黒坂岳央です。
自分ももういい年になったので、人と会うと育児だけでなく今後の人生の話になることが多い。そんな時、「将来が不安なのでNISAで積み立てをしている」「倹約を心がけている」という話を聞くことがある。
もちろん、ある程度の蓄えは必要であり、蓄えがあるからこそ今の安心を買えるという事実は否定しない。だが問題は、それが行き過ぎた時に起きる。それがNISA貧乏問題だ。
過去記事で書いてきた通り、投資や節約は娯楽に近い性質がある。やりがいがあり、即座にフィードバックが得られる。資産額が増えるたびに数値として成果が可視化され、脳の報酬系を刺激する。これ自体に楽しさが宿るので、油断すると「今を犠牲にして将来を豊かに」という免罪符のもと、行き過ぎてしまう。
だが、NISAを頑張りすぎることは、今すぐ老後生活になっているのと何も変わらない。

NISA貧乏と老後生活は同じ
老後生活を一言で定義するなら、「お金はあるが使えない状態」だ。
体力がないので遠出できない。感受性が鈍り、新しいことに感動しにくい。時間はあるが一緒に動ける仲間がいない。長年の節約習慣が染みついて、いざお金を使おうとしても使い方がわからない。
これが多くの人がイメージする老後の実態だ。お金の問題ではなく、体・感覚・人間関係が機能しなくなった状態である。
一方でこれをNISA貧乏と並べるとほぼ同じである。
お金を使いたくないので旅行には行かない。外食は控える。友人との飲み会は断る。体験にお金を使わず、余剰資金はすべて積立に回す。
体力がないか?お金がないか?原因は違えど、結果は何も変わらないのだ。
つまり、将来のためにお金を使うことを恐れすぎると、いざ老後にお金持ちになっても今度は体力がなくて使えなくなるのだ。
感受性には賞味期限がある
よく投資界隈で言われる言葉に「今の1万円は将来の2万円、3万円の価値がある。使わず、米国株を買え」というものがある。だが、筆者は全く逆の感覚を持っていて、「今の1万円は将来の5000円分の効用しかない」と思っている。お金の額面は同じでも、それを受け取る側の感受性と体力が劣化するからだ。お金を経済学的に考えるか?人間心理で考えるか?で結果は真逆にある。
たとえば若い頃に奮発して泊まった高級ホテルは強烈な記憶として残る。一生残る思い出だ。だが年齢を重ねると、5つ星ホテルに泊まっても大して感情が動かなくなる。もうこの年になって色々と経験すると、多少ホテルや食事が豪華なくらいではそうそう気持ちは動かない。だが子供がはしゃぐとつられて楽しくなる。しかし、将来子供がいなくなって老化すれば高級体験では気持ちが動かなくなってしまうだろうと思っている。これがあらゆる活動や経験に波及する。
もちろん、加齢することで人生そのものが灰色になるとは思っていない。学習、ビジネスは何歳になっても楽しい。社会とのつながり、気の合う人間関係の人心交流は飽きないだろう。しかし、受動的な消費は若いうちに浴びておいた方が良い。
このように金融資産は複利で増えるが、感受性は複利で減る。若い時期に削った体験は、老後にお金が増えても取り戻せない。老後に使えるお金を、今使えない体と鈍った感受性で持っていても、効用は著しく低い。貯めたお金を使い切れないまま死ねば、最後は国が持っていくだけだ。
出口は収入アップだ
節約で解決しようとする限り、この構造から抜け出せない。
手取り30万円で5万円積み立てるより、手取り50万円で5万円積み立てる方がすべて解決する。生活水準を下げずに投資額を確保できるからだ。積立額を増やしたいなら支出を削るのではなく、収入を上げることが唯一の正解である。
収入を上げるには武器が必要だ。その武器がスキルだ。スキルなら何でもいいのではなく、市場で高値で買い取られるスキルを調べてから、獲得することに時間を使うべきだ。スキルが上がれば転職・独立というリスクテイクの選択肢も生まれる。
よくあるのが「同じ職場で同じ仕事を続けても昇給は期待できない」という嘆きだ。これは日本だけでなく、他国でも同じ状況であり、あらゆるリターンはリスクテイクを経なければ得ることは不可能である。
そうなると、若い頃にやるべきことはスキルアップだ。高値で買い取られるスキルを調べ、それを獲得することに時間を使うのだ。
まず、昨今はスキルアップに大した金額はかからない。必要なのは時間と体力である。そしてこれこそ、若いうちにやる優位性が圧倒的に高い。
若ければ老眼がなく、腰痛もない。守るべき家族がおらず独身ならフットワークも軽い。習得したスキルを活用できる残り時間も十分にある。年をとっても勉強はできるし、少子高齢化で仕事の機会は形を変えて続けられるだろう。だが同じことをやるなら、若い方がやりやすいという事実は否定できない。
スキルアップは今の収入を上げ、将来の選択肢も広げる。今も未来も充実する、最も合理的な投資先だ。節約でNISA積立額を増やすより、スキルアップで収入を増やしてNISAに回す。この順番を間違えるべきではないだろう。
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老後を恐れて今を老後にするべきではない。投資は人生を豊かにする道具だ。その道具に人生を差し出すのは順番が逆である。
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