米露が干渉するハンガリー議会選の行方

ハンガリーで12日、国民議会選挙(一院制、定数199)が実施される。選挙の焦点は、与党「フィデス・ハンガリー市民連盟」を率いるオルバン首相が政権(5期目)を継続するか、野党第1党のペーテル・マジャル党首が率いる親欧州派のティサ(TISZA=尊重と自由)が16年ぶりに政権交代を実現するかだ。複数の世論調査によると、ティサ党がフィデスを大きく引き離して優位だ。ただし、与党が有利になるように設計された選挙区割り(ゲリマンダー)や投票制度が存在するため、世論調査での支持率差よりも、実際の議席獲得数ではフィデスが善戦する可能性は完全には排除できない。

「私はハンガリーとオルバン首相が大好きだ」と語るトランプ米大統領、フィデスの公式サイトから、2026年4月7日

ハンガリー議会選の行方に国際社会の関心が集まるのは、選挙結果がハンガリーの未来を決めるからというより、欧州連合(EU)のウクライナへの軍事・財政支援や政策決定プロセスに大きな影響を与えるからだ。

興味深い点は、人口約950万人のハンガリーの議会選にトランプ米大統領とロシアのプーチン大統領の両国首脳がオルバン政権の継続を願っていることだ。オルバン氏はトランプ米大統領とは懇意な間柄だ。トランプ氏のフロリダ州の別荘「マール・ア・ラーゴ」に何度も招かれ、ロシアのプーチン大統領とはクレムリンで首脳会談するなど、友好関係を構築してきた。

トランプ氏は今回、本人がハンガリーまで行けないので、バンス副大統領をブタペストに送り、自身は電話で「オルバン首相は私の信頼できる友人だ」と述べ、「彼は真の闘士だ」と褒めている。他国の選挙には干渉しないことが国際社会では通常だが、そんなことはお構いなし、といった感じだ。バンス副大統領は7日、フィデスの選挙集会に登壇し、「EUはハンガリーの選挙に干渉している」と批判している。

ロシアのプーチン大統領もオルバン首相支持では負けていない。EUの対ロシア制裁を拒否し、ウクライナ支援をボイコットするなど、オルバン首相はウクライナ戦争ではプーチン氏を全面的に支援してきた経緯がある。

オルバン首相はウクライナに対しEUが昨年12月の首脳会談で決定した今後2年間のウクライナへの融資900億ユーロをストップするなど、EUの政策運営を混乱させている張本人だ。ウクライナ支援には反対し、ロシアへの制裁では拒否してきた。そんな欧州の政治家はオルバン氏だけだ。プーチン氏にとって貴重な友人というわけだ。ちなみに、ハンガリーのシーヤールトー外相がロシアのラブロフ外相にEU理事会の機密情報を流していた、というスキャンダルが報じられたばかりだ。

オルバン氏は若い時は改革派の代表として活躍し、1998年から2002年、首相の座を初めて獲得したが、その時はまだ35歳だった(当時、欧州の最年少首相)。そして2010年から再び首相ポストに就任して今日に至っている。首相職は通算20年余りだ。「法と民主主義」の欠如としてハンガリーをいつも批判するEUのウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長もオルバン氏の政治キャリアとその影響力は無視できない。同首相の政治的影響は欧州全域に及び、欧州議会では2024年7月、独自の会派「欧州の愛国者」(PfE)を創設するなど、その‘オルバン主義‘は絶大な影響力がある。

そのオルバン首相の与党が選挙で敗北したならば、喜ぶのはもちろん選挙で勝利した野党第1党のティサだが、ひょっとしたらEUのブリュッセルも大喜びだろう。同時に、移民問題が契機となって欧州の政界を動かしてきたオルバン主義に陰りが出てくるかもしれない、等々の影響が考えられる。

オルバン首相の著名な批判者である神学者リタ・ペリンファルヴィ氏はオーストリアの週刊紙「ディ・フルヒェ」(9日付)で、「ハンガリーでは、キリスト教原理主義者と右派ポピュリストが強力な連携を築いている。しかし、今回の選挙前におけるカトリック教会のオルバン首相とフィデス・『キリスト教民主国民党』(KDNP)連立政権への支持は、2022年の選挙時よりも低い。多くの司祭や司教は、オルバン大統領が選挙で敗北する可能性が高いことを認識してきた」という。ペリンファルヴィ氏は、4月12日に予定されている選挙を「ハンガリーがロシアとプーチン大統領から距離を置き、EUへの復帰を目指すための最後のチャンスだ」と指摘、「今度こそ成功する」と期待を寄せている。

現議会の3分の2を占めるオルバン政権はメディアを完全に掌握し、情報操作を実施している。対立候補であるティサ党首マジャル氏に対しては、「彼はEUの傀儡であり、ウクライナのスパイだ」と繰り返し非難してきた。マジャル氏はかつてフィデス党首の側近だったが、2年前に同党と袂を分かった。2024年6月の欧州議会選挙では、ティサは30%の得票率を獲得した。農村部ではオルバン氏の与党が依然強いが、都市部は若い層の有権者がティサを支持している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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