黒坂岳央です。
今、フリーランスから正社員に戻る人が増加しているという。なんとその数、5年前の2.8倍だ。これはフリーランスバブルが崩れていることを意味する。
【フリーランス 正社員に戻る人増加】https://t.co/HsiuN94VKB
— Yahoo!ニュース (@YahooNewsTopics) May 11, 2026
転職支援サービス「リクルートエージェント」の仲介実績によると、正社員の転職数が5年前の2.8倍となっている。筆者はこの動きを「コロナ特需で本来なるべきではなかった人間がフリーランスになり、幻想が晴れてそのバブルが崩壊した」という流れと見ている。
筆者は自分の法人を持っているので、厳密にはフリーランスではない。だが、実態としてフリーランスとあまり変わらない働き方をしている時間が長い。その立場からいたずらにフリーランスを下に見たり、彼らを叩く意図はない。むしろ、当事者として安易にフリーランスになる危うさと現実と伝えたい。

mapo/iStock
平成はフリーター、令和はフリーランスブーム
就職氷河期の筆者には、この動きは少し既視感があるように思える。
平成にフリーターブームがあった。「月給20万円で責任を負う仕事をしたくない。会社に縛られたくない、プライベートを重視したい」という空気の中でフリーターブームが起きた。筆者も高卒後しばらくコールセンターの派遣で働いていたが、そこにはバンドマン、声優志望、役者の卵など夢追い人が大勢いた。
モラトリアムの空気が漂い、正社員になることへの積極的な理由を持てない若者が集まっていた。フリーター人口は2003年にピーク約217万人に達し、その後「ワーキングプア」として社会問題化した。
コロナ後に起きたことはこれと構造が同じだ。IT需要の急増と動画編集・ライターといった参入障壁の低い職種のバブルが重なり、一部のインフルエンサーを中心に「サラリーマンはオワコン」「社畜はダサい」という論調が広まった。
その空気に乗って、特別なスキルもないまま会社員でもできる仕事を引き下げて脱サラする人間が急増した。中には難関大を卒業後、インフルエンサーの指南するプログラミングスクールに入り、内定を辞退、いきなりフリーランスからキャリアをスタートするものもいた。だがそのブームはフリーターブームよりさらに寿命は短かった。
AIが台頭し定型業務の代替が始まることで、今後は更に厳しくなる。フリーター幻想の令和版が、同じ末路を辿っているように見える。
安定なし、稼げないフリーランスの実態
「フリーランスはその気になれば青天井に稼げる!満員電車に乗らずに済むし、上司もおらず、飲み会もない!」と威勢の良い声がコロナ後は響いた。確かに起業して数年で一生分を稼ぐ人もいてそうした景気の良い話ばかりが目立つが、データは厳しい現実を映し出している。
フリーランスの平均年収は約300万円と、会社員の平均478万円を大きく下回る。さらに深刻なのは収入の波だ。独立系フリーランスの直近1年間の最低月収が「ゼロ」と答えた割合は37.6%に上る。「フリーランスは稼げる」というイメージは、高収入層の一部が作り出した虚像に過ぎない。
「経費の裁量があるから実質は会社員と同水準」という擁護論もあるが、それが機能するのは売上500万円以上の層の話であり、平均300万円の層にはそもそも収入が少ないので経費もクソもない。
誤解のないよう言っておくと、フリーランス全部がダメとは思わない。声優やYouTuberのようなタレント業は正社員ではやりづらい。そういう聖域は別の話だが、問題は会社員でも十分にできる仕事を、縛られたくないという理由やインフルエンサーの煽りで勢いだけで飛び出すパターンだ。
こうなると安く買い叩かれ、いきなり発注を止めらる「フリーターのリモートワーク版」のようになってしまう。
フリーランスは片道切符
筆者は正社員をやめたが、独立の動機は「楽をしたい」ではなかった。その逆で「思う存分働きたい」と思ってのことだ。
元々チームワークが苦手だったが、なんとか得意になりたいと思ってたくさん本を読んだり、先輩社員や上司からも助言を頂いた。だが、どうしても自分の性格、気質では組織では実力が出しにくかった。
責任は全部自分が取る、残業時間を気にせず結果が出るまで無限に働く、だから全部一人でやりたい。そういう気質で自然と脱サラへつながった。
今の時代に正社員に戻れと言われれば、一応、迷惑をかけないくらいの仕事はできると思う。本当に必要になれば無理に抵抗せず、自分は戻るだろう。だが一度フリーランスの生活を経験すると、戻るための心理的抵抗がないといえば嘘になる。おそらく他の人はもっとそうだろう。
永久リモートワーク、上司や飲み会がない、育児との両立のしやすさ、誰しも、一度この快適さの味を覚えてしまうと、多少きつくても、収入が不安定でも、ハードワークでもフリーランスを手放せなくなる。フリーランスとは基本的に片道切符だ。
だからこそ、現在起きている「フリーランスから正社員回帰」は相当な負のエネルギーがあると感じる。それはつまり、経済的不安だったり、孤独への耐性、そしてスキルアップや学習機会などの問題だ。
これらをフリーランスの立場で創意工夫だけで賄うのは現実的にかなり厳しい。快適さは欲しいが、不安定さには耐え難い、という人にはフリーランスをしてはいけないのだ。
◇
正社員回帰を選んだ人間を責める気はない。だがそれを正当化せず、撤退は撤退と事実を受け止めるべきだ。そうすることで、「正社員はしんどいからやっぱりフリーランスへ」といったり来たりの無駄な動きをしなくて済む。
極論を言うようだが、フリーランスとは正社員が務まらない人がやるもの、くらいでちょうどいいのかもしれない。
■
2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)








コメント