融和的なトランプ訪中と日本の大軍拡路線の複雑な関係

トランプ大統領の訪中の様子が、大きなニュースになっている。中国に宥和的なトランプ大統領の態度と、同大統領を歓迎する中国の態度が、印象的だからだろう。

トランプ大統領と習近平国家主席 ホワイトハウスXより

昨年に関税カードを切ってしまったトランプ大統領としては、中国との経済関係を深めて、実利を期待させるしか、中間選挙に向けた得点稼ぎが期待できない。経済成長率に陰りが見える中国としては、そのトランプ大統領をパートナーとしてアメリカと建設的な関係を作り直し、経済の安定的運営を目指したい。両者ともに、慎重な様子を崩さない範囲ではあるが、歩み寄りたい思惑が一致した。

日本の高市首相の支持者層は、大軍拡を進めて、中国と厳しく対峙していく意気込みだったが、アメリカにハシゴを外された形となった。

中国の大反発を受けた昨年の高市首相自身の国会での台湾有事発言も、従来から「曖昧戦略」をとっているアメリカが、より明確に中国と対峙していくだろうことを前提にしていたことが、大きな問題点であった。実際には、トランプ大統領のアメリカも、従来の「曖昧戦略」を捨てるつもりはない。高市首相の勇み足の部分があった。

そこで気になるのは、直前に報道されていた日本の防衛費のさらなる大幅増額のニュースである。

【参照リンク】防衛費増額、GDP比3~5%念頭 自民調査会が論点整理案 時事ドットコム

防衛費増額、GDP比3~5%念頭 自民調査会が論点整理案:時事ドットコム
自民党は13日の安全保障調査会で、安保関連3文書の年内改定に向けた論点整理案を提示した。焦点となる安保関連費の増額について、国内総生産(GDP)比3~5%程度を目指す北大西洋条約機構(NATO)などの取り組みを踏まえて検討する方針を打ち出し...

過去4年ほどでGDP比1%から2%へと防衛費の倍増を果たしたばかりの日本だが、さらにGDP比3~5%への大幅増を目指していくのだという。その理由は、「トランプ大統領が要請しているから」という話になっている。

これはどういうことだろうか。アメリカは中国と融和的な関係を築いており、少なくとも緊張を高めたい様子ではない。

これに対して、日本の仮想敵国の筆頭は、今や中国だ。安保三文書改訂の有識者会議の資料のみならず、あらゆる安全保障議論が、中国の脅威を強調するところから、議論を始めている。日本は日米同盟を通じてアメリカの軍事基地を国内に置き、アメリカと一心同体で軍事作戦を進めることを大前提にした防衛政策をとってきている。

アメリカは中国と融和ムードで、日本が中国と対峙するために大軍拡路線に走る、という構図になってきている。

確かにトランプ政権も、来年度予算での大幅な軍事費の増額を求めている。しかしその増額分のどれだけが、北東アジアに投資されるかは、わからない。いずれにせよトランプ政権は、アメリカの負担を減らすために、同盟国が一層の軍事費の増額を進めることを求めている。

そこで日本は防衛費の増額で、軍事的役割の増加を引き受けていかなければならない。欧州では欧州諸国がロシアとの対立を深めて、アメリカは引き気味である。同じように、北東アジアでアメリカが中国と融和ムードになっても、日本は中国との対立を深めていく。そして防衛費を大幅に増加させて、そしてアメリカの高額兵器を数多く購入するなどの措置をとっていかなければならない。
果たして、この高市政権の政策は、本当に日本の国益に合致しているのだろうか。大局観を欠いたまま、日本は、非常に苦しい状況に陥り始めていないだろうか。

トランプ大統領が中国訪問を終えようとしていたとき、日本では長期金利の代表的な指標である10年物国債の利回りが2.73%まで上昇した。1997年以来の29年ぶりの高い水準だ。大規模な為替介入にもかかわらず、円安が止まらないのも顕著な傾向だ。株式市場が低迷してくる傾向もある。中東の混乱に伴う資源不足と物価高の危機も、次第に目立ったものになり始めている。

この経済状況に直面しながら、しかし日本の安全保障コミュニティは、頑として防衛費の大幅増を既定路線として譲らない構えだ。その表向きの理由は「中国の脅威」だが、実態は要するに「トランプ大統領に要請された」ということである。安保三文書改訂有識者会議の「議論」をへて、国家情報局の設置などの措置も、粛々と進められていくだろう。

安保三文書改訂「有識者会議」初会合で示されたこと
1週間前にメンバーが発表されていた安保3文書の年内改訂に向けた有識者会議「総合的な国力から安全保障を考える有識者会議」初会合が、4月27日に開催された。高市首相は、「我が国の平和と独立を守り抜いていく為には、防衛力の抜本的強化を引き続き主体...

高い内閣支持率に支えられた高市政権の支持者層は、嫌中国で軍拡支持のタカ派の層だ。高市政権が続く限り、堅固な支持者層の期待に応えていく政策が続くだろう。

しかしそのような国内事情は、空前の規模の防衛費増額・大軍拡路線が、政策として(選挙対策としてではなく)、本当に必要で、合理的な選択であることを、証明するわけではない。

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