近年、高齢者を取り巻く消費者トラブルは、「訪問販売」や「電話勧誘」だけではなく、スマートフォンやSNS広告を入り口としたネット通販へと広がっています。
特に最近は、「お試し価格」「初回限定」といった広告表現から申込み画面へ誘導し、本人が十分理解しないまま定期購入や継続課金へ進んでしまうケースも少なくありません。
しかも問題は、単に「高齢者はネットが苦手だから」で済ませられるほど単純ではなく、心理的に誤認しやすい画面設計や、“分かる人だけが理解できる”導線が背景にあるケースも見受けられます。
また、独居高齢者や、家族との接点が少ない高齢者の場合、発見そのものが遅れやすく、気づいた時には継続課金や商品発送が長期間続いていたというケースもあります。
今回は、FP・消費生活コンサルタント・介護職という立場から、ネット通販時代に家族が知っておきたい“見えにくい契約トラブル”として、高齢者のネット通販問題と、家族がどう向き合うべきかについて考えてみたいと思います。

maroke/iStock
巧妙化する「定期購入の罠」、なぜ親は騙されたのか?
「高齢の親の家に行ったら、見覚えのない通販商品が届いていた」――そんな話を耳にする機会が増えています。
国民生活センターによれば、インターネット通販に関する相談は依然として多く、特に「定期購入」に関するトラブルはここ数年、繰り返し注意喚起が行われています。
2022年には 特定商取引法 が改正され、定期購入であることや支払総額、解約条件などの表示義務が強化されました。逆に言えば、それだけ“分かりにくい申込み画面”によるトラブルが社会問題化していたということでもあります。
以前の「送り付け商法」は比較的分かりやすいものでした。突然商品が届き、「代金を払え」と請求される。いわば“勝手に送りつける”手口です。しかし現在は少し事情が異なります。
SNS広告やスマートフォン経由の通販では、「本人はまだ申し込んでいないつもりだった」「途中でやめたつもりだった」にもかかわらず、事業者側では“申込み済み”として扱われ、商品発送や請求へ進んでしまうケースがあります。
実際、私の身近でも、高齢家族がスマートフォンで広告を見て商品ページを開き、住所や電話番号を途中まで入力した後、「やっぱり不安だから」と送信前に閉じた“つもり”だったにもかかわらず、その後SMSで「商品を発送しました」という連絡が届いたケースがありました。
多くの人は「送信ボタンを押していなければ、入力した情報は相手に渡っていない」と考えがちです。しかし現在は、入力途中の情報をシステム上で保持・取得できる仕組みも存在しており、その認識のズレが、消費者側の「まだ申し込んでいないつもりだった」という感覚につながるケースもあります。
しかもそのSMS内のURLを開くと、発送状況の確認には「購入内容への同意」や「会員登録」が必要になっており、現時点でどういう契約状態なのかさえ分かりにくい構造になっていました。
さらに問題なのは、その時点で本人は、
- 最終確認画面を見た記憶がない
- 内容確認メールも届いていない
- 支払い方法も入力していない
という状態だったことです。
それにもかかわらず、住所と携帯番号が入力された段階で、事業者側は“コンビニ後払い”扱いで発送を進めていたのです。
もちろん、個別事例について違法性を断定するつもりはありません。しかし少なくとも、消費者側から見れば「送信していないつもりだった情報が利用されている」「まだ契約した認識がない段階で発送されている」と感じても不思議ではない構造です。
世間の「ネットリテラシー不足」という論調への違和感
最近の通販トラブルは、単なる「ネットリテラシー不足」では片付けられません。
現在の申込み画面は、マーケティングや心理学を前提に設計されています。
例えば、
- 「初回だけ」のように見える価格表示
- 定期購入条件を小さく表示
- 解約条件を別ページに分散
- “今だけ”“残りわずか”と焦らせる表示
- ボタンの色や配置で申込みへ誘導
- 閉じたつもりでも入力内容が保持される
といった、“誤認しやすい設計”が問題視されています。
海外ではこうした手法を「ダークパターン」と呼ぶことがあります。つまり、利用者にとって分かりやすい設計ではなく、“事業者に都合の良い行動へ誘導する設計”です。
これは若い世代でも引っかかることがあります。まして高齢者であれば、スマートフォンの小さな画面で利用規約や解約条件を細かく確認すること自体が大きな負担になります。
「高齢者はネットに弱いから」と片付けるのは簡単です。しかし実際には、分かりにくく設計されている部分も小さくありません。
私自身、過去に継続課金型サービスに近い業務に関わったことがあります。そのため、事業者側が「申込み率」や「継続率」を重視する事情そのものは理解できます。ただ、本来の商売は「十分理解したうえで納得して選んでもらう」ことで成り立つべきです。
特に高齢者のように、デジタル操作への慣れに個人差が大きい層に対してまで、“誰でも同じように理解できる前提”で設計された導線をそのまま適用することには、強い危うさを感じます。
さらに気になるのは、解約手段の分かりにくさです。ネット上では簡単に申込みできるのに、解約は実質“電話のみ”。しかも受付時間が短かったり、なかなか繋がらなかったりするケースもあります。
高齢者の場合、電話口で強い口調を取られるだけでも萎縮してしまい、「もう面倒だからそのままでいい」と諦めてしまうこともあるでしょう。
FPと介護現場から見た、被害の「因果関係」と「深刻度」
そして問題は、契約時だけではありません。FPとして見ても怖いのは、「気づきにくさ」です。
最近の通販は、クレジットカード決済やキャッシュレス決済と結びついているケースが多く、一度登録されると、本人が十分把握しないまま継続的に請求が発生してしまうことがあります。
特に独居高齢者の場合、
- 荷物を細かく確認しない
- 明細を見ない
- 「よく分からないけどそのまま」にしてしまう
- 相談相手が近くにいない
といった事情から、発見が遅れやすくなります。
実際、親の家を訪れたら、通販商品が大量に積まれていたという話は珍しくありません。
本人に悪意があるわけでも、極端に判断能力が低下しているわけでもなく、「よく分からないまま続いていた」というケースも多いのです。
介護現場で感じるのは、高齢者支援は「財産管理」や「介護保険」だけ見ていればよい時代ではなくなったということです。
スマートフォン、SNS広告、ネット通販、サブスク型契約など、“デジタル消費”そのものが新たな生活リスクになっています。
また、こうしたトラブルは単なる金銭問題ではありません。家族側は「なんでこんなの申し込んだの」と責めたくなり、本人は「怒られるから言いたくない」と隠すようになる。するとさらに発見が遅れます。
介護現場でも、「家族に迷惑をかけた」と感じた高齢者が、自信を失ったり、相談そのものを避けるようになったりする場面は少なくありません。
つまり、ネット通販トラブルは、お金だけでなく、本人の自尊心や家族関係にも影響する“生活問題”なのです。
家族が「検察官」ではなく「伴走者」になるために
一方で、「だから高齢者からスマホを取り上げるべきだ」という話でもありません。高齢者にとってスマートフォンは、家族との連絡手段であり、買い物手段であり、社会との接点でもあります。問題は、本人の自己決定を尊重しつつ、どう“伴走”するかです。
「なぜそんなのクリックしたの?」ではなく、
「最近こういう広告多いみたいだね」
「変なSMS来てない?」と、雑談ベースで確認できる関係の方が、結果的に早期発見につながります。
また、
- クレジットカード明細を定期的に確認する
- 不審な定期請求がないか見る
- 「初回無料」「お試し価格」の広告を一緒に確認する
- 消費者ホットライン「188(いやや!)」を共有しておく
といった小さな備えも重要です。
高齢者のネット通販トラブルは、単なる「本人の不注意」ではありません。
“分かる人だけが分かればいい”という設計と、高齢化社会、スマートフォン社会がぶつかった結果として起きている、現代型の消費者問題です。
親世代がスマートフォンを持つことが当たり前になった今、子世代にも「通販トラブルは特殊な話ではない」という認識が求められているのではないでしょうか。
■
大滝よう子 生活実務ライター・介護士・ファイナンシャルプランナー・元漫画家
介護現場で高齢者支援に携わりながら、老後資金・住まい・生活設計など「暮らしに直結する実務テーマ」を専門に執筆する生活実務ライター。保険業界およびFP事務所での勤務経験を持つ元漫画家として商業連載歴があり、難しい制度やお金の話をわかりやすく伝える。
週刊漫画TIMES(芳文社)の巻末コラムにて『知って得する生活マネー講座』を1年間連載。銀行業界誌『バンクビジネス』(近代セールス社)にて中小企業診断士原作の経済解説漫画を連載。日本能率協会マネジメントセンター刊『マンガでやさしくわかる子育てコーチング』にて漫画ストーリーシナリオを執筆(いずれも桐嶋基名義)。そのほかFP専門誌・WEB媒体への寄稿経験あり。
漫画家としての制作経験を経て、現在は実務と並行して文章を中心に執筆、コンテンツ制作や情報発信にも取り組んでいる。株式会社ファインナビ代表。
公式サイト https://tally.so/r/Xx0M6j
【関連記事】
■“おひとりさまの老後”は独身女性だけの話ではない――未婚・離婚・死別・事実婚で変わる老後の制度 (大滝よう子 ファイナンシャルプランナー)
■孤独死、ゴミ屋敷…独居高齢者の問題は「ある日突然現れる」のではない (大滝よう子 ファイナンシャルプランナー)
■少年院で「肩車って何?」と尋ねられた日。演劇手法が、特性を抱える子の自発性を引き出す「更生と支援」の新しいカタチ (脚本家 葛木英)
■110万円の家賃を払う板野友美さんとヤクルト高橋奎二さんの判断が正しい理由。(中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
■世帯年収1560万円の共働き夫婦は、9540万円の湾岸タワーマンションを買えるのか? その1・生活費は年間800万? (中嶋よしふみ ファイナンシャルプランナー)
編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2026年6月1日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。







コメント