資本論を書いたカール・マルクスの話ではない。ミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス枢機卿の発言についてだ。同枢機卿はバチカンで経済評議会の調整役を務めている高位聖職者でローマ教皇レオ14世のブレーンの一人だ。その枢機卿が司牧スタッフへの書簡の中で、昨年ドイツ司教協議会(DBK)とドイツ・カトリック中央委員会(ZdK)の合同会議で採択された「祝福のガイドライン」に基づき、「互いに愛し合い、教会に結婚の祝福を求めるすべてのカップルに、祝福を通して神の恵みを感じていただきたい」と記しているのだ。具体的に、教会が祝福を拒否している再婚者、同性愛者に対しても祝福を与えてほしいと述べているのだ。

神の祝福に関して意見の相違があるレオ14世とマルクス枢機卿、ドイツのカトリック通信から
同枢機卿は書簡の中で、「祝福の意味について悩んでいるすべての人に、祝福の神学的意味を説明するよう求める。また、祝福を執り行うことを良しとしない司牧スタッフは、希望するカップルを該当する主任司祭または他の司牧スタッフに紹介すべきだ」と述べ、6月からは、ガイドラインに沿った祝福式のための研修コースが開講されことを明らかにしている。すなわち、同性愛者に祝福を与えることを拒否している聖職者に対しては、「自身が祝福を与えることができないのならば、同性愛者に祝福を与える同胞の聖職者にその旨を伝え、祝福を与えさせてほしい」と述べているわけだ。
ガイドラインでは、祝福は秘跡としての結婚ではないことが明確にされている。しかし、マルクス枢機卿は、「多くの場合、既に民事婚である非秘跡的な結合の祝福が、カップルを会衆や教会の周縁に追いやるという意味ではない。どのカップルも拒絶されるべきではなく、カップルは会衆の心の中で歓迎されるべきだ。したがって、教会は神がこれらのカップルを祝福し、良きものを与えてくださるよう祈るべきだ。これは教会による癒しと和解への貢献にもなり得る」と説明している。
祝福に関する文書は、シノドス会議の指示に基づいている。2023年12月にバチカンが「フィドゥシア・サプリカンス」(同性愛の祈り)による同性カップルへの祝福の禁止を緩和したことを受け、これらの変更も文書に盛り込まれている。文書に要約された提案は、「離婚・再婚した個人、あらゆる性自認と性的指向を持つカップル、そしてその他の理由で結婚の秘跡を受けたくない、あるいは受けられないカップル」のためのものである」と強調されている。ちなみに、祝福のガイドラインは前教皇フランシスコの司牧的アプローチに沿ったものであるという。
ところで、ドイツ司教協議会(DBK)とドイツ・カトリック中央委員会(ZdK)の対話機関の合同会議で採択された「祝福ガイドライン」は司教たちを拘束するものではない。ドイツのほとんどの教区では、同ガイドラインは推奨されているが、アウクスブルク、アイヒシュテット、ケルン、パッサウ、レーゲンスブルクの各教区は同ガイドラインの使用を拒否している。すなわち、合同会議で採択された祝福ガイドラインについては、ドイツの教会内で対応が分かれているわけだ。
ドイツのカトリック教会司教会議(DBK)の前議長、リンブルク教区のゲオルク・ベッツィング司教(64)は昨年12月、ドイツ放送局「ドイチュラントフンク」とのインタビューで、「ドイツの司教たちがあらゆる問題について、一致した意見を述べていないことが自分の重荷だ」と、ドイツ教会内で意見の対立があることを認めた。
例えば、シュテファン・オスター司教(パッサウ)、ルドルフ・フォーデルホルツァー司教(レーゲンスブルク)、ライナー・マリア・ヴェルキ枢機卿(ケルン)らが、教会改革に関して進歩的な多数派の主張を繰り返し妨害してきたことは、誰の目にも明らかだった。
特にシノドス改革プロセスに関して、意見は大きく分かれた。ベッツィング議長は、改革への意欲を示し、ローマからの反対をものともせず、実際に先頭に立った。2019年に開始された改革対話がローマからの分離につながると批判された際、ベッツィング議長は「われわれドイツの司教はそのような行動を少しでも考えたことはない」と強く反論した、といった具合だ。
ちなみに、ドイツ教会の改革案は、教会の権力分立(非中央集権体制)、指導部と平信徒の関係改善を核とした内容だ。具体的な提案としては、①司教の任命について信者に発言権を与える、②同性カップルのための祝福を正当化する、③女性聖職者の任命、等が含まれている。
ローマ教皇庁の懸念にもかかわらず、ドイツの教会で同性カップルへの正式な祝福を慣例化しようとしていることに対し、レオ14世は4月23日、赤道ギニアからローマへ向かう機内で、「バチカンは既にドイツの司教たちに同性カップルへの正式な祝福を認めないと明確に伝えている」と説明した。
バチカンの立場は「同性愛カップルへの祝福はあくまでも自発的に行われるべきであり、厳粛な典礼の一部として行われるべきではない。カトリックの教義に基づき男女間のカップルにのみ与えられる結婚の秘跡と混同させてはならない」というものだ。
欧州のカトリック教会ではクィアの信者が増えてきている。同時に、同性愛者を差別してはいけないと考え、積極的にクィアの信者と対話を模索する聖職者が出てきた。ドイツのエッセン=デルヴィヒの聖ミヒャエル教区主催の祭典で地元のカトリック青年共同体(KjG)がレインボーフラッグを掲げたことが発端となって、同性愛者を支援する信者とそれに反対する信者間で暴力事件が起きたことがあった。
なお、レオ14世は「性に関する問題は教会の教義の中心ではない。正義、男女の平等と自由、そして信教の自由といった問題のほうがはるかに優先順位が高い」と述べ、「性道徳の問題が、教会の統一や分裂を決定づけるものであってはならない」と釘を刺している。同性愛者への祝福問題では、レオ14世はべネディクト16世(在位2005年4月~13年2月)と同様、保守的だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







コメント