ローマ教皇レオ14世は8日、教皇就任1年を迎え、イタリア南部ナポリの大聖堂を訪問し、そこで、「血の奇跡」で知られる聖ヤヌアリウスの聖遺物を拝謁した。聖ヤヌアリウス(イタリア語でサン・ジェンナーロ)は、イタリア・ナポリで絶大な信頼を集める守護聖人であり、3世紀末から4世紀初頭に実在したベネヴェントの司教だ。

ナポリの大聖堂を訪れたレオ14世、バチカンニュースから、2026年5月8日
伝承によると、ヤヌアリウスは西暦272年にイタリアのナポリまたはベネヴェントで生まれたとされ、若くしてベネヴェントの司教となった。ローマ皇帝ディオクレティアヌスによるキリスト教迫害の時代(305年頃)、捕らえられた仲間の信者を励まそうとして自らも逮捕された。当初は円形闘技場で猛獣の餌食にされる刑を宣告されたが、獣たちが彼を襲わなかった(あるいは火炉に投げ込まれても無傷だった)ため、最終的にナポリ近郊のポッツォーリで斬首された。
聖ヤヌアリウスが有名な理由は、ナポリ大聖堂に保管されている「聖ヤヌアリウスの血液」にまつわる不思議な現象があるからだ。普段はガラス瓶の中で黒く固まっている乾燥した血液が、特定の祝祭日に液状化する現象だ。
伝統的に、ナポリの守護聖人の血は年に3回液状化する。5月の第1日曜日の前の土曜日(聖遺物がナポリに移送された祝日)、9月19日(聖人の祝日)、そして12月16日だ。その日は1631年のベスビオ山の噴火からナポリが守られたことを記念する日だ。
それらの特定の日に液状化現象が起こらない場合、多くのナポリ市民はそれを不吉な前兆と考える。地震や噴火などの災厄の前触れと受け取るわけだ。ナポリは歴史的にヴェスヴィオ火山の噴火や地震、ペストの流行といった災厄に見舞われてきた。、1980年(イルピニア大地震)にナポリ近郊で約3000人が亡くなる壊滅的な大地震が発生した。2020年(新型コロナウイルス)の パンデミックが猛威を振るい始めた時、12月の儀式で液状化が起こらなかった。
ちなみに、1631年の大噴火で、ヴェスヴィオ火山の溶岩がナポリ市街に迫った際、信者たちが聖人の遺物(血液)を掲げて行進し祈りを捧げたところ、溶岩の流れがピタリと止まり、街は壊滅を免れた。このことから、12月16日は「奇跡の日」として現在も祝祭が行われているわけだ。聖ヤヌアリウスは単なる歴史上の聖人ではなく、ナポリの運命を共にする「街の守護者」だ。
聖ヤヌアリウスの血が液化すれば、ナポリの人々にとって吉兆を意味する。レオ14世が8日、大聖堂に入る直前、この奇跡が起きたのだ。わずか数日の間に2度目の奇跡だ。レオ14世は、「聖ジェンナーロに敬意を表したい。彼はとても大切な存在だ」と述べ、大聖堂に集まった人々の歓声の中、液化した血の入った小瓶を掲げ、キスをしている。
なお、「血の奇跡」は、過去の教皇訪問時にも記録されている。1848年のピウス9世の訪問時には、血の液化現象が記録された。1979年のヨハネ・パウロ2世と2007年のベネディクト16世の訪問時には、この奇跡は起こらなかった。
「血の奇跡」は1389年以来、数世紀にわたり記録されているが、科学的に完全な説明はついていない。科学者たちは、この現象をチキソトロピー(特定の物質が刺激を受けると液化する性質)などに起因するものと考えている。
カトリック教会はナポリの「血の奇跡」を公式に「奇跡」とは断定せず、「驚異的な現象(prodigy)」と呼んで慎重な姿勢を保っているが、信仰の対象として尊重している。「血の奇跡」はナポリの文化やアイデンティティと深く結びついた民間信仰と呼ぶべきかもしれない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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