イラン戦争は「世界大戦の分岐点」か:ジェフリー・サックスの警告

アゴラ編集部

イラン戦争をめぐり、タッカー・カールソンの経済学者ジェフリー・サックスへのインタビューが注目を集めている。彼は問題の本質は単なる中東紛争ではなく、世界経済と国際秩序を揺るがす臨界点に達しているという。

アメリカの撤退か全面戦争か

・サックスは現状を「決定的な分岐点」と位置づけ、外交的撤退か全面戦争かの二択にあると指摘する。
・ホルムズ海峡の封鎖により、石油・ガスだけでなく肥料や石化製品などの供給が遮断され、世界経済はすでに動揺している。
・このため「様子見」は不可能であり、時間とともに危機は加速する。

議論の核心は、今後の選択にある。

・一つは撤退(off-ramp)であり、軍事行動を停止し海峡を再開するシナリオ。
・これは根本問題を解決しないが、経済危機と戦争拡大を回避できる。
・もう一つは軍事的エスカレーションであり、米国とイスラエルが圧力を強化し、イランが報復する構図。

後者の場合の帰結は深刻だ。

・湾岸の石油・ガス施設、淡水化設備、港湾などがミサイル攻撃の対象となる。
・防空システムは完全ではなく、インフラの広範な破壊が現実的。
・数週間で地域の経済基盤が崩壊し、世界規模の経済危機に発展する可能性が高い。

サックスは「全面戦争になれば世界的災厄になる」と強い危機感を示している。

問題はイランの核開発ではなくイスラエルの中東支配

さらに彼は、この戦争の原因について一般的な説明とは異なる見方を示す。

・イランの核開発問題は主因ではなく口実にすぎない。
・本質は米国の対イラン覇権維持、石油利権、そしてイスラエルの地域戦略にある。

歴史的背景についても踏み込む。

・1953年のCIAによるモサデク政権転覆(石油国有化への反発)
・1979年のイラン革命による米国の影響力喪失
・その後の制裁、代理戦争、経済圧力

これらを通じて「対イラン戦争は数十年続いている」と位置づける。

核問題についても異論を提示する。

・イランは核兵器を追求していないと米情報機関も認識している。
・むしろイランはオバマ政権との監視付き合意(JCPOA)を受け入れていた。
・それを破棄したのは米国側である。

ネタニヤフは40年来の野望を実現するまで戦争をやめない

イスラエルについてはさらに厳しい。

・ネタニヤフ政権は先制攻撃による安全保障を基本思想としている。
・パレスチナ国家を認めない立場が紛争の固定化を招いている。
Clean Break戦略に基づき、中東諸国の体制転覆を進めてきた。

その結果、リビア、イラク、シリアなどが不安定化し、イランが最後の焦点となった。

また戦争継続の動機についても冷徹だ。

・アメリカは石油ロビーと覇権維持。
・トランプ政権は政治的な人気取り。
・イスラエルは地域軍事支配の完成。

つまり合理的な安全保障ではなく、政治的インセンティブが戦争を駆動しているという見方である。結論は明確だ。

・撤退は政治的には敗北に見えるが、唯一の合理的選択。
・エスカレーションは短期間で取り返しのつかない破局を招く。
・問題は、正しい選択が政治的勝利にならない点にある。

中東から世界戦争に発展する可能性がある

サックスは最終的に、次のようなメッセージを示している。

・必要なのは面子や勝利ではなく、破局を回避する判断。
・政治指導者の判断が世界の運命を左右している。

現在の中東情勢は、単なる地域紛争ではない。それはエネルギー、金融、安全保障を通じて、世界全体を巻き込む臨界点に達している。

この構図を直視すれば、「撤退か戦争か」という問いは、もはや外交問題ではなく、世界秩序の存続そのものを問う選択になっている。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント

  1. 早川蒼真 より:

    サックス氏の指摘には頷ける部分も多くあります。
    ホルムズ海峡の封鎖が世界経済を直撃するという危機認識、分析はまったくその通りだと思います。

    しかし、「イランの核開発問題は口実にすぎない」「イランは核兵器を追求していない」というサックス氏の主張には、強く反論せざるを得ません。

    その根拠は、IAEA(国際原子力機関)が発行した公式報告書(GOV/2025/24)です。この報告によれば、2025年5月17日時点で、イランの濃縮ウラン総量は約9247.6kg、うち核兵器材料に極めて近い「60%濃縮ウラン」が約408.6kgに達しているとされます。AP通信も同じIAEA報告書を確認して報じており、公式な報告に基づく具体的な数字です。

    ここで、「IAEAは2021年以降イランの施設を完全には監視できていないはずなのに、なぜそんな細かい数字を出せるのか?」と疑問を持つ人もいるでしょう。これは売店に例えると分かりやすいです。昔は、売店の全ての棚、倉庫、レジ、仕入れ記録を毎日チェックできていたので在庫が正確に分かりました。今は、レジ記録や一部の棚は見られるけれど、倉庫の中や商品の移動までは見られない状態だとします。それでも「確認できた一部のデータ」と「お店側からの報告」を合わせれば「だいたい何個あるか」は計算できます。今のIAEAとイランの関係はこれと同じです。IAEA自身、2021年2月以降、濃縮ウラン総量を正確には検証できず、一部はイラン側提供情報に基づく推定だと説明しています。つまり上記の数字は、100%直接確認された確定値ではありませんが、「IAEAが持つ情報から計算された、公式の推定値」なのです。

    60%濃縮ウランの大量保有と監視体制の弱体化は、無視できない核リスクである。イランが兵器級に迫る危険なウランを着実に増やしているという「現実」から目を背け、「核問題はただのアメリカの口実だ」と片付けてしまうのは、あまりにも危険な見方です。そんな国がテロとお友達なのです。

    反戦を訴えるならなおさら、核リスクを正面から認めたうえで、軍事ではなく監視強化によって封じ込めるべきだ、と主張すべきです。

    証拠に基づいた判断こそが必要です。