政局化する補正予算:物価対策か党首討論対策か

平河 邦夫

高市政権が、2026年度補正予算の編成に動き出した。中東情勢の緊迫化による原油高、電気・ガス料金の上昇、ガソリン価格の高止まりに対応するためだというが、この補正予算は単なる物価高対策ではない。

すでに成立したばかりの本予算に、わずか2か月足らずで補正を重ねる異例の展開である。しかも財源には赤字国債の発行が検討されている。これは高市首相が掲げる「責任ある積極財政」の中身が、早くも市場から試される局面に入ったことを意味する。

政府与党連絡会議(産経新聞)

出さないはずの補正予算でガソリン補助金のお代わり?

ロイターは、政府が補正予算の財源として新たな特例公債、つまり赤字国債の発行を検討していると報じている。高市首相は4月下旬の時点では、補正予算について「現時点で不要」との立場を示していたが、5月18日には補正予算を含む資金面の手当てを財務相に指示したことを明らかにした。わずか数週間で方針が動いたことになる。

背景にあるのは、もちろん中東情勢である。米国とイスラエルによるイラン攻撃で原油価格が上昇し、ガソリン、電気、ガスなどのエネルギー負担が家計を直撃しつつある。政府はすでにガソリン価格を1リットル170円程度に抑える補助を続け、夏には電気・ガス料金の補助も復活させる方針だ。

党首討論で野党に攻められる前に先手を打つ

しかし自民党の萩生田光一幹事長代行は、ガソリン補助金について「全く見直しをせずに延々と続けるのはかなり無理がある」と述べた。これは与党内からも、すでに1兆円を超えたガソリン補助金の出口戦略が見えないことへの懸念が出ていることを示している。

さらに今回の補正予算には、明らかに政局的な色彩がある。高市首相が補正予算の検討を明らかにしたタイミングは、党首討論の直前だった。野党から「補正予算を組むべきだ」と迫られてから動いた形になると、政権の主導権を失う。だから先に「すでに指示していた」と打ち出した。これは政策判断であると同時に、政局判断でもある。

本来、補正予算は不測の事態に対応するための制度である。災害、景気急変、国際情勢の激変などに機動的に対応する必要はある。今回の中東危機も補正の理由にはなり得るが、エネルギー価格が上がるたびに補助金で抑え、財源を赤字国債に頼るなら、インフレ要因になる。

円安が進めば輸入物価はさらに上がる。国債が売られれば長期金利も上がる。実際、18日の市場では長期金利が一時2.8%まで上昇し、円安・株安・債券安の「トリプル安」が意識された。ロイターも同日、長期金利の急上昇を伝えている。

市場はバラマキの規模を見ている

市場が見ているのは、補正予算の金額だけではない。高市政権が「責任ある積極財政」と言いながら、どこで財政規律を守るのかである。補正予算が政局化すれば、規模は膨らみやすい。与党は物価高対策を厚く見せたい。野党は「もっと出せ」と迫る。業界団体は補助の継続を求める。結果として、誰もブレーキを踏まないまま、補正予算は選挙前の人気取り装置になっていく。

高市首相にとって本当の難題は、補正予算を組むことではない。むしろ、どこまでを国が支援し、どこからは市場価格として受け入れるのかを説明することである。エネルギー価格の上昇は家計に痛みをもたらすが、価格を補助金で覆い隠し続ければ、節電、省エネ、燃料転換、電源構成の見直しといった本質的な対応は遅れ、経済は価格シグナルを失う。

今回の補正予算は、中東危機への対応であると同時に、高市政権の財政運営を占う試金石である。補正予算は、国民生活を守るための手段であるべきだ。党首討論を乗り切るための演出や、選挙前のバラマキ競争にしてはならない。高市政権が問われているのは、財政を使う勇気ではない。財政を使う範囲を区切る覚悟である。

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