自衛隊を社会の外に置くな:少子化時代に必要な日本版ROTCと予備役企業支援

自衛官の採用が3年ぶりに1万人を超えた。だが、少子化で人が集まらないという構造は消えない。必要なのは募集ポスターの増刷ではなく、社会と自衛隊をつなぐ制度だ。大学、企業、自治体が防衛と予備役を支える仕組みに変えなければ、少子化時代の防衛力は維持できない。

自衛官らの採用人数 3年ぶりに1万人超 
小泉防衛大臣は2025年度の自衛官らの採用人数が3年ぶりに1万人を超えたと明らかにしました。小泉防衛大臣「防衛力の基盤は人であり、自衛官の人材確保は至上命題です。防衛省としてこれまでの各種施策に引き

小泉防衛相は、2025年度の自衛官らの採用人数が1万1177人となり、3年ぶりに1万人を超えたと明らかにした。18歳から33歳未満を対象にした一般曹候補生は5年ぶりに増え、自衛官候補生も前年度比で約35%増えたという。処遇改善の効果が出始めたのなら、それ自体は歓迎すべきことだ。

しかし、ここで安心してはいけない。少子化そのものは消えない。民間企業との人材獲得競争も続く。1年の採用回復で、自衛官不足という構造問題が解決するはずがない。

日本に足りないのは、募集ポスターだけではない。自衛隊と社会をつなぐ中間制度である。

内閣府の世論調査では、自衛隊に「良い印象を持っている」とする人は93.5%に達する。災害派遣で自衛隊に感謝する人も多い。だが、好意と接点は違う。多くの国民にとって、自衛隊はテレビで見る存在であり、基地祭で見る存在であり、災害時に現れる存在である。

つまり、自衛隊は好かれているが、社会の中に組み込まれていない。

ここに日本の弱さがある。自衛隊に入るか、入らないか。防衛に関わるか、無関係でいるか。その間が薄すぎる。一般大学生、企業、公務員、自治体が、自衛隊や予備役と自然に接続する制度が弱いのである。

最大の壁は大学である

だからこそ、日本版ROTCが必要になる。だが、五つの改革の中で一番難しいのも、大学連携型ROTCである。理由ははっきりしている。日本の大学には、自衛隊との接点そのものを嫌う空気がまだ残っているからだ。

その象徴が、名古屋大学の学園祭「名大祭」で起きた自衛隊ブース中止である。名大祭では、6月13日に災害対応などに関する自衛隊展示が予定されていた。ところが、大学の教職員組合から「本質的に軍事組織である自衛隊の一面的な宣伝活動にあたる」などとして中止を求める声明が出され、大学側も安全上の懸念を示し、実行委員会が自主的に中止したと報じられた。

名古屋大学の学園祭「名大祭」で予定されていた自衛隊の出展が急遽中止 | 名古屋・愛知・岐阜・三重のニュース【CBC news】 | CBC web
名古屋大学の学園祭「名大祭」で、13日に予定されていた自衛隊の出展が、急遽中止されたことが分かりました。中止されたのは、13日に予定されていた災害対応などに関する自衛隊の展示です。名大祭実行委員会により…

名大祭の公式ページによれば、予定されていた内容は、自衛隊車両展示、防災知識の紹介、「自衛隊式体力測定」だった。戦争教育でも、武器使用訓練でもない。防災と体験型展示である。それでも大学祭の一ブースすら成立しない。これが、社会と自衛隊の距離の現実だ。

自衛隊ブース | 自衛隊 | 名大祭
この企画は中止となりました。 こちらのページもあわせてご確認ください。 自衛隊企画の中止について 企画紹介 名大祭に自衛隊が堂々登場!実際の自衛隊車両展示に加え、プロの知恵が詰まった防災知識の紹介、さらには己の限界に挑む「自衛隊式体力測定」

その後、名古屋大学は自衛隊に直接謝罪し、「学生に非はなく、関係部局のみの判断でガバナンスに課題」と説明したと報じられている。これは、単なる学園祭トラブルではない。大学が安全保障を正面から扱う体力を失っていることの表れである。

学園祭の前日に…自衛隊の“出展中止” 混乱を招いたとして名古屋大学の総長が自衛隊に謝罪 「学生に非はなく、関係部局のみの判断でガバナンスに課題」 | TBS NEWS DIG
名古屋大学の学園祭で予定していた自衛隊の出展が直前に中止された問題で、大学が自衛隊に直接謝罪しました。この問題は、名古屋大学の学園祭「名大祭」で6月13日に予定していた自衛隊の出展が前日に急きょ、中止…

もちろん、大学が軍事や安全保障を批判的に検討することは必要だ。自衛隊を無批判に礼賛せよと言っているのではない。だが、批判的に考えることと、接点そのものを排除することは違う。

国際法、憲法、科学技術、サイバー、災害、医療、物流、エネルギー、国民保護。現代の防衛は、大学で学ぶ知識と切り離せない。にもかかわらず、自衛隊がキャンパスに来るだけで「宣伝」として排除されるなら、学生は何を見て判断すればよいのか。

大学から自衛隊を遠ざけることは、平和教育ではない。現実から学生を遠ざけるだけである。

日本版ROTCは採用制度だけではない

ROTCとは、大学で学びながら軍事教育やリーダーシップ教育を受け、卒業後に将校や予備役へ進む制度である。米国の陸軍ROTCは1,000を超える大学で提供され、卒業後は陸軍、陸軍予備役、州兵の少尉として任官する道がある。米国には、大学のROTCと州兵・予備役に同時所属するSMPという仕組みもある。

参考制度としては、米陸軍ROTC州兵SMPがある。

もちろん、日本に米国型をそのまま移植する必要はない。いきなり勤務義務つきの本格ROTCを大学に入れれば、反発は避けられない。名大祭の件を見れば分かる。

ならば、まず英国型に近い軽量制度から始めればよい。英国のUniversity Officers’ Training Corpsは、大学生が基礎的な士官教育、冒険訓練、リーダーシップ教育、スポーツ、社会活動に参加する制度である。参加は有給で、将来の入隊義務を前提にしない。軍への入口であると同時に、社会と軍をつなぐ教育制度でもある。

日本にも素材はある。予備自衛官補である。防衛省は、一般社会人や学生を予備自衛官補として採用し、教育訓練修了後に公募予備自衛官として任用する制度だと説明している。制度の目的も、国民が自衛隊に接する機会を広く設け、防衛基盤の育成・拡大を図ることにある。

予備自衛官補|自衛官募集サイト
予備自衛官補の応募から受験の流れ、入隊後の流れ、処遇などを掲載しています。志願票をダウンロードできます。民間人を予備自衛官補として採用するコースです。(一般と技能の2コースあり)

ならば、これを大学連携型に拡張すればよい。

大学で、防衛、災害派遣、国民保護、サイバー、通信、補給、国際法、危機管理を学ぶ。一定の訓練を修了した学生は、予備自衛官補、公募予備自衛官、技能公募予備自衛官へ進む。さらに自治体防災職、公務員の危機管理部門、インフラ企業、防災関連企業への就職評価にも接続する。

これなら、全員を自衛官にする制度ではない。社会の中に防衛リテラシーを広げる制度である。

現行の自衛隊奨学生制度だけでは足りない。自衛隊奨学生は、卒業後に自衛隊へ進む学生への学資支援として意味がある。しかし、防衛省の募集サイトでも、自衛隊奨学生の間、入隊まで自衛隊の訓練に参加することはないと説明されている。これはROTCではない。採用予約に近い。

予備自衛官を職場の迷惑にするな

大学だけでは足りない。企業との接続も必要だ。

日本社会と自衛隊の距離は、予備自衛官への職場の扱いにも表れる。一般企業では、予備自衛官が訓練に行くことを快く思わない場合がある。同僚からは、訓練招集手当を「休んで金をもらっている」と受け取られることすらある。

これは完全に見方が逆である。

予備自衛官訓練は副業ではない。趣味でもない。国の予備戦力を維持する公的任務である。手当は小遣いではなく、国防コストだ。

防衛省は近年、予備自衛官等の処遇改善を進めている。予備自衛官手当は月額13,100円、訓練招集手当は日額11,600円となっている。即応予備自衛官手当も月額19,700円、訓練招集手当は階級に応じて日額18,200円から27,200円である。

これは当然である。むしろ遅すぎた。

だが、本人への手当だけでは不十分だ。予備自衛官を雇う企業側にも負担が発生する。訓練に出る間の業務調整、代替要員、同僚の負担、評価制度の調整。これを企業の善意だけに押し付ければ、予備自衛官は職場で肩身が狭くなる。

防衛省にも制度の芽はある。即応予備自衛官を雇用する企業には、1人あたり月額42,500円、年額510,000円の給付金がある。防衛出動、国民保護等派遣、災害派遣などで予備自衛官や即応予備自衛官が勤務先を離れた場合には、雇用企業協力確保給付金として日額34,000円が支給される。

さらに、防衛省発注工事の総合評価落札方式では、予備自衛官等を現場配置する場合に加点評価を行う仕組みもある。つまり、入札加点という考え方は、すでに日本にも存在している。

ならば、もっと広げるべきだ。

予備自衛官や即応予備自衛官を雇用する企業には、優遇税制を設けてもよい。国や自治体の公共調達、防災、インフラ、建設、警備、物流、IT、医療、防災用品の入札で加点評価してもよい。社会保険料負担の軽減や、訓練休暇への補助を入れてもよい。

これは企業へのえこひいきではない。防衛基盤への投資である。

海外では、予備役勤務を個人のわがままとは扱わない。米国にはUSERRAがあり、軍務や訓練から戻る従業員の復職権を保障している。豪州では、雇用主が予備役勤務のために年休取得を強制することはできない。英国でも、動員時には本人と雇用主への財政支援がある。

もちろん、海外にも職場調整の苦労はある。予備役が職場を離れれば、どこの国でも仕事は誰かが埋める必要がある。だが、重要なのは社会の扱い方である。主要国では、予備役勤務を公共的義務として制度に組み込んでいる。日本ではまだ、職場の空気と企業の善意に頼りすぎている。

自衛官不足を本気で解決するなら、現役だけ見てもだめだ。予備役を厚くしなければならない。予備役を厚くするなら、大学、企業、自治体、公務員制度を巻き込まなければならない。

五つの改革

政策 内容
大学連携型ROTC まずは防衛リーダーシップ課程、危機管理・国民保護課程として始める。単位認定、奨学金、予備自衛官補への接続を用意する。
予備自衛官補の拡張 学生や社会人が防衛に関われる入口として、サイバー、医療、語学、物流、土木、通信などの技能コースを強化する。
協力企業の優遇 給付金だけでなく、税制、公共入札、自治体調達、BCP認証で評価する。
訓練休暇の制度化 予備自衛官訓練を年休消化や欠勤扱いにしない仕組みを広げる。
自治体防災との接続 予備自衛官、退職自衛官、ROTC修了者を、防災監、危機管理、避難所運営、物資輸送、インフラ復旧の人材として評価する。

自衛隊を社会の外に置いたまま、国は守れない。

日本社会は自衛隊に好意的である。しかし、自衛隊を社会の一部として使う制度を十分に持っていない。災害時だけ感謝し、平時は遠ざける。予備自衛官が訓練に行けば職場で気を使わせる。手当が出れば嫉妬する。これでは、予備戦力が厚くなるはずがない。

必要なのは、社会と自衛隊の距離を縮める制度である。

大学には日本版ROTCを。企業には予備自衛官雇用の優遇を。自治体には防災・危機管理での活用を。公務員制度には予備役参加の後押しを。

自衛官を集めるだけでは足りない。社会全体が、防衛を支える側に回らなければならない。

手当は小遣いではない。国防コストである。

予備自衛官を雇う企業は、単なる雇用主ではない。国の防衛基盤を支える協力者である。

その当たり前を制度にできるかどうかが、少子化時代の防衛力を左右する。

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