日経6万8000円超でも豊かさが感じられない理由

黒坂岳央です。

「実感なき好景気」という言葉が一人歩きしている。日経平均が7万円に迫り、株式市場は活況を呈しているにもかかわらず、多くの日本人が豊かさを感じられないと、テレビもネットも「矛盾だ」を繰り返し報じて政治批判をする。だが、これは考えてみれば矛盾でも何でもない。

単に株高が国民全体の豊かさを必ずしも表すわけでは無いだけだ。つまり、「株を持たない人間にとっての実感なき好景気」という普通の話に過ぎない。主語が「日本人全体」にすり替えているからおかしな話になる。

monzenmachi/iStock

大量の日本人富裕層が生まれた

フランスの大手コンサル会社キャップジェミニが発表したワールドウェルスレポート2026によれば、2025年に日本で新たに誕生した富裕層(投資可能資産100万ドル以上の個人)は43.6万人にのぼる。

この数字はなんと、アメリカの73.6万人に次ぐ世界第2位の増加数だ。中国の15.4万人を大きく上回り、日本の富裕層人口は推計440万人に達している。つまり、日本の株高は間違いなく「日本人を豊かにした。ただし株主を」ということだ。

伸び率で見ると、日本は前年比10.9%増。アメリカや中国の伸び率を上回った。背景には日本株の上昇がある。日経平均は2024年に19.2%上昇して4万円を突破し、2025年には5万円台に到達した。株式や投資信託を持っていた人間は、この恩恵をそのまま資産増加として受け取った。

「日本人は貧しくなった」という聞き飽きたセリフと、「株高で大量の富裕層が生まれた」というデータは矛盾しているように見えるが、実は矛盾していない。豊かになった日本人と、そうでない日本人に分断されただけだ。

メディアは怒りを売っている

メディアの視聴者・読者の大多数は株を持たない層だ。その層に向けて「あなたが豊かさを感じられないのは企業が利益を還元しないから。政府はダメだから」といった煽りのメッセージを届けて、共感を売ることでアクセス数をお金に変えるビジネスをしている者もいる。

これは意図的な「主語の詐欺」といっていい。「日本人は豊かになっていない」という文章は、正確には「株を持たない日本人の多くは豊かになっていない」と伝えるべきだ。この一語の省略が、現実の認識を大きく歪める。

怒りの感情は強いコンテンツになる。格差拡大への怒り、株高への怒り、「持つ者」への怒りは、それ自体がメディアのお金に変わる。視聴者は怒りを消費し、溜飲を下げ、しかし自分の資産は1円も増えない。

投資をしない人が悪い?

こういう議論になると「株を買わない人が勉強不足なだけだ」という意見が出てくる。これ自体は正論だ。

しかし、これは日本人が投資の不勉強というより国の投資環境が良くなかったから、勉強をする動機が生まれなかったという発想が自然だ。実際、日本はデフレの30年間、投資の勉強をしてもほとんど報われなかった。

元本が増えない環境で金融リテラシーを高めても、得られる果実はほぼなかった。そのため、国民に積極的な投資の勉強のインセンティブがなかったことはなんら不思議ではない。デフレ環境化の当時、貯蓄を選んだことはむしろ合理的といえる。

問題は、インフレへと環境が変わったのに行動が変わらないことにある。つまり、2020年以降は資金的余裕があるのにリスク資産へ投資をしていない人については「完全に自己責任」と言える。

ここ数年間で日本は明確に変わってきた。インフレが定着し、株式市場が長期上昇トレンドに入り、貯金の実質価値が毎年目減りする時代になった。この環境変化に対応できた人間と、できなかった人間の間で、資産格差が急速に広がっている。格差は「持つ者が搾取した」結果ではなく、「環境変化への対応速度の差」が生んだものだ。

だとすれば、怒りを株高に向けることに意味はない。怒っている間も、市場は動き続ける。

投資は稼ぐ力が全て

資産運用の本質は元本だ。100万円を年利5%で運用しても、年間5万円だが、1億円なら500万円と文字通りケタ違いの結果を生み出す。元本の差が、最終的な資産額の差をほぼ決定する。

つまり、投資で豊かになるための最大の変数は「稼ぐ力」である。ギャンブル的思考で一攫千金な株を探すことでも、ポートフォリオの最適化でもない。入金力を高めること、すなわち本業で稼ぐ力を上げること以外に、資産形成を加速させる方法はない。

確かに30年、40年と運用をすれば少額の資金も大きく太るが、まずスキルをつけて転職して収入を増やすほうが圧倒的に効率がいい。

予言しておく。日経が8万円になっても9万円になっても、メディアは次の「実感なき好景気」を報じ続け、株を持たない人間にとっては関係のない数字であり続ける。

株高を「自分とは関係のないニュース」として消費するのか、「自分の資産が増えているデータ」として受け取るのか。その違いを生むのは、怒りの感情でも政府の政策でもなく、今日の自分の選択だけである。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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