企業不動産はどう評価すべきか:簿価・時価・収益価値の違い

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(CREが変える経営財務 ②)

企業が保有する不動産には、複数の「価格」が存在する。固定資産税評価額、相続税評価額、公示地価、実勢価格、取引価格——それぞれ異なる数字が並ぶ中で、経営者はどの価格を拠り所にすべきなのか。

この問いに対して、多くの企業は明確な答えを持っていない。不動産の「評価」が税務・会計・市場・経営という異なる文脈で語られ続けてきた結果、経営判断に直結する視点が抜け落ちてきた。それが、日本企業における企業不動産(CRE)活用の最大の盲点ではないか。

なぜ不動産には複数の価格が存在するのか

例えば、ある土地について固定資産税評価額が5,000万円、相続税評価額が7,000万円、実際の売却価格が1億円になるケースは珍しくない。同一の土地に対して三つの異なる数字が存在する。経営者が「結局いくらなのか」と困惑するのは当然だ。

答えは単純である。それぞれの価格は、異なる「目的」のために算定されている。固定資産税評価額は課税のための価格であり、相続税評価額は税負担計算のための価格であり、実勢価格は市場での取引を成立させるための価格だ。不動産に絶対的な価格は存在しない。目的に応じた複数の価格が存在するのである。

経営者が最も見落とす「簿価」という落とし穴

企業経営において特に注意が必要なのが、会計上の帳簿価格——すなわち簿価である。取得原価から減価償却を控除した数値であるため、長期保有資産では実態と大きく乖離する。

東京都心部では、取得時3,000万円だった土地が現在3億円超の価値を持つケースも存在する。しかし貸借対照表には依然として低い簿価が計上され続ける。

経営者自身が自社不動産の実態価値を把握していない状況は、こうした構造から生まれる。特に事業承継やM&Aの場面では、「帳簿上の価値」と「実際の市場価値」の乖離(含み損益)が交渉の根幹を揺るがすことになる。

実勢価格だけを見ても経営判断は完結しない

では、市場価格を把握すれば十分か。そうではない。実勢価格は接道条件・形状・用途地域・再開発計画の有無によって大きく変動する。不動産会社が査定した数字が、そのまま企業価値に直結するわけではない。

さらに、売却実現には時間とコストを要する。市場価格は「潜在的な価値」にすぎず、流動性リスクと切り離せない。経営者に求められるのは、市場価格を理解した上で、それに振り回されない視点を持つことだ。

企業が本当に問うべきは「収益価値」である

税務・会計・市場、いずれの価格も「企業経営への貢献」を直接測る指標ではない。ここで重要になるのが収益価値という概念だ。その不動産が将来にわたってどれだけの経済的価値を生み出すかという視点である。

年間1,000万円の賃料収入を生む不動産と、全く収益を生まない遊休地では、同じ1億円の市場価値であっても企業への貢献度は根本的に異なる。また、工場や物流施設のように直接賃料を生まなくても、本業の利益創出を支える不動産も存在する。価格ではなく「何を生み出しているか」で問い直す視点が、CRE戦略の起点となる。

不動産評価は、経営判断そのものである

人口減少、金利変動、地価の二極化、建築コスト上昇という構造変化の中で、「保有すること自体に価値がある」という前提はもはや成立しない。不動産の価値は、それを経営にどう組み込むかによって決まる時代に入っている。

経営者に問われるのは、税務評価でも帳簿価格でも単なる市場価格でもなく、自社の事業・財務・承継・企業価値を支える資源として、その不動産が機能しているかどうかだ。

企業不動産は土地や建物ではない。経営資本である。だからこそ評価の問いは、「いくらか」ではなく「何を生み出しているか」から始めなければならない。

【次回予告】
企業不動産の価値は価格だけでは測れない。では、企業は保有する不動産をどのような基準で分類・管理すべきなのか。次回は「企業不動産は誰のためにあるのか」をテーマに、事業・財務・承継という三つの視点から企業不動産の本質的役割を考察する。

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