本社ビルは本当に必要か:自社保有という「前提」を問い直す

buzbuzzer/iStock

「本社ビルを持ち続けるべきか、それとも売却すべきか」——多くの経営者が一度は直面するこの問いは、実は問い方がずれている。

問題は「持つかどうか」ではない。なぜ持っているのかを、経営者は説明できるか、である。

この問いに答えられない企業は、不動産を「経営資源」として扱っていない。それは「資産を持っている」のではなく、「資産に保有されている」状態に近い。

本社ビルは本当に「事業資産」か

一般に、本社ビルは事業不動産に分類される。企業の中枢機能が集約され、意思決定の拠点となるからだ。この定義は正しい。だが、現実はその前提を静かに侵食し始めている。

テレワークの定着、オフィス機能の分散、拠点の柔軟化――こうした変化は、「本社ビルは不可欠な資産である」という命題に揺らぎをもたらしている。機能が分散できるなら、「中枢」はどこにあるのか。物理的な拠点が意思決定を支えるのか、それとも情報基盤が支えるのか。

この問いに答えられない企業が、本社ビルを「事業資産」と呼ぶことは難しい。「事業に不可欠だから保有する」という論理は、その実態が問われる時代に入っている。

「持ち続ける理由」は合理的か

本社ビルを保有し続ける根拠として、よく挙げられるのは次の三つだ。企業の信用力の象徴であること、含み益が存在すること、そして過去から継続してきたこと。

いずれも理解できる。しかし重要なのは、それが現在の経営戦略に照らして合理的かどうかである。

本社ビルは多額の資本を固定する。その資本を成長投資や事業拡大に回せば、より高いリターンを生む可能性がある。資本コストの観点から言えば、保有コストが事業への貢献を下回っている場合、その不動産は経営にとってマイナスの資産となる。

にもかかわらず、「持っているから持ち続ける」という状態に陥っていないか。もしそうであれば、それは意思決定ではない。惰性である。

「保有しているか」ではなく「機能しているか」

もう一つの視点は、本社ビルが実際に価値を生んでいるかどうかである。生産性を高めるオフィス環境、採用力を強化する立地、ブランド価値の向上――こうした効果が明確であれば、本社ビルは事業に貢献する資産だ。

しかし、過大な面積、低稼働のスペース、形骸化した利用、設備や内外装の老朽化し維持管理コストの負担が常態化しているなら、その資産は十分に機能していない。本社ビルが「象徴」として存在するだけになっているとすれば、それは経営資源の浪費である。

評価の基準は明快だ。「保有しているか」ではなく「機能しているか」。この問いに答えられない不動産は、戦略的に見直す対象となる。機能の検証なき保有継続は、経営判断ではなく放置に等しい。

所有か賃借か——本質は資本配分の問題

では、本社ビルは保有すべきか、賃借すべきか。この論点は個人の「持ち家か賃貸か」に似ているが、企業にとってはより構造的な意味を持つ。

保有は資本を固定するが、資産を蓄積する。賃借は資本を解放するが、資産は残らない。コスト構造も、維持費・減価償却と賃料という形で異なる。どちらが有利かは、資本コストと事業収益の関係、そして企業が置かれた成長局面によって変わる。

つまりこれは不動産の問題ではなく、資本配分の問題である。成長投資を優先する企業であれば、賃借により資本を本業へ集中させる選択が合理的だ。安定資産を重視する企業であれば、保有による資産形成に意味がある。判断の軸は、不動産の属性ではなく経営戦略にある。不動産担当者ではなく、CFOと経営者が経営戦略の観点で議論すべきテーマである。

結論——本社ビルも例外ではない

本社ビルは企業の象徴であり、同時に経営資源である。象徴であることを理由に、経営資源としての評価を免除することはできない。

問うべきは三点だ。①事業に貢献しているか。②資本効率に見合っているか。③経営戦略と整合しているか。

本社ビルだから特別扱いするのではなく、他の資産と同じ基準で判断する――その姿勢が、CRE(企業不動産戦略)の出発点となる。不動産を「経営資本」として再定義するとは、こうした問いを日常の経営意思決定に組み込むことに他ならない。

次回:不動産は「持たない経営」へ向かうのか

こうした議論の延長線上に、一つの方向性が浮かぶ。企業は今後、不動産を持たない方向へ向かうのか。それとも、より戦略的に保有を選択していくのか。次回は「持たない経営」という選択肢の可能性と限界を検討する。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント