大手ハウスメーカーはもう庶民の家を作らないのか:進む住宅市場の階層化

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住宅価格の高騰が続いている。国土交通省が公表している不動産価格指数を見ると、住宅価格はこの10年で大きく上昇し、特に都市部マンション価格の高騰が続いている。

一方、建築費も上昇傾向にあり、国土交通省の建設工事費デフレーターでも、建築コストの上昇が続いていることがわかる。

しかし現場を見ると、単純に「住宅が売れてもうかっている」という状況とも少し違う空気を感じる。

実際、この数年で住宅産業の構造はかなり変わってきた。特に大きいのは、大手ハウスメーカーや大手デベロッパーの立ち位置の変化だろう。

かつての大手住宅会社は、いわば「庶民のマイホーム」を大量供給する存在だった。高度経済成長期から平成にかけて、郊外に住宅地を広げ、サラリーマン世帯向けに低廉で質の高い住宅を供給することが主な役割だった。

だが現在、ハウスメーカー各社の中期経営計画を見ると、主力として伸ばそうとしているのは単純な注文住宅だけではない。賃貸管理、都市開発、物流施設、海外事業、富裕層向け住宅、投資用不動産など、「住宅販売以外」の比重が急速に高まっている。

ある大手ハウスメーカー関係者は、「現在は戸建住宅よりも共同住宅受注の比重が大きい」と話す。背景にあるのは、単純な人口減少だけではない。

総務省の人口推計では、日本の総人口は減少局面に入り、特に生産年齢人口の減少が続いている。一方で、国立社会保障・人口問題研究所の世帯数推計では、単身世帯比率は今後も上昇が見込まれている。つまり、「家族向け住宅を大量供給する」という従来型モデルそのものが、社会構造と少しずつ合わなくなってきている。

さらに大きいのが建築費の問題だ。住宅価格が上がっているというと、「土地が値上がりしたから」と思われがちだが、実際には建物価格の上昇がかなり重い。国土交通省の建築着工統計や建設物価調査会の資料を見ても、資材価格、人件費、設備機器価格の上昇は続いている。加えて、2025年省エネ基準適合義務化などもあり、住宅性能向上コストも増加している。

住宅を建てること自体のハードルが、以前よりかなり高くなった結果、大手ほど「利益が取りやすい領域」に経営資源を寄せるようになっている。

例えば富裕層向け住宅。あるいは相続対策としての賃貸住宅。投資家向け収益物件や大規模複合開発などだ。実際、大手各社の決算説明資料を見ると、ストック収益や海外事業、賃貸管理収入などの比率拡大を掲げるケースが増えている。

住宅を1棟売って終わりではなく、管理や運営まで含めて長く収益を取る方向へシフトしている。これは企業としては極めて合理的だと思う。人口減少時代において、単純に戸数を増やすモデルには限界がある。だからこそ、「フロー型」から「ストック型」への転換が進む。

一方で興味深いのは、「普通の実需住宅」が消えたわけではないという点だ。国土交通省の住宅市場動向調査を見ると、依然として住宅取得意欲は根強い。特に近年は、新築マンション価格の高騰を背景に、戸建住宅へ流れる実需も少なくない。

不動産経済研究所の首都圏新築マンション平均価格データでも、近年は1億円近い価格帯が珍しくなくなっている一方、建売住宅は立地や面積を調整しながら、「現実的に買える価格帯」を模索している。

つまり今起きているのは、「実需住宅需要が消滅に向かう道」ではなく、「住宅産業と実需層の距離が広がっている」という現象なのだと思う。

現場にいると、そのズレを強く感じることがある。戸建分譲用地を扱う取引に関わる場合、戸建分譲の現場は今でもかなり泥臭い。道路、擁壁、越境、近隣対応、インフラ、境界確認、解体、行政協議など、案件ごとの癖が非常に強い。

実需住宅供給は、単純な金融商品ではなく、今でも極めて現場産業的な側面が強い。多くの企業では、そうした細かく手間のかかる案件から距離を置く傾向も強まっている。効率性や再現性を求める以上、どうしても大型案件や高単価案件へ寄っていく。

その結果、現在の実需住宅供給を支えているのは、建売分譲市場だ。しかも、その供給主体は必ずしも地域の中小企業だけではない。実際には、大手建売企業による大量供給が住宅市場を支えている側面も大きい。その供給現場では、用地取得、近隣対応、造成など、依然として極めて現場産業的な業務が求められている。

戸建分譲業界は楽ではない。帝国データバンクの調査でも、建設業倒産は増加傾向にあり、資材高騰や人手不足が経営を圧迫している。しかし、それでもなお、実際に「普通の人が買える住宅」を供給しているのは誰なのかと考えると、必ずしもテレビCMで目立つ大企業だけではなく、地域の工務店や中小の建売業者もその一端を担っている。

今、住宅市場そのものが階層化し始めているように見える。富裕層向け住宅、投資用不動産、高額マンション。そして、価格を抑えながら現実的な需要に応える建売住宅や中古住宅。市場は同じ「住宅」でも、見ている顧客層がかなり分かれてきた。

高度成長期のように、「全国民に同じ住宅モデルを供給する時代」ではなくなったとも言える。だからこそ、今後の住宅産業で必要なのは、単純な価格論や市況論だけではないのかもしれない。

「誰が、誰に向けて、どんな住宅を供給しているのか」。そこを見ないと、現在の住宅市場の実態は見えにくい。

華やかな再開発やタワーマンションが注目される一方、実際には地域の小規模分譲や中古流通が、多くの実需を支えている。その現実は、意外とあまり語られていないように思う。

住宅産業は今、大きな過渡期に入っているように見える。

供給側の論理と、実際に家を必要とする人たちの現実。その間に少しずつズレが生まれ始めている。

その変化こそ、今の住宅市場で起きている本当の構造変化なのかもしれない。

【参考データ】

  • 国土交通省「不動産価格指数」
  • 国土交通省「建設工事費デフレーター」
  • 総務省統計局「人口推計」
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の世帯数将来推計」
  • 国土交通省「住宅市場動向調査」
  • 不動産経済研究所「首都圏マンション市場動向」
  • 帝国データバンク「建設業倒産動向」
  • 国土交通省「空き家政策関連資料」

 

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