも、そして私が提唱した「社会資本主義」の深化のためにも、ハーヴェイのこの要約を受け入れたい。すなわち現在の資本主義のその先に存在する「縮減社会」を論じるためには、この7領域において「共-存在」と「共-進化」を研究して、最終的には総合化することになる。そしてその先には資本主義を特徴づけるイノベーションの問題がある。
「縮減社会」とは何か
本書で使われた 縮減社会(しゅくげんしゃかい) とは
- 人口が減る(総人口と年少人口の減少、生産年齢人口も減少、高齢者数だけ増加する)
- 家族が小さくなる(平均世帯人員2.00人に向い、小家族化が鮮明になる)
- 経済や地域が縮小する(生産活動が停滞縮小し、消費需要が低下する)
という経済社会システム全体の規模が縮んでいく社会のことである。日本では長年にわたり
- 少子化(合計特殊出生率の漸減、2024年は1.15)
- 年少人口数の減少は44年連続、その比率は51年連続で低下)
- 高齢化(団塊世代全員が後期高齢者になり、社会全体の高齢化率は30%直前、2040年までは上昇が予想される)
- 未婚・単身世帯の増加(単身の生き方が個別的価値<particularism>を超えて、普遍的価値<universalism>へと変貌)
によってこの状態が進んできた。
価値観からのアプローチ
本書では少子化を単なる経済問題だけではなく、主に価値観の変化を取り上げた。資本主義社会に認められる主なライフスタイルに影響を与えるのは経済的地位とともに、生きる中での価値観、思想、理念も影響すると見る。
そこで、本書の主題は
- 結婚からの逃走
- 家族からの逃走
- 単身者中心の社会
- 結婚希望者の「家族形成」支援
となった。つまり、「結婚・家族」を人生の中心に置かない価値観(個別的なライフスタイルから普遍的なそれへの変容)が若者世代から中年世代まで拡がった。これが近代後期産業社会=グローバル資本主義化の現代日本において、40年を超える出生数減少の根本原因であると分析した。
それは、人生最後の10年間で訪れる「孤老」時期における「要介護」問題を直撃する。社会保障制度や介護システムの崩壊が予想される。その回避を意識した「福祉国家」における「孤老」時期の生き方にも触れた。
資本主義社会
一般論として資本主義社会は、資本による生産・流通活動とそこでの国民労働とが主体になって、国民が労働により手に入れる報酬を基にした消費活動が続く政治経済社会システムである。
株を発行して長期的信用に基づき広く国民全体からも外国人からも資金も取りこんだ企業が、ここでの最大のアクターになる。
その企業を左右するのは資本家・経営者であり、一般的な生産関係としては資本家と労働者、そして流通・販売の労働者が加わり、さらに日常欲求充足のために生産物を購入する消費者にもそれらはたちまち変貌する。さらに生産現場を離れた年金暮らしの膨大な高齢者が消費者としても存在する。
「経済と社会」の並列化としての「社会資本主義」
このような定義を行うと、資本主義が独立変数で、その結果として産業化関連で多くの社会現象が発生するという理解が可能となる。これに関してシュトレークは、「資本主義は経済と社会の両方を意味する」(傍点原文、2016=2017:278)として、「経済と社会」を並列化した。
経済と社会を分離しない試みを受けて、資本主義終焉論の次に予想される経済社会システムを私は「社会資本主義」と命名した(金子、2023)。
「生産と労働過程」を下部構造とした社会主義の失敗
この背景には、経済による規定力を最優先した「生産と労働過程」が下部構造となり、法・政治・文化をはじめ残りすべてがこの影響下にあるというマルクス思想による社会主義社会の構築の失敗がある。
それをハーヴェイは、「社会主義を構築しようとした過去の試みの最大の失敗の一つは、これらすべての領域を横断して政治的に関与することに消極的であった」(ハーヴェイ、前掲書:173)からと判断した。加えて、ポパーが明らかにしたように、マルクス思想には「社会工学」が不在であったために、最終的に社会主義社会や制度を構築できなかったことが指摘できる。
政治や人口動態、それに精神的諸観念でも経済への影響力は行使できるし、これらの関係は文字通り相互依存している。しかしマルクス主義のイデオロギーの制約により、ソ連でさえも「生産力(技術)を変化の前衛に位置づける単線的な計画」(ハーヴェイ、前掲書:173)に還元して、最終的に社会主義体制そのものが崩壊することになった。
したがって資本主義社会でも、「社会をそれにふさわしい社会工学によって変革することがわれわれの課題である」(ポパー、第2巻(上):275)ことは同じである。
イノベーション
ここでは最も重要な「イノベーションの可能性」を取り上げる。イノベーションは既存の要素を組み合わせて、それまでにはなかった新しい価値を具体的に創造することの総称であり、いわば非連続の成果として登場することが多く、それが200年間資本主義を延命させてきた。
イノベーションの古典的表現は「資本主義のエンジンを起動させ、その運動を継続せしめる基本的衝動」(シュムペーター、1950=1995:83)であろうが、その内実は資本主義的企業の創造にかかる①新消費財、②新生産方法、③新輸送方法、④新市場、⑤新産業組織形態などに分けられる。また②新生産方法には原材料の新しさが含まれる。
②に関しては商品開発だけではなく、今日ではレアアースやヨウ素などの資源発掘と商品化、流通、販売、広告、消費などの全分野でもイノベーションの可能性がある。このうちヨウ素は長い間殺菌・消毒薬、X線の造影剤の原料であったが、近年は太陽光パネル発電や風力発電に代わる日本初の新しいペロブスカイト太陽電池の主原料として世界的にも注目されている。
日本のイノベーション力が世界トップ層から脱落
図3は3年前の記録の一部であるが、そこでは日本のイノベーション力が世界トップ層から脱落したことが報じられていた。

図3 イノベーション力の比較
出典:『日本経済新聞』2024年1月1日
しかし2026年の日本では、少なくともペロブスカイト太陽電池による発電では世界の最先端に位置づけられている。なぜなら、ペロブスカイト発電資源としてのヨウ素は、それを使った太陽光電池が「曲げられる」「軽い/薄い」「低コスト」のうえに、日本は世界第2位の生産量をもっているからである。そのため、高市内閣の「新しい資本主義」でも期待が大きい。
賃金と民間設備投資
そこで、イノベーション力を上げるために、過去数十年間の社会経済の動向を精査しておきたい。図4は20年間の「賃金と民間設備投資」の関係の国際比較である。

図4 賃金と民間設備投資
出典:石破内閣『2025基礎資料集』
高市内閣では「国内投資促進」が重視されているが、図4では縦軸を「実質賃金増減率」、横軸を「実質民間設備投資増減率」とした関連が示されている。
このうち横軸は「民間設備投資」の実質値なので問題はないが、「実質賃金」は「総雇用者報酬(実質値)」を従業者で割り、「正規労働者の平均労働時間/全労働者の平均労働時間」を乗じたものとされているから、読み取りには注意が必要である。
緩やかな右肩上がりが認められて、米国やオーストラリアのように「設備投資率」は高いが、「賃金率」は低い伸び率の国がある反面で、韓国、アイスランド、スウェーデンのように「賃金率」が高めに出る国もある。
日本が縦軸横軸ともに著しく低いのは、「投資」よりも「社内留保」を優先してきた歴史が大きいうえに、グローバル資本主義の構造的特性として正規労働者と短時間勤務が多い非正規労働者への配慮が乏しく、加えてともに報酬としての還元が不十分だったからではないか。
都道府県における公的需要の比率
図5をみると、過疎化が進んだ都道府県では、そのGDPに占める「公的需要」の比率が押しなべて高い。
「公的需要」=「地方政府等最終消費支出」+「公的固定資本形成」+「公的在庫変動」なのであり、その比率は県内総生産で割った値である。だから、社会的共通資本の整備・補修・新設などに関しては、政府や自治体などからの発注の比率が過疎地では多くなる。そのために上位には、過疎地である高知県、沖縄県、鳥取県、秋田県などが入っている。

図5 公的需要が都道府県GDPに占める割合
出典:石破内閣『2025基礎資料集』
逆に東京都に代表されるが、民間資本による旺盛な需要があれば、政府や自治体からの需要の比率は相対的には少なくなる。愛知県から大阪府までの「公的需要」比率も17%台にとどまっている。
まとめると、全国平均の26.8%よりも高い自治体は21の道県であり、低い自治体が26の都府県であった。人口集中と減少、企業集中と分散がこの「公的需要」率を左右することは容易に想定される。資本主義における「強い経済」では、この「公的需要」の全国的なバランスをどうするかの判断が求められる。
設備投資、人材投資、給与総額の伸び
次に「国内投資促進」の素材として、これまで10年間における企業の設備投資、人材投資、給与総額の伸びを見ておこう。
政府統計では「中小企業」336万者、「中堅企業」9000者、「大企業」1300者に分類されているが、詳細は図6の(注)を参照してほしい。このような統計手法に慣れないと、膨大な「零細企業」が省略されていること、また336万社ではなく336万者が、ここでは気になるところではある。

図6 10年間での設備投資、人材投資、給与総額の伸び
出典:石破内閣『2025基礎資料集』
特徴的には、設備投資と人材投資では大企業の伸びが著しく低かったことがあげられる。
さらに注目しておきたいのは、人材投資では中小企業さえも26.8%増加したのに対して、大企業では伸びるどころか減少して、「失われた10年」を象徴するかのように、−17.6%を記録した。これは設備投資でも同じであり、中堅企業の1.5兆円や中小企業の1.3兆円に比べて、大企業はその半分の0.7兆円に過ぎなかった。
これでは大企業でのイノベーションの機会は乏しくなる。長期間の日本経済の低迷状態もまた、大企業の設備投資と人材投資の低さによるところが大きいであろう。これでは「強い経済」は得られない。
「研究開発投資額」(対売上高)
従業員1~299人の零細企業から1万人を超える大企業までの企業規模別にみた「研究開発投資額」(対売上高)を使うと、ドイツと比較した場合の日本の特徴が鮮明になる。
図7によれば、「研究開発投資額」(対売上高)の日本の合計比率は3.1%であり、ドイツが3.6%であったが、矢印で示されているように、日本では大企業ほどその比率が高い。しかも従業員規模が小さくなるにつれて、比率が着実に下がっている。通常ベンチャー企業は数人から数十人規模で始まるので、日本の零細なベンチャー企業の研究開発投資額も比率も小規模であろうことは想定できる。

図7 企業規模別研究開発投資額(対売上高)
出典:石破内閣『2025基礎資料集』
日本とドイツの差異
しかし比較対象とされたドイツの場合は、確かに10000人以上の大企業の研究開発投資額(対売上高)の比率は高かったが、2000人~9999人、1000人~1999人、250人~999人の3企業グループ間での差異はほとんど出ていない。
さらに日本では零細企業のそれが最低であったが、ドイツの0~249人規模の企業では逆に10000人以上の大企業に迫る3.9%という比率を示していた。
このような日本とドイツの二カ国間だけの研究開発投資額(対売上高)を比較しても、ベンチャービジネスの先行きがある程度は想定できそうである。
せっかく石破内閣時代に『2025年基礎資料集』が公表されているのだから、紹介した諸データも含めて、もっと多くの「社会動向」を確認したうえで、「強い経済」づくりに生かしてほしい。
「閉じた社会」と「開かれた社会」
「強い経済」にとっては目標とする社会イメージのうち、たとえば「開かれた社会」像が適切である。各種の制約がある「閉じた社会」ではその達成は困難になる。
たとえば、ポパーによる「閉じた社会」と「開かれた社会」の対比では、前者は「魔術的な、部族に縛られた、あるいは集団主義的な社会」であり、後者は「個人が個人的な決定と向き合う社会秩序」とされている(ポパー、1945=1966=2023a第1巻下:132)。また「開かれた社会を合理的で批判的な社会として特徴づけている」(同上:349)。
この通りであるが、現代日本ではこれに加えて階級・階層内部の上昇移動、そして階級・階層間の上昇移動の機会も保障されることが必要十分条件になる。「閉じた社会」の人間は生まれ落ちた階級・階層から逃れないが、「開かれた社会」の人間は自由に社会移動できる社会秩序を求めるからである。
これは経済学というよりも社会学の領域になるが、新著を踏まえながら、「経済と社会」の双方から「新しい資本主義」としての「社会資本主義」像を探求していきたい。
【参照文献】
- Harvey,D,2010, The Enigma of Capital and the Crises of Capitalism, Profile Books.(=2012 森田成也ほか訳 『資本の<謎>』作品社).
- 橋本健二,2025,『新しい階級社会』講談社.
- 石破内閣,2025,『新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画-2025年改訂版基礎資料集』(2025年6月13日).
- 金子勇,2013,『「時代診断」の社会学』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2023,『社会資本主義』ミネルヴァ書房.
- 金子勇,2026a,「階級論と人口論からの『社会法則』」アゴラ言論プラットフォーム(2026.2.1).
- 金子勇,2026b,『少子化と縮減社会』東京大学出版会.
- 岸田内閣,2023,『子ども未来戦略』(2023年12月22日).
- 日経ビジネス編集部,2025,『日経ビジネス 徹底予測 2026』日経BP.
- 野村総合研究所,2025,「野村総合研究所、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯、その純金融資産の総額は約469兆と推計」(2025年2月13日).
- Popper,K R.,1945=1966,The Open Society and its Enemies :“ The Spell of Plato ” and “The High Tide of Prophecy :Hegel,Marx,and the Aftermath” , Routlege. (=2023a 小河原誠訳『開かれた社会とその敵 第1巻 プラトンの呪縛』(下) 岩波書店).
- Popper,K R. ,1945=1966,The Open Society and its Enemies :“ The Spell of Plato ” and “The High Tide of Prophecy :Hegel,Marx,and the Aftermath” , Routlege. (=2023b 小河原誠訳『開かれた社会とその敵 第2巻 にせ予言者』(上) 岩波書店).
- Schumpeter,J.A.,1950,Capitalism,Socialism and Democracy,3rd. Harper & Brothers(=1995 中山伊知郎・東畑精一訳『資本主義・社会主義・民主主義』(新装版)東洋経済新報社).
- Streeck,W.,2016,How Will Capitalism End?Essays on a Falling System,Verso.(=2017 村澤真保呂・信友建志訳『資本主義はどう終わるのか』河出書房新社).
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