フランス東部エビアンで開催された先進7カ国首脳会談(G7サミット)は17日、米イラン覚書にトランプ米大統領とイランのぺゼシュキアン大統領が署名したことでハッピーエンドとなった。トランプ氏がG7サミット会議の最終日まで開催地に滞在できたのはホスト国フランスのマクロン大統領の計算つくされた外交手腕の功績故だといわれる。

フランス東部エビアンのG7首脳会議の記念写真、2026年6月16日、首相官邸公式サイトから
トランプ氏は前回のカナダで開かれたG7サミットでは、中東問題の対応のためという理由を挙げ、早く引き上げてワシントンに戻った。大統領任期があと11か月余りとなったマクロン氏としては有終の美を飾る意味でも、トランプ氏をサミット最終日まで留めておきたい。そこで考え出した秘策は、豪華なシャンデリアと天井画が圧巻のベルサイユ宮殿での夕食会にトランプ氏を招待するということだ。
トランプ氏はサミット会議から途中退席せず、終始気分が良かったという。ベルサイユ宮殿での夕食会への接待はやはり効果があったのだろう。トランプ氏は世界有数の資産家だ。米経済誌フォーブスによると、純資産は約65億ドルという。その気になれば、世界の最高級レストランでメラニア夫人と食事することなど問題がないはずだ。にもかかわらず、ベルサイユ宮殿での夕食会となれば特別なのかもしれない。
それにしても、人は接待を受けるのを喜ぶものだ。トランプ氏も例外ではない。日本では東京大学大学院医学系研究科の教授らが、共同研究の実施や便宜の見返りとして業者から多額の遊興・接待を受け、収賄容疑で逮捕・起訴された汚職事件(通称:東大カンナビ事件)があったばかりだ。
東大医学部の教授と言えば、エリート中のエリートだ。その教授が接待を受けたというより、相手側に接待を要求したというのだ。「人は考える葦」の前に、接待を喜ぶ存在だ、と言えば、人間の威厳がなくなる。考える葦ではあるが、豪華な食事に接待されたいと願う存在でもある、というべきかもしれない。
マクロン大統領のトランプ氏への接待が今後の両国外交でどのような成果をもたらすかは不明だが、フランスの接待外交の歴史は長い。例えば、同国の外交官タレーランの美食外交は有名だ。時は1814年、ナポレオン戦争後のヨーロッパの戦後処理のために開かれた「ウィーン会議」での出来事だ。
フランスの外交官タレーランは、敗戦国という不利な立場を覆すために「接待」をフル活用した。彼はフランスから超一流のシェフを呼び寄せ、連晩のように豪華な晩餐会を開催。「会議は踊る、されど進まず」と揶揄されるほど他の国々が夜な夜なパーティーに興じている間、タレーランは美食とワインで各国の代表を懐柔した。結果、敗戦国であるはずのフランスは領土をほとんど削られることなく、国際社会への復帰を果たしたというのだ。
接待する側は相手の好みや嗜好を事前に知っておくことが大切だ。19世紀後半、ドイツ統一を目論むプロイセンの宰相ビスマルクは、宿敵であるフランスの皇帝ナポレオン3世を接待した。ビスマルクは、ナポレオン3世が「高級メロン」に目が ないことを事前に徹底調査、会談の席で絶妙に熟した最高級のメロンを差し出したという話が伝わっている。いずれにしても、政治における接待は、「相手の欲するものを完璧に把握し、胃袋と感情を掴む」というのが鉄則だ。
ちなみに、トランプ氏はアルコールを飲まないことで知られている。ベルサイユ宮殿での夕食会にはフランス製のワインは出なかったのだろうか。事情通によると、トランプ氏は公式の晩餐会や夕食会では、周囲が最高級のワインやシャンぺンを飲む中でも、「ダイエットコカ・コーラ」やミネラルウオーター(水)をグラスに注いで乾杯しているという。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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