ローマ教皇レオ14世、トランプ政権のAI政策に警戒

バチカンニュースによると、教皇レオ14世は25日、初の回勅「「マニフィカ・ヒューマニタス:人工知能時代の人類保護について」を発表するが、その回勅発表に米国のAI企業アントロピックの共同創設者のクリストファー・オラー氏が出席することが明らかになった。教皇レオ14世が規制問題で米政府と法廷闘争中のアントロピック社の代表をローマに招いたことに対し、トランプ米大統領が反発するのは必至だ。

レオ14世インスタグラムより

レオ14世は25日、回勅「マグニフィカ・ヒューマニタス(偉大なる人類)」を発表する。バチカンによると、カトリック教会の最も重要な文書の一つであるこの回勅は、「人工知能時代の人類保護」をテーマとしている。これは、教皇の社会政策における最初の重要な節目となる。

バチカンで行われる「マニフィカ・ヒューマニタス」の公式発表には、レオ14世のほか、国務長官ピエトロ・パロリン枢機卿、教理省長官ビクトル・マヌエル・フェルナンデス枢機卿、教皇庁社会福祉評議会議長ミヒャエル・チェルニー枢機卿らに加え、政治神学者のレオカディ・ルションボ氏とアンナ・ローランズ氏も同席する。それだけではない。米国企業Anthropic(アンソロピック社)の共同創設者であり、著名なAIセキュリティ研究者のクリストファー・オラー氏が参加する予定となっていることだ。オラー氏はスタートアップ創業者で、GoogleとOpenAIでの勤務を経て、2021年にAnthropicを設立。同社は強力なClaudeモデルで国際的な基準を確立している。ChatGPT最大のライバルと称されている。

アンソロピック社は、AIの安全性と倫理性を最優先に掲げる、世界最高峰のアメリカの人工知能(AI)開発スタートアップ企業だ。OpenAI社の元研究幹部らによって2021年に設立され、現在はOpenAI社に次ぐ世界第2位のAI企業として圧倒的な存在感を誇っている。

2026年4月に発表された最新モデル「Claude Mythos」(クロード・ミュトス)は、人間の指示なしに主要OSやブラウザの脆弱性を見つけ出すなど、これまでに作られた中で最も高性能な数値を叩き出した。あまりにも強力で悪用のリスクがあるため、現在は一般公開を制限し政府等と連携している。

商業化路線にシフトしてきたOpenAIとは違い、アンソロピック社は「人類にとって安全で制御可能なAIの構築」を目指し、AIに善悪の基準となる独自の「憲法(Constitution)」を組み込む手法(Constitutional AI)を採用している。

ところで、アンソロピック社は現在、トランプ米政権との間で「AIの軍事・監視利用の制限(安全規制)」を巡り、法廷闘争で全面対決の最中だ。AIの安全性を最優先する同社の理念と、圧倒的な軍事優位を求めるトランプ政権の思惑が激突した形だ。米国防総省はアンソロピック社に対し、AIモデルへの「完全かつ無制限のアクセス」を要求。しかし同社は、自社のAI「Claude」が「大量監視システム」や人命を奪う「完全自律型兵器」に使用されることを防ぐための規制(ガードレール)の維持を主張し、この要求を拒否した。

これに激怒したドナルド・トランプ大統領は2026年2月、「過激な左派(ウォーク=woke)企業に軍の戦い方を決めさせない」として、連邦政府の全機関に対しアンソロピック製品の使用停止を命令した。同時にヘグセス国防長官は、同社を国家安全保障上の「サプライチェーンリスク」に指定し、米政府と取引する企業に対しても同社との商取引を禁止した。それに対し、2026年3月、アンソロピック社は2026年3月、政府の制裁措置は不当な報復であり権力の乱用だとして提訴した。

問題は、現米政権と激しく対立している当事者をバチカンに招くことは、教皇が米政権のAI政策に対し明確に「不信任」を突きつけた、と受け取られる可能性が高いことだ。ただし、米政府はここにきてアンソロピック社へ歩み寄りを見せてきているという。

米国政権がAIの規制緩和を推進する一方で、レオ14世は倫理的な取り扱いを主張している。同14世は2025年にローマで開催された会議で「軍事部門と民間部門の両方において、AIの開発と応用を綿密に監視し、AIが人間の意思決定の責任を免除したり、紛争の悲劇を悪化させたりしないようにしなければならない」と警告を発してきた。

レオ14世はまた、人間が介在しないAI兵器の戦場投入(自律型兵器)に強い懸念を示している。対イラン作戦など軍事力を誇示するトランプ政権の路線とは真逆だ。トランプ政権が経済・軍事競争に勝つための「規制緩和と開発至上主義」を進める一方、教皇は富の集中や労働者の権利侵害を防ぐための「厳格な国際規制」を求めているなど、トランプ氏とレオ14世はAI政策では立場が違う。

トランプ氏は「米大統領を批判する教皇は要らない」「犯罪や核兵器に弱腰だ」と公然とレオ14世を批判している。それに対し、教皇は先月13日、「私はトランプ政権を恐れていない」と言い切っている。AIを巡る規制問題で両者の関係がさらに険悪化する可能性は排除できない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月24日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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