宗教は人間をより強く賢くするためにあるべきものだ。最近のローマ教皇レオ14世は、まさにそれを実践している。それに対して、米国の福音派の多くは大きく道を外している。
米国の福音派のうち保守派グループは、戦争とジェノサイドをあおっている。ホワイトハウスで福音派の牧師たちはトランプ氏の肩や腕に手を置き、祝福を与えた。フランクリン・グラハム牧師は「主はトランプ大統領を立ち上がらせになられました。このような時のために彼を立ち上がらせたのです。父なる神よ、彼に勝利を与えたまえ」と述べた。

レオ14世(インスタグラム)とトランプ大統領(ホワイトハウス)
テレビ伝道師ロレンス・ウォルノー氏は「イスラエルとイエス(・キリスト)が復活する目が出てきた」と述べた。福音派では、「再臨は離散していたユダヤ人が約束の地イスラエルに再集結したとき、キリストが再臨してサタン(悪魔)とのハルマゲドン(最終戦争)に勝利し、至福の千年期をもたらす」と広く信じられている。
ハッカビー駐イスラエル米国大使は、聖書の記述を根拠に、ユーフラテス川からエジプトに至る一帯を(イスラエルが)取るならそれでいいなどといっている。
彼らはイランに対する敵意を、ペルシャ帝国時代にユダヤ人が迫害されたことがあることを根拠としている。紀元前5世紀、ギリシャと戦っていた頃のクセルクセス1世のとき、宰相ハマンが私怨で王に進言して「ユダヤ人は異質で危険な民族だから排除すべき」として帝国全体でユダヤ人を滅ぼす勅令に署名したが、すぐに撤回されたという「エステル記」を根拠にしたものだが、旧約聖書以外にそのような事件の記述はない。
また、アケメネス朝はバビロン捕囚からユダヤ人を解放した民族の大恩人であり、ササン朝ペルシャ時代もユダヤ人に好意的だったのであるから、恩知らずでしかない(拙著『国家の興亡史からわかる現代地政学――西欧の衰退』(さくら舎)でも解説)。
また、キリスト再臨は旧統一教会の教義にもかなり取り入れられている(旧統一教会ではキリストが再臨するのではなく、第2のメシアたる文鮮明が降臨することに置き換えられている)。
旧統一教会は、日本の自民党保守派などよりも、はるかに米国共和党に食い込んで影響を及ぼしているが、これはその教義の親近性もあるのかもしれない(ワシントンで第2の日刊紙で、共和党国会議員が毎朝読むといわれるワシントン・タイムズはいわば「世界日報」の米国版である)。旧統一教会に好意的な政治家が多い高市応援団がトランプを熱烈支持するのは、そのあたりの宗教的共感もあるのだろうか。
それに対して、トランプ大統領のイラン攻撃に対し、教皇レオ14世は「イエス・キリストはいかなる戦争の正当化にも利用することはできない」「『文明全体が今夜滅び、二度と復活することはないだろう』とトランプが警告したのに対し、イラン国民全体に対する脅威があった。これは到底容認できるものではない。国際法上の問題もあるが、それ以上にこれは人々の幸福のための道徳的な問題だ」とした。宗教家として当然の良識を示したものだ。
こうした教皇のトランプ批判に対して、米国政府は苛立ちを隠さない。エルブリッジ・コルビー国防次官は、教皇レオ14世がドナルド・トランプ政権の軍事力行使を批判したとして、バチカンのクリストフ・ピエール駐米大使(枢機卿)を呼びつけ、「米国は望むことは何でもできる軍事力を持っている。ローマ・カトリック教会は米国側に付いた方がいい」と、神聖ローマ帝国皇帝がローマ教皇を追放した「アビニョン捕囚」の再現を示唆して恫喝したと報じられている(国防総省は否定しているが)。
イランとの和平交渉にあたるヴァンス副大統領は、福音派系の信仰からカトリックに改宗したはずだが、彼にレオ14世の声は届いているのだろうか。

バンス副大統領 同副大統領Xより
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