欧州の観光事情と次世代の「旅の哲学」

クロアチアの観光地における過剰なアルコール消費を受け、ザグレブの議会は29日、自治体が夜間のアルコール販売を禁止する権利を認める法律を可決した。クロアチア議会の議員151人中、出席した117人全員が同改正案に賛成票を投じた。可決された法律によると、市町村は「公衆衛生、治安、文化遺産、環境を保護するため」にアルコール販売を制限できる。ただし、バーやレストランは対象外だ。グラヴィナ観光相は、「この法律の目的は観光と健全な共生関係を築きたいと願う地元住民の生活向上が狙いだ」と説明した。

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現地からの報道によると、歴史的なディオクレティアヌス宮殿を擁するスプリト市のトミスラフ・スタ市長は、この改革に基づき、アドリア海沿岸のリゾート都市であるスプリトで午後9時以降のアルコール販売を禁止すると発表した。フヴァル島やクロアチア中部沿岸都市ザダルなど、他の人気観光地でも同様の禁止措置が発表されている。首都ザグレブでも禁止措置を検討中という。

西バルカンに位置するクロアチアは人口400万人弱の小国だ。アドリア海沿いには欧州有数のリゾートエリアを有し、夏季に入ると欧州から多数の旅行客がアドリア海沿いの避暑地を訪れる。クロアチア議会の今回の決定もシーズンインを控えての対応の一つだ。

ちなみに、クロアチアのようなアルコール販売禁止などを実施している欧州の観光地としては、ヨーロッパ屈指のパーティーアイランドとして知られるスぺイン・バレアレス諸島(マヨルカ島、イビサ島)では、2024年5月から非常に厳しいアルコール規制が導入されている。観光客が集まる特定エリアの小売店(スーパーなど)において、夜21:30から翌朝8:00までのアルコール販売が全面禁止されている。路上での飲酒行為そのものも禁止されており、違反した観光客には最高3,000ユーロ(約50万円)近くの巨額の罰金が科される。

また、ポーランド・ワルシャワ(および主要都市)では、観光客や夜間の酔客による治安悪化を防ぐため、地方自治体に夜間のアルコール販売禁止権限を与える動きが広がっている。首都ワルシャワや、歴史的な観光都市であるクラクフなどの一部の区・エリアにおいて、夜22:00から翌朝6:00まで小売店での酒類販売を禁止する条例が導入・検討されている。

6月に入ると、欧州はいよいよ観光シーズンを迎えるが、今年は少し事情が異なっている。米イスラエル軍のイラン攻撃が開始され、世界の原油輸送ルートのホルムズ海峡がイラン側によって封鎖されて以来、世界の原油価格が急騰し、旅客機の燃料ケロシン(ジェット燃料)不足などで、一時期飛行機が飛ばなくなるのではないかといった懸念の声が聞かれたほどだ。オーストリアでは「今年は外国旅行はやめて、国内旅行に切り替える国民が増えてくるだろう」と予想されている。

ところで、観光都市ではオーバーツーリズム(観光過剰)への懸念やその対策が大きなテーマとなっている。ベネチアやバルセロナのような「住民が観光客を拒絶する」といった状況も見られる。

「観光公害」に発展する前に、住民と観光が調和して共存できる独自の画期的な取り組みを進める声も聞かれる。例えば、ウィーン市とウィーン市観光局は、2019年に他都市に先駆けて「ヴィジター経済戦略(Visitor Economy Strategy)」を策定している。住民ファーストの視点で、「都市が観光のために何ができるか」ではなく、「観光が都市(住民)のために何ができるか」を重視する。

音楽の都ウイーンでは「オプティマム・ツーリズム(最適な観光)」の推進が行われている。単なる観光制限ではなく、都市の許容量に合わせた良い成長を目指している。例えば、特定の地域への集中を防ぐため、周辺区やローカルな魅力を発信して観光客を市内全域へ自然に分散させる施策を行っている。

ちなみに、「観光」という言葉は、「光」を「観る」という意味だが、東洋と西欧ではその「光」の内容が異なる。東洋の古典(『易経』の「観国之光」)によると、「国の光(優れた文化、政治、風俗)を観る」という意味だ。一方、キリスト教的社会では「神の創造された自然や、人間の内にある神聖な光(創造性)を観る」という意味合いがある。

オーバーツーリズムの時代に本来の「観光」を取り戻すために、近年「レスポンシブル・ツーリズム(責任ある観光)」や「リジェネラティブ・ツーリズム(再生型観光)」という新しい旅の哲学が生まれている。「再生型観光」は、環境や社会を単に維持するだけでは手遅れであり、旅を通じて、傷ついた土地やコミュニティを旅の前より良い状態にして返す(再生・修復)必要がある」、という危機感から生まれた次世代の観光哲学だ。

イギリスの観光戦略家であり「Conscious Travel(意識的な旅)」の創設者アン・ポロック氏は「観光を産業(工業的な生産ライン)として捉えるのをやめ、土地、住民、そして旅行者が互いに影響し合って生きる生態系として捉え直す手法」を提唱している、といった具合だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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