DeNAの創業者である南場智子会長が、15年ぶりに社長へ復帰する。かつて携帯ゲームで急成長したDeNAは、ゲーム、スポーツ、ライブ配信、ヘルスケアなどへ事業を広げてきたが、株価は南場氏がCEOを退任した2011年の最高値を下回ったままだ。
今回の復帰は、DeNAがAIオールインを掲げながらも、まだ十分な成果を業績に結びつけられていない現実を示している。
AIで効率化は進んだ
DeNAはこの1年、「AIオールイン」を強く打ち出してきた。南場氏の説明によれば、AIによって開発現場は大きく変わった。コードを書く作業は減り、プロジェクトによっては作業の95%をAIが担い、人間は5%というケースもあるという。
法務、QA、ライブ配信サービス「Pococha」の配信審査でも、AIによる効率化が進んだ。リーガルチェックでは90%の効率改善、QAでは半分の工数、配信審査では60%削減を実現したとされる。AIは単なる便利な道具ではなく、業務フローそのものを組み替える存在になっている。
ここだけ見れば、DeNAのAI経営は順調に見える。しかし問題は、効率化がそのまま利益成長につながっていないことだ。
浮いた人材が新規事業に向かわない
南場氏は、AIによって現業を効率化し、そこで生まれた人材を新規事業へ移す構想を語っていた。これは理屈としては正しい。AIで少ない人数でも既存事業を回せるなら、人材を成長分野に振り向けられる。
だが現実は簡単ではなかった。効率化で時間が空いても、社員は「今までやりたかったができなかった仕事」を自分で詰め込んでしまう。結果として、新規事業への人材シフトは想定より遅れている。南場氏自身も、ある程度は先に人を動かす「乱暴なリーダーシップ」が必要だと認めている。
これは多くの企業に共通する課題だろう。AIを導入すれば自然に組織が変わるわけではない。AIで仕事が速くなっても、人の配置、評価制度、責任の持たせ方を変えなければ、会社全体の成長にはつながらない。
多角化はしたが、相乗効果は弱い
DeNAはゲーム一本足打法から抜け出すため、医療、ライブ配信、スポーツ、スマートシティなどに事業を広げてきた。横浜DeNAベイスターズもその代表例である。
しかし、事業の多角化はまだ十分な成果を出していない。アナリストからは、M&Aで事業を広げたものの、シナジーを生み出せていないとの厳しい見方もある。
2026年3月期のセグメント利益は前期比15%減の277億円。ゲーム事業は依然として最大の利益源だが、こちらも23%減の297億円だった。スポーツ・スマートシティ事業は18億円、ヘルスケア・メディカルは23億円の赤字。ライブストリーミングは黒字化したものの、買収したIRIAMは赤字が続いている。

つまり、DeNAは多くの事業を持つ会社にはなったが、それぞれが強く結びついて利益を押し上げる構造にはまだなっていない。
ゲーム事業の不安定さ
DeNAにとって、ゲームは今も重要な柱である。だがゲーム事業は水物だ。ヒット作が出れば大きな利益を生むが、ヒットを継続的に出すのは難しい。
1本のゲーム開発に数十億円かかることもあり、リリース後も毎月1億円規模の維持費がかかるとされる。しかも、ユーザーが1つのゲームに長く時間を使う時代ではなくなっている。
「ポケモン トレーディングカードゲーム ポケット」、いわゆる「ポケポケ」のヒットで株価は一時4000円台を回復した。しかし、その後は3000円を下回る水準に戻っている。市場は、単発のヒットだけではDeNAを成長企業とは評価していない。
AI経営の本当の難しさ
DeNAはAI活用をかなり本気で進めている。社員のAI活用状況を数値化する「DeNA AI Readiness Score」を導入し、採用職種も「AIジェネラリスト」「AIスペシャリスト」へと変えた。
ライブ配信ではAIによる審査、ゲームでは難易度測定や動作解析、スポーツでは選手の昇格判断やスイング解析にもAIを使う。会社全体をAI前提に作り変えようとしている点は、他社より進んでいる部分も多い。
南場氏は、AI時代に重要なのは「〇〇×AI」の〇〇の部分だと語っている。つまり、単にAIを使うだけでは勝てない。医療、スポーツ、エンタメ、ものづくりなど、深い専門知識や独自データを持つ領域でAIを使う必要がある。
これは正しい見方である。汎用AIは急速に進化しており、中途半端なAIサービスは大手AI企業に飲み込まれる可能性が高い。だからこそ、DeNAが持つゲーム運営、ライブ配信、スポーツ、顧客基盤をどう組み合わせるかが重要になる。
しかし、ここでも問題は「組み合わせる力」である。DeNAには素材はある。だが、それらを束ねて大きな成長物語にする力がまだ不足している。
南場氏復帰は期待と不安の両方を映す
創業者の復帰は、投資家にとって期待材料になりやすい。南場氏には強い発信力があり、DeNAらしい挑戦の文化を作った人物でもある。
一方で、創業者が15年ぶりに社長へ戻るという事実は、後継者育成がうまく進んでいないことも示している。2人の社長を挟んでも、株価や事業成長を十分に回復させられなかった。だからこそ、創業者が再び前面に出るしかなくなったとも読める。
これはDeNAだけの問題ではない。日本企業では、創業者の求心力に頼る会社は少なくない。だが本当に強い会社になるには、創業者のカリスマを超えて、次の経営者や新しい事業家が育たなければならない。
南場氏のCEO復帰は、DeNAが再び成長企業として評価されるための勝負手である。ただし、AIを使うだけでは会社は変わらない。人材を動かし、事業を絞り、独自の強みを利益に変える経営力が問われる。






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