ハンガリー議会選挙から1か月目が経過した12日、マジャル新内閣の閣僚が宣誓式を行い、新内閣が正式に発足した。ペーター・マジャル首相(45)のもと任命された閣僚は16人。全員がマジャル首相(45)が率いる与党「ティサ」(尊重と自由)所属だ。なお、新内閣には4名の女性閣僚が含まれている。オルバン前内閣は全員男性閣僚だった。

新首相に選出されたマジャル氏、2026年5月9日、ハンガリー首相府公式サイトから
中道右派政党TISZAは4月12日の国民議会選挙で、2010年から圧倒的多数で政権を握っていたオルバン首相率いる右派民族主義政党「フィデス」に対し、圧勝を収めた。フィデスの元支持者であり、元法相ジュディット・ヴァルガ女史の元夫でもあるマジャル氏が率いるティサは憲法改正が可能となる総議席の3分の2を上回る141議席を獲得。一方、オルバン氏が率い、与党だった右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」は経済低迷や汚職体質への国民の不満から、83減の52議席と惨敗した。
新政権は、内政問題では、先ず汚職対策、そして汚職によって失われた国家資産と税収の回収が課題となる。また、財政健全化もマジャル政権にとって大きな課題だ。ハンガリーの財政赤字はGDP比6.8%に達するなど、マーストリヒト条約で定められた3%の上限を大幅に超えている。
マジャル氏はまた、メディア体制の全面的な改革を発表している。選挙勝利後、オルバン政権に好意的な報道を行っていた公共放送のニュース番組を政権発足後直ちに停止し、新たなメディア法を制定すると明言した。オルバン氏率いるフィデス党は、法的、規制的、経済的な権力を巧みに利用し、メディア市場の約80%を直接的または間接的に支配してきた。政権交代以前から、オルバン氏と関係のある企業、特にメディア王ジュラ・バラシ氏が所有する企業に対する捜査が開始されている。
外交問題では、16年間のオルバン政権下で続いてきた欧州連合(EU)との険悪な関係の修復だ。ハンガリー政府は財政強化のため、主に数十億ユーロ規模のEU資金の拠出に期待を寄せている。欧州の基本的価値観の軽視と法の支配の欠如を理由に、EUはハンガリーへの約170億ユーロに上るEU資金を凍結してきた。ブリュッセルによると、「これらの資金は、明確な改革計画が提示された場合にのみ解除される」という。
新政権にとって、ウクライナ政策の見直しが急務だ。その手始めに、マジャル氏はウクライナのゼレンスキー大統領との会談を計画している。具体的な日程はまだ確定していないが、両者とも前向きな姿勢を示しており、準備が整い次第実施される予定だ。
オルバン前首相はEUのウクライナ支援を悉く拒否する一方、ロシアへの制裁に反対してきた。反移民政策を標榜し、欧州の政界で右派政党の台頭を後押ししてきた。オルバン氏はブリュッセルから”欧州の異端児”と久しく呼ばれてきた。

ハンガリーの外交の顔、アニタ・オルバン新外相(副首相兼任)Wikipediaより
新生ハンガリーの”外交の顔”はオルバン新外相だ。姓はオルバン前首相と偶然同じだが、アニタ・オルバン女史(51)だ。エネルギー安全保障の専門家であり、シンクタンクや官民の重要ポストを歴任した実務型・有能な国際政治経済のスペシャリストだ。米国の名門タフツ大学で歴史学修士、フレッチャー法律外交大学院で国際法・外交の博士号(PhD)を取得した。ロシアがエネルギーを地政学的武器として利用するリスクについて早くから警告し、著書『Power, Energy and the New Russian Imperialism』(2008年)を出版している。
オルバン新外相は明確な親欧米・大西洋主義路線を掲げている。独週刊誌シュピーゲルは4月30日号で、アニタ・オルバン女史について「ロシアとの関係を整理することが新外相の最大の課題」と報じている。オルバン新外相は副首相を兼任する。
ハンガリーはエネルギー政策では完全にロシアに依存してきた。80%以上をロシアから輸入する原油・天然ガスに依存する一方、ロシアの財政・技術支援を受けて「パクシュII(Paks II)原子力発電所」の増設プロジェクトを進めてきた。新外相はこのプロジェクトの契約内容を全面的に見直す方針を打ち出し、プロジェクトの機密契約や財務決定の包括的な再審査を始めている。
アニタ・オルバン外相は議会で、「ロシアは今後もパートナーであり続けるが、関係が一方的な依存であってはならない」と明言し、安全保障上の観点からも見直しが必要であるとの立場をとっている。ちなみに、オルバン新外相の交渉相手はロシアのベテラン職業外交官ラフロフ外相だ。新外相の外交手腕が試される。
ところで、マジャル氏は2月、「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)でポーランドのドナルド・トゥスク首相にオルバン女史を紹介した際、「名前(オルバン姓)は単なる偶然の一致だ」とジョークを飛ばしたという。ハンガリーでは「オルバン」という姓名は「よくある苗字」という。トゥスク首相はマジャル氏のジョークに答え、「私のファーストネームはドナルドです」と答え、自身がドナルド・トランプ米大統領と同じく「D・T」だと笑いながら語ったという。

アニタ・オルバン氏Xより
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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