
先に公開した記事では、佐倉市の「ふるさと広場拡張整備事業」について、観光地開発でありながら、コンパクトシティを前提とした補助制度の枠組みで評価されているという「構造的なズレ」を指摘した。

すなわち本事業は、「観光地開発でありながら都市構造再編の補助制度を用いその枠組みの中で評価されている」という構造を持っている。
本稿では、その上に成り立つ「評価の中身」そのものに踏み込む。
一見すると「6.4倍の効果」
佐倉市は本事業について、「費用便益比(B/C)6.4」という数値を示している。
これは、投入した費用に対して6.4倍の便益がある、という意味となる。
この数字だけを見れば、「極めて効率の良い事業」と受け取られても不思議はない。
しかし、その中身を確認すると、この数値の意味は大きく異なる。
便益は「実績」ではなく「仮定」
本事業で用いられている便益の算出方法は、「旅行費用法」だ。
これは、公園など市場価格を持たない施設について、
- 交通費
- 移動時間
- 滞在時間
といった「その場所を訪れるためにかかるコスト」をもとに、その施設の価値を推計する手法だ。
ここで重要なのは、この手法が「実際の経済効果」を測っているわけではないという点だ。
来場者数は「想定」から導かれる
さらに、本事業における来場者数は、実測値ではない。
構造編で述べたとおり、来場回数は
一人あたりの年間利用回数 × 対象人口
という形で導かれている。
しかもその対象人口は、佐倉市単独ではなく、周辺自治体を含む広域人口約80万人だ。
つまり、
「どれだけ来ると想定するか」
によって、結果が決まる仕組みになっている。
この80万人に年齢や距離などの係数をかけて、そのターゲットがどれだけ「来る」のかを算式で割り出すので、元となる人口と係数設定がすべてを支配するアウトプットとなる。
長期間の前提の積み上げ
さらに、この分析では、
- 約90年という長期間
- 安定的に便益が発生するという仮定
- 競合施設の設定
といった複数の前提(係数の前提)が置かれている。
その結果として導かれるのが、「B/C 6.4」という数値だ。
ここで問うべきこと
ここまで見てきて重要なのは、この数値が「何を意味しているのか」だ。
旅行費用法が示すのは「その場所に行くために、人がどれだけのコストを支払ってもよいと考えるか」つまり、利用価値(満足度)ということになる。
観光地開発との決定的なズレ
しかし、ふるさと広場の拡張整備は、佐倉市観光グランドデザイン『観光Wコア構想』に示されている通り、観光地開発だ。
観光地開発を行ううえで本来問われるべきは、
- 観光消費額
- 地域経済への波及効果
- 税収
- 雇用
といった、「地域にどれだけの実体的な価値をもたらすか」ということになる。
にもかかわらず、本事業では、
「人が来ると仮定した場合の利用価値」
が評価の中心に据えられている。
「6.4」の本当の意味
この構造を踏まえると、「6.4」という数字の意味は
- 観光地としての成功を示すものではなく
- 実際の経済効果を示すものでもなく
- 仮定の積み上げによる理論値に過ぎない
という点に収れんされる。
問題の本質は「評価設計」
したがって、本件の問題は、計算が正しいかどうかではない。
より本質的には、何をもって事業の成功とするのかという、評価設計そのものにある。
構造と評価がつながったときに見えるもの
前稿(構造編)では、観光事業でありながらコンパクトシティ補助金を用いるという制度上のズレを指摘した。
本稿で見てきたのは、その結果として、評価指標までもが観光と無関係なものになっているという点だ。
つまり、構造のズレが、そのまま評価のズレを生んでしまっている。
結論
本事業の最大の論点は、数字が大きいか小さいかではない。
そうではなく、観光地開発でありながら、「観光」を測っていないことにある。
そしてその結果、「魅力があることになっている」という前提の上に、事業が組み立てられている。







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