
Ruma Aktar/iStock
トランプ大統領は4月7日、自身のSNSにこう投稿した(以下、断りない限りAI翻訳)。
A whole civilization will die tonight, never to be brought back arain, I don’t want that to happen, but it probably will.
今夜、一つの文明が滅び、二度と蘇ることはないだろう。そんなことは望まないが、おそらくそうなってしまうのだろう。
この投稿に、悉くトランプ政権と対立する民主党のチャック・シューマー上院院内総務は同日、「X」にこうリポストした。
This is an extremely sick person. Each Republican who refuses to join us in voting against this wanton war of choice owns every consequence of whatever the hell this is.
こいつは正真正銘の異常者だ。この無謀な選択的戦争に反対する投票に加わろうとしない共和党員一人ひとりが、このとんでもない事態がもたらすあらゆる結果の責任を負うことになる。
「誰の目にも」とは言わないが少なくとも筆者の目には、トランプの投稿は、イランを停戦交渉のテーブルに着かせるためのブラフ、彼一流のレトリックと映り、こんなリポストをするシューマーの方が余程「sick person」に思えた。が、一昔前のシューマーは実に真っ当だった、とMAGAの重鎮が述べている。
その人物とは、トランプ政権で国土安保諮問委員会委員を務め、『Fox』で自身のポッドキャストを運営するマーク・レヴィンだ。彼は4月12日の「Levin:Schumer was RIGHT」で、シューマーが15年9月に上院議場で行った「イラン核合意」(以下、同合意)に反対する演説に詳しく言及した。
レヴィンが、「非常に説得力がある」と絶賛したそのシューマー演説では、同合意の概要と共に彼の懸念が語られていた。筆者が文字起こしたその要点は以下の通りだ。
私は同合意を3つに分けて検討した。イランに対する当初10年間の核制限、10年後以降の核制限、そして同合意の非核的な要素と影響だ。が、どれも私が理想とするものとは違った。
当初の10年間の深刻な弱点は、査察を随意に行えないことだ。無申告の疑わしいサイトを査察するまで最長24日を要する事態も憂慮すべきだ。申告サイトを査察できるのは利点だが、不正行為をする気ならそこではやるまい。またその場合は、査察を可能な限り遅らせるに違いない。
米国が望む通りに査察を要求できないことも問題だ。査察に8人からなる合同委員会の過半数の賛成が要るとなると、中露以外のP5+1(国連安保理常任理事国5ヵ国+独)の4カ国とEU代表の賛成が必要だ。が、EU諸国がイランと波風を立てたくないと考えるかもしれない。
10年後以降に、同合意がイランの核開発をどの程度制限するのかの評価も必要だ。私見では、この合意に基づいて核兵器を入手することが真の目的なら、イランは忍耐強く待って、10年後以降に目標達成に近づく可能性がある。制裁解除で財政的により強くなるからだ。
3つ目の同合意における非核要素の側面が、私には最大の懸念材料だ。イランは長年、軍事力やテロを利用して中東における影響力を拡大し、イスラエル、シリア、レバノン、イエメン、イラク、ガザにおけるテロ組織の活動を支援してきた。
この合意でイランは500億ドルを受け取るが、将来、その一部は間違いなく中東その他の地域で混乱を引き起こすために使われるだろう。イラン強硬派はこの資金を使い、制裁が解除され次第ICBM開発を進める可能性がある。イランによるこの資金の使途を制限する規制を設けるべきだった。
この合意の核関連の部分に関しては、当初の10年間は合意がある方がましかもしれないが、10年後以降の核関連の側面と非核関連の側面に関しては、ない方がましだろう。私が最終的にこの合意の承認決議に反対するか賛成するかは、イランがこの合意に従ってどのような行動をとるかによる。
つまり、西側諸国との接触や経済的・政治的な孤立の緩和が、イランの強硬姿勢を軟化させるのか、それとも現在の独裁政権が、この合意を核兵器と地域における覇権への野望を維持しながら、自国への一方的な制裁から解放される方法と見做しているのかである。
私にとって、イランが穏健化せず、代わりにこの合意を邪悪な目的のために利用することは余りにも大きな問題である。従って、私はこの合意に反対票を投じます。
レヴィンは、「私もこれ以上うまく言えなかったと思う。まったくその通りだ。当時、彼が正しかったのは明らかだし、トランプ大統領がその合意を破棄したのも正しかったのは明らかだ。合意は大惨事だった」との感想を漏らした。
シューマー演説は、聴く者全てがこの合意の内容を熟知している前提だから、ここでは補足が必要だろう。幸い日本国際問題研究所貫井万里の「核合意のイラン内政と国際関係への影響―ポスト核合意期に向けたイラン、アメリカ、イスラエル、サウジアラビアの動き―」なる14千字ほどの論文がネットにあるので、そこからお借りして同合意の要点を以下にまとめてみる。
イラン核合意「包括的共同行動計画(Joint Comprehensive Plan of Action, JCPOA)」の要点
1. その背景
「包括的共同行動計画(JCPOA)」(以下、同合意)は15年7月14日、イランと国連安全保障理事会常任理事国及びドイツ(P5+1)によって締結された。同合意が結ばれた最大の要因は、イランがIAEA(国際原子力機関)に申告せずに核関連施設を建設し、ウラン濃縮を行っていたことにある。
イランの隠れた核開発をイスラエルや中東の親米諸国は安全保障上の脅威と見做した。一方、イランはNPT(核兵器不拡散条約)の枠内での平和利用目的の核開発活動が、革命後に米国の妨害に遭ったため独自に核技術開発を行わざるを得ず、IAEA への申告が遅れたと主張してきた。
が、イランは95 年のロシアとの核技術協定の下、13年にブーシェフル原発を完成済みで、言い分を額面通り受け入れる訳にいかない。15年12月の IAEA報告書にも、「03年頃」までイスラエルへの「抑止力」を目的とする、「平和利用」を隠れ蓑にした核開発計画への言及がなされていた。
革命前からの核開発が「03年頃」に問題化した理由は、01年9月の「9.11」を経たブッシュ子大統領が02年の一般教書演説でイラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」と名指しするなど、ネオコンの間でこれらの「体制転覆」論が高まっていたからだ。実際、03年にイラクのフセイン政権は崩壊させられた。
02年8月に核開発疑惑を公にしたのは、イランの反体制派組織ムジャヒディン・ハルクだった。同組織はイスラエルの情報機関からこの情報を得たとされる。一方のイスラエルがフランスの協力の下、70年代に核兵器開発に成功していたことは、今も公然の秘密である。
米国は同盟国イスラエルのNPT枠外での核開発は黙認し、他のNPT加盟国への核拡散には厳しく対応した。イスラエルの核政策は「5P」の「相互核抑止」と異なり、中東での核保有国出現を武力を以てでも阻止する「一方的抑止」とされる。それゆえイランのウラン濃縮技術獲得は、イスラエルの国家存立を揺るがす脅威と位置づけられている。
2. 交渉経過
13年8月に穏健派ロウハニ政権がイランに成立し、9月の国連総会でケリー国務長官とイラン外相ザリーフが持った会談を機に核交渉が再開した。11月24日にはジュネーブ暫定合意が成り、「共同行動計画:JPA」が公表された。制裁解除の方法や核軍事利用の可能性(PMD)の件で、イランとP5+1 の調整が長引いたが、15年4月2日の「枠組み合意」を経て、7月14日に合意に至った(合意日)。
イランがこの合意を、米国の政治状況に左右されない国際的取り決めとすることを要求したため、7月20日に国連安全保障理事会が、同合意の支持と履行を要請する決議 2231 号を採択した。米国内でも同合意を阻止すべくAIPACなどのイスラエル・ロビーが議会に強く働きかけた。
が、15年9月10日までに米上院議員42名が同合意に賛意を示したことにより、オバマ大統領の拒否権を覆す「JCPOA反対法案」成立が回避され、同合意が採択された。前述のシューマー議員による反対演説はこの時になされたものである。
イランにも米国との交渉自体に反対する強硬保守派がおり、同合意を国会で審議するか国家安全保障最高評議会の決定のみとするか議論を続けた結果、10月4日に国会に提出され、12日に賛成多数で採択された。15日にはイランがIAEA と合意した「ロードマップ」 に沿って情報をIAEAに提出し、履行日に追加議定書の暫定適用を行うこととなった。
これを受けて15年10月18日を同合意の「採択日」とする宣言がなされた。天野之弥 IAEA 事務局長は12月2日、提出された情報と核関連施設の査察結果を踏まえ、イランは03 年まで核兵器開発に係る研究をしていた可能性が濃厚だが、09 年以降は活動の兆候はないとする内容の報告を発表した。
これによりロウハニ政権は、経済制裁解除がなされる履行日に向けて、アラーク重水炉の再設計と濃縮ウランの削減に向けた作業を加速させた。結果、16年1月16日に同合意の正式な履行と制裁解除が発表された(履行日)。背景には、穏健派ロウハニ政権の必死の努力があったとみられる。
3. 具体的内容
要すれば、イランの平和的な核開発と核利用の一定の権利が同合意の管理体制の下で認められた。即ち、10年間のナタンズでのmax.5060基の遠心分離機を用いた3.67%のウラン濃縮、15年間のmax.300kgの3.67%以下の濃縮ウランの保有、フォルドゥ核・物理・技術センターやテヘラン研究炉での濃縮ウランを蓄積しない方法による先端的核技術研究の承認、核開発に必要な物資の調達、の保障である。
具体的には、履行日までに IAEA の査察により、PMD問題の解決と余剰濃縮ウランの処分、アラーク重水炉の研究炉への転換、フォルドゥ濃縮施設の研究施設転換などの実施を確認し、履行日に一斉に、国連およびEU・米の制裁が解除もしくは停止(武器およびミサイル関連技術の禁輸を除く)される。但し、対テロ支援や人権問題に係る米国の独自制裁は継続。
注目点として、米国の事情による一方的な再制裁を予防する項目がある。例えばJCPOA 第25は「米国内法がJCPOAに記載された制裁解除の履行を妨げている場合、米国は可能な権限を用いて遂行のための適当な手段をとる」と記されている。
また第 26 条には「米政府は、大統領と議会がそれぞれの役割に応じ、JCPOA の下で停止した制裁をJCPOAの下で提供されている紛争解決プロセスを経ることなく再度導入することを控える」とある。イラン側の要望が反映されたのであろう。
その後の経過
IAEA定例理事会は25年6月12日、IAEAがイランの申告されていない核施設を検証しようとする活動に協力する義務を、イランが果たしていないとして非難決議を採択した。またグロッシ事務局長は6月19日、ウラン濃縮施設があるナタンズの地上施設や電気関連設備がイスラエルによって破壊されたが、ウラン濃縮は「明らかな後退はあるが、濃縮能力は依然として存在している」と述べた。
斯くて、トランプ政権は6月22日未明、フォルドゥとナタンズのウラン濃縮施設やエスファハーン核技術・研究センターをB-2ステルス爆撃機や地中貫通爆弾(バンカーバスター)を使用して空爆した(ミッドナイト・ハンマー作戦)。
一方、昨年12月からのイラン国内の大規模デモは今年に入り更に激化、デモ隊に対し武装兵士が機銃を掃射するという虐殺事件に発展し、万単位の死者が出たと報じられた。これを契機として、米国とイランはオマーンを仲介役としてイランの核計画をめぐる間接協議に入った。
イラン国営メディアによると、アラグチ外相を代表とするイラン交渉団は、自国には原子力を平和利用する権利があると主張。イラン領内でのウラン濃縮の全面停止や約400キログラムの濃縮ウランをイラン国外に移送することを求める米国側の要求を拒否した。
こうした経緯から、米国は1月に入り空母2隻などの軍艦、戦闘機、空中給油機および兵士数千人を中東に展開させていたところ、モサドやCIAがその動向を監視していたイラン最高指導者ハメネイと40人ともされる幹部が一堂に会するとの情報を得て、2月28日の攻撃に踏み切ったと推定される。
4月9日の『ロイター』は、イラン国営メディアが報じた件の濃縮ウラン約400kgは、IAEAの推計では昨年6月のミッドナイト・ハンマー作戦の時点で濃縮度60%であり、核兵器10発分に相当すると報じた。なお、核兵器に使う90%には10日程度で濃縮できるとされる。
これが事実とすれば イラン核合意の欺瞞を見抜いたトランプによる18年5月8日の合意離脱と経済制裁再開がなかったなら、イランは今頃10発の核兵器とそれを搭載するICBMを国内とその代理テロ組織に配備して、国際社会を恐怖に陥れていた可能性を誰も否定できない。
果たして、シューマー演説は、彼が懸念した「10年後以降の核制限」の不備を正確に予測していたと言う他ない。それに引き換え、この核合意を主導したバラク・オバマの何と甘いことか、口だけで得たノーベル平和賞は、常に行動と結果が伴うトランプに差し出されるべきだろう。







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