政府が為替介入で円安にブレーキをかけても、円相場はすぐに戻ってしまう。介入で円は一時155円台まで急伸したが、その後は再び157円前後へ戻した。市場は政府の「円安阻止」の本気度を試しているのだ。
高市首相の「円安ホクホク」路線が円安相場をつくる
なぜ為替介入はきかないのか。答は単純である。片足でブレーキを踏みながら、片足でアクセルを吹かしているからだ。そのアクセルこそ、高市政権の「積極財政」である。
高市首相は、2026年度予算について、危機管理投資や成長投資に大胆に予算を増やしたと説明している。これは通貨市場から見れば円安要因だが、高市氏はそれを否定せず「円安で外為特会はホクホクだ」と述べた。
しかもイラン戦争による原油価格上昇に対して、高市政権はガソリン価格を170円程度に抑えるため補助金を出している。補助がなければ価格は200円を超える水準で、足元の補助額は1リットルあたり約40円に達している。これは物価高対策ではない。物価高の先送りである。
本来、円安と原油高でガソリン価格が上がれば、消費者は節約し、企業も省エネや代替調達を考える。価格には需給を調整する機能がある。ところが政府が補助金で価格を抑え込んだので、消費は減らず、輸入代金は増え、貿易収支は悪化し、さらに円安圧力がかかる。
高市政権の方針は「インフレ税」
ここで重要なのがインフレ税である。これは政府が明示的に税率を上げなくても、物価上昇によって現金や預金の実質価値が目減りし、政府債務の実質負担が軽くなる見えない増税である。インフレは現金・預金の実質価値を目減りさせ、政府債務負担を軽減する一方、家計の購買力を奪う。
高市政権は、来年度予算の骨太の方針で「債務残高のGDP比の安定的な低下を目指す」方針を発表した。これは次のような数値目標を下げるインフレ税の宣言である:
政府債務比率=名目政府債務/名目GDP
インフレになると分子の政府債務(年金給付など)は名目額で固定されているが、分母の名目GDPはインフレで増えるので実質債務が減る。これは政治的には容易である。増税に国会の同意も日銀の政策金利の引き上げも必要ない。
高市政権は「インフレ税」の方針を明確にした
インフレ税はクリストファー・シムズも安倍首相に提案したが、インフレは通貨価値の毀損だから、円安の原因になる。大幅な円安になると輸入インフレが拡大し、コントロールできなくなる可能性もある。
ただ政治的にはきわめて容易なので、政治家にはインフレ税で財政問題を解決しようとする強いインセンティブがある。トルコでもアルゼンチンでも、財政危機のとき激しいインフレが起こるのは、これが原因だ。
インフレ税は社会保障給付を目減りさせ、世代間の不公平を是正する効果もあるが、1300兆円の政府債務は2%のインフレで実質的に26兆円減る。消費税率が10%上がるのと同じである。高市政権の「積極財政」は大幅増税と同じだということを理解したほうがいい。






コメント
池田氏の指摘には一理あると思います。ただし、「円安の根本原因は高市政権のインフレ税」とまで言い切るのは、かなり単純化しすぎではないでしょうか。2026年3月の物価上昇率は、
・総合CPIで前年比+1.5%、
・コアCPIで+1.8%、
・コアコアCPIで+2.4%
です。一方、2026年2月の毎月勤労統計では、
・現金給与総額が+3.4%、
・所定内給与が+3.4%、
・一般労働者の所定内給与が+3.8%、
・パートタイム労働者の時給が+4.2%
伸びています。これを見る限り、現在の日本は、現金・預金を多く持つ層から、住宅ローンなどの借金を持つ現役世代へ、ある程度の実質的な富の移転が起きている段階と見る方が自然です。
また、トルコやアルゼンチンを例に出して「財政危機から激しいインフレが起きる」と説明するのは、過度な危機感を与えるレトリックに見えます。両国は市場からの信認を失いやすい新興国であり、日本とは金融構造が違います。日本は国債の大半が円建てで、巨額の対外純資産を持つ債権国です。年率数十%のインフレ国と、2%前後の日本を並べるのは、定量的な比較として無理があります。多くの経済学者もそう言うと思いますよ。
さらに、通貨安も高市さんの前の2023年ごろの傾向がそのまま続いているだけに見えます。また財政赤字だけで通貨安が決まるなら、近年は米国の財政赤字の方がGDP比で日本より大きいのですから、むしろ円高方向に動いてもおかしくありません。実際には円安が続いています。
最後に、財政規律への警戒は必要ですが、現在の日本をトルコやアルゼンチンと同列に置いて恐怖を煽るより、冷静に議論すべきではないでしょうか。