「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)と社会民主党(SPD)の2党から成るドイツのメルツ連立政権は発足して今月6日で1年目を迎えた。RTL/ntvの最新の世論調査結果(4月28日時点)によると、メルツ首相の与党「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)」の支持率は22%まで落ち込み、過去最低を記録した。一方、野党第1党の極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」は27%とさらに躍進し、CDU/CSUとの差を5%と大きく引き離したことが明らかになった。
メルツ政権のCDU/CSUとSPD(支持率12%)を合わせても支持率は34%と過半数からほど遠い。前回の連邦議会選挙ではCDU/CSUとSPDは合わせて44.9%だったから、過去1年間で約10%の支持率を失ったことになる。それだけではない。RTL/ntvが委託し、5日に発表されたフォルサ社の世論調査によると、連立政権の実績に満足している国民はわずか11%で、87%が不満を表明している。

独週刊誌シュピーゲルの表紙を飾ったメルツ首相
メルツ政権の1年間の評価は世論調査を見る限りではカタストロフィだ。世論調査機関「フォルサ社」のペーター・マトゥシェク所長は5日、NTVとのインタビューで「国民の不満はかつてないほど高まっている。CDU/CSDUが主導するメルツ政権にはより根深い問題と包括的な戦略の欠如がある」と指摘している。
メルツ政権は発足時から異例のスタートだった。ドイツ連邦議会(下院)で昨年5月6日、CDUのメルツ党首を首相に選出する投票が行われたが、メルツ氏は選出に必要な過半数の支持を得られなかったのだ。同日午後から再開された第2回目の投票でようやく過半数を上回る票を得て新首相に選出された経緯がある。
連邦議会での首相選出投票で候補者が当選に必要な過半数を得ることが出来なかったのは初めてだ。同国では戦後、アデナウアー氏が1949年9月、1票の差でかろうじて選出された。コール氏も同様、1994年に1票差で選出されたことがある。しかし、首相候補者が投票で落選したことはこれまでなかったのだ。
NTVのニュース解説者は当時、「連立政権内でメルツ氏の政策に強く反発する議員がいることが明らかになった。メルツ氏は今後、様々な政策を実施する際にも1回目の投票結果を忘れてはならない」と分析していた。第1回目投票の18票の反対票はメルツ氏の政権運営で今後も悩ますことになるだろういうのだ(「メルツ氏を今後も悩ます18人の反対票」2025年5月7日参考)。

ちなみに、SPDは支持率の低迷で苦慮している。3月8日に実施されたバーデン・ヴュルテンベルク州議会選では得票率5.5%と議席獲得に必要な得票率5%のハードルを辛うじてクリアするという歴史的な惨敗を屈した。同月22日に実施されたラインラント・プファルツ州議会選では同州を35年間君臨してきたSPDは2021年の前回の選挙から約10%得票を減らし、得票率25.9%と州創設以来最悪の結果となった。
フランクフルター・ルントシャウ紙の報道によると、SPD内部にはメルツ首相の政策に過度に追随しているという批判が上がっているという。選挙での敗北とSPD内部の混乱は、ベルリンの大連立政権にとって良い兆候とは言えない。ウクライナとイランで戦争が激化し、経済が低迷を続ける中、主要な改革案は保留状態にある。SPD内には「CSU主導の厳格な移民政策、ベーシックインカムに関するより厳しい措置、そして最近の健康保険基金の貯蓄パッケージに関する妥協案などを支持してきた。SPDはCDU/CSUに大きな譲歩をしてきた」と反論する声が聞かれる。
ところで、NTVは5日、「ドイツ連立政権、分裂の危機」という見出しで報じていたが、CDU/CSUもSPDも連立政権の崩壊は避けたいということで一致している。なぜならば、連邦議会の構成を考えると、AfD抜きで実行可能な他の代案(政権)は難しいからだ。
メルツ氏は「AfDが容認する少数政権など、もはや望みはない。私にとっては論外だ」と述べている。SPD党首のラース・クリングバイル氏は5日、連立パートナーとの政策の対立を認めながらも、「SPDはこの連立政権の成功に引き続き尽力する」と強調している。
CDU/CSU-SPD連立政権の前には重要案件が山積している。健康保険基金の財政削減策は、夏季休会前に連邦議会で可決される予定だ。政府はまた、上半期中に大規模な年金改革の基本原則について合意する意向だ。税金問題をめぐっては、新たな対立が勃発する恐れがある。メルツ氏は、クリングバイル財務相が要求する高所得者への増税に反対を表明し、SPDにさらなる妥協を求めている、といった具合だ。
なお、フォルサ社のマトゥシェク氏は「我々の調査結果が示すように、連邦政府への不満は、現首相の言動、発言、そして統治スタイルに大きく起因している」と分析している。
メルツ首相には失言が結構多い。人種差別的な「都市景観」発言(昨年10月14日)で叩かれたばかりだ。そして外交では先月27日、民間の学校イベントで米イスラエル軍のイラン攻撃を批判し、「イラン指導部によって米国は国家全体が屈辱を受けている」、「トランプ氏にははっきりとした出口戦略がない」と名指しで批判した。そのため、トランプ氏からその数倍の反撃を受ける羽目となったばかりだ。メルツ首相は独週刊誌シュピーゲル誌(4月30日号)のインタビューで自身のコミュニケーション能力の欠点を認め、「その点については、確かに改善の余地がある」と述べている。
ベルリンで5日開催されたキリスト教民主同盟(CDU)経済評議会で、メルツ氏は、国内のムードが危機的であることを認め、「私はこの雰囲気を察知し、認識し、そして非常に深刻に受け止めている。これは一時的な気まぐれや個人的な感情の問題ではなく、非常に現実的な問題だと理解している。毎日、職が失われ、企業が倒産しているのだ」と語っている。
メルツ政権には国民から目に見える経済的成果が求められている。愚痴ではない。いずれにしても、早期解散がなければ、メルツ政権の任期は2029年秋までだ。起死回生のチャンスはまだある。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月7日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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