「道徳的羅針盤」失った世界で生きる人々

オーストリア保険研究所(GOG)が27日発表した最新報告書によると、同国で約30万人がギャンブル依存症に苦しみ、そのうち4分の1が重度だ。ニコチンは依然として最も蔓延している依存症物質であり、アルコールは最も広く使用されている精神活性物質。コカインの使用も増加している。オーストリア国営放送(ORF)は同日、「存亡の危機」(EXISTENZIELL BEDROHLICH)というショッキングな見出しで報道していた。以下、ORFのヴェブサイトに掲載されたGOG報告書の概要を紹介する。

研究結果を報告する依存症専門センター長、マルティン・ブッシュ氏、2026年4月27日

ギャンブルとスポーツ賭博に関する調査を体系的に実施した調査によると、15歳以上の人口の少なくとも50%が年に1回以上ギャンブルに興じ、約4%(約30万人)が軽度以上のギャンブル依存症的な行動を示している。スロットマシン、スポーツ賭博、ポーカーは特に依存症のリスクが高い。

オンラインサービスやスポーツ賭博は、手軽に利用でき、主に若者に人気があるため、特に急速に発展している。依存症治療を受けている人の平均負債額は2万8000ユーロ(約525万円)。頻繁なギャンブルと精神的苦痛との相関関係は、特に若者の間で顕著だ。

ウィーンのアントン・プロクシュ研究所(API)の健康心理学者、オリバー・シャイベンボーゲン氏は「借金は人々を「存在を脅かす」状態に陥らせ、うつ病から自殺未遂に至るまで様々な事態を引き起こす可能性がある」と警告する。

オーストリアにおける薬物使用は全体的には安定しているが、その行動は変化している。特に若者の間で、薬物の種類、消費パターン、リスクに明らかな変化が見られると、依存症専門センター所長のマルティン・ブッシュ氏は記者会見で述べた。

「2025年薬物依存疫学報告書」および「2025年薬物情勢報告書」によると、ニコチン依存は依然として最も一般的な依存症形態だ。人口の約24%が毎日ニコチンを摂取している。従来の紙巻きたばこの消費量は減少傾向にある一方で、電子たばこ、加熱式たばこ製品、ニコチンパウチといった新製品の消費量は著しく増加している。

特に若者の間で、こうした製品への依存がますます高まっている。これらの製品は非常に高濃度のニコチンを含んでいるだけでなく、粘膜を通して体内に「強力に」吸収されるという。ニコチンは最も依存性の高い薬物の一つだ。

一方、アルコール消費は高い数値だが減少傾向にある。アルコールは依然として最も広く使用されている精神活性物質。人口の約15%が健康を害するほど飲酒しており、約5%がアルコール依存症とされている。GOGによると、「男性は女性よりも著しく影響を受けており、問題のある飲酒は年齢とともに増加し、特に40歳から70歳の間で蔓延している」という。

長期的に見ると、アルコール消費量とアルコール関連疾患はともに減少傾向にあるが、絶対数は依然として高い水準にある。若者の約10%も「非常に危険な」飲酒行動を示しており、そのため将来的にアルコール依存症になる可能性が高いという。

また、薬物に関する報告書によると、大麻は依然として最も頻繁に消費されている物質だ。人口の約5分の1が少なくとも一度は大麻を使用したことがあるが、ほとんどは断続的な使用にとどまっている。さらに、治療を必要とする問題を抱える使用者はごく少数だ。

コカインをはじめとする覚醒剤の重要性が著しく高まっている。人口の約6%が少なくとも一度はコカインを使用した経験があると回答している。比較すると、2015年にはコカインを試したことがあると回答した人は3%だった。現在使用している人の割合も増加している。入手しやすさ、価格の下落、純度の上昇といった市場指標は、供給量の増加を示している

高リスク薬物使用は依然としてオピオイドが中心だ。影響を受ける人の数は、2023/24年には最大39,000人に達すると推定されている。同時に、複数の薬物の使用や複雑な摂取パターンが増加しており、緊急事態や死亡のリスクを高めている。2024年の薬物関連死者数は257人で、2010年代初頭と比べて大幅に増加。報告書は、特に10歳から19歳の少女や若い女性の間で、過去5年間で薬物関連死が「著しく増加」していると指摘している。

トランプ大統領再選は「道徳的羅針盤」失われたことと関連はあるのか ホワイトハウスXより


【一口解説】
アムネスティ・インターナショナルのアグネス・カラマール事務総長は20日、ロンドンで年次報告書の発表会において、「道徳的羅針盤を失った世界」について警告を発した。世界の政治情勢は、戦争と紛争が繰り広げられ、道徳的羅針盤を失った状況だが、その世界に生きる多くの人々も同様、未来への見通しがない中、苦悩している。アルプスの小国オーストリアで生きる人々も例外ではない。特に、若者の世界では「ニヒリズム過激主義」と呼ばれる現象がみられる。イデオロギーや思想なき過激主義だ。理由なき反抗、動機なき殺人と呼ばれる現象だ。
ちなみに、ニヒリズム過激主義(Nihilistic Violent Extremism)とは、既存の価値、道徳、社会秩序のすべてを無意味と否定し、その空虚さからくる混沌や暴力を目的化する過激思想。特定の政治・宗教的な目的を持たず、破壊そのものを賛美して暴力を振るう傾向が指摘されている。すべてが無意味であるなら「暴力も許される」という極端な理論から、社会的な大義名分を必要としない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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