
Chaithawat Duangkaew/iStock
食料品の消費税ゼロ(以下「食料品減税」と書く)が検討され始めて数か月経つが、レジ問題など本質とは遠い点で議論が進んでいる。消費税実務を扱う現場の立場からは、より根本的な問題があり、食料品減税は導入すべきではない。
主に下記の3つの問題をここでは説明したい。
1. 事業者間の競争環境を大きく損なう問題
「食料品」の販売を行う事業者のみを優遇することになる。
食料品減税となっても売価への反映は法律上の義務ではなく、事業者は売価を変えなければ、消費税の納税額減少により売価の10%分の利益を得られる。
もちろん、政府の要請もあり、多くの事業者は食料品減税と同時に消費税相当分の値下げを行う。しかし、価格競争力がある商品について、じわじわと売価が値上げされることは想像に難くない。
この問題は消費者が「値下げの恩恵を受けられない」という問題でもあるが、同時に事業者間の競争環境を大きくゆがめている。例えば、食料品減税の対象にならない「酒類に分類されるみりん」を扱う事業者は、食料品として扱われる「みりん風調味料」を扱う事業者よりも消費税の納税額が10%多くなる。こうした例はいくらでもある。
稲盛和夫氏は「経営の死命を制するのは値決めです」と語っているが、どの事業者も限られた消費者の財布から支出してもらうべく、1円単位の値決めを行っている。食料品減税の対象となる事業者のみが、売価の10%分もの消費税の納税額を減らし「売価を下げる権利(義務ではない)」を得られることは、経済の中立性を著しく害する。
2. 経理がいない事業者には対応不可能な複雑性
消費税は小規模な事業者にとって、扱いが難しい税法である。
消費税は、事業者が消費者から税を預かり、国に納付するという体系をもった間接税である。事業者が消費税を申告するためには、適法なインボイスを発行し、取引ごとに複雑な消費税の区分を判定して帳簿を作成し、要件を満たす請求書等を入手し保存する必要がある。経理を雇う余裕のない事業者が消費税法を理解し、これらを適切に処理することはほとんど不可能である。
これまでは「事業者免税」「簡易課税」や「インボイス特例」によって、簡便な処理も認められてきた。しかし食料品減税が導入されると、農業従事者などの一次産業に従事する事業者や食料品の販売事業者は、仕入れや経費に係る消費税の還付申告を行う必要があるが、還付申告には簡便な処理を利用することはできない。
食料品減税の対象となる小規模事業者は、多大な事務負担や、簡便な処理が使えないことによる税負担などのコストを抱えながらなんとか対応するか、そもそも対応できず、誤った申告を行うことになる。
3. 不正還付の増大とその対応
消費税の不正な還付を行う悪質な事業者が必ず新たに現れる。
現在の輸出免税制度が不正還付に悪用されているように、食料品減税も不正還付に悪用される。また、不正ではないが税制の穴を突いた租税回避の脱法的な申告も横行する。国内で完結するので、これらは輸出免税より容易だろう。
食料品減税により数十万件の新たな還付申告が見込まれる。税務署は誤りや不正による還付を防ぐために、全ての還付申告を精査し、納税者のミスに対応して申告指導を行い、不正の疑いがあれば調査を行うなどの対応を行うことになる。
税務署に新たにこれらの業務が増えれば、還付は遅れ、本来行うべき税務調査は行えず、納税者への税の指導も難しくなるなど、税務署の大幅な機能低下が想定される。
さいごに
元来、消費税は一律の税率であることで公平性、中立性、簡素性を備えた税制として誕生した。食料品減税が実現されれば、容易には2年で廃止できないはずだ。そして、多くの業界が自らの取扱商品の減税を求める状況となる。日本の消費税制崩壊の大きな一歩となる。
税は法律を作れば自動的に集まるものではなく、官民合わせて税制を理解し正しく運用した結果、法律に書いた税が国庫に納付される。これまで税制が大きな混乱もなく運用されているのは、官民の必死の努力の結果だ。
適切に税が納付され、事業者が本業に集中するためには、税の複雑性をできる限り排除していくことが必要である。イギリスでは税務対応に費やす時間やコストを「タックス・コンプライアンス・コスト」として官民合わせて4兆円に達すると試算し、これを25%減らそうと大胆な試みを行っている。日本でも税の対応コストに正面から向き合う環境ができるといいと思う。
食料品減税は問題点が大きすぎる。英知をもってより簡単な方法を探そう。
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三村 雄一
税理士(三村雄一税理士事務所)。食料品減税へのアンケート収集、食料品減税への反対署名、等を行っている小さな税理士事務所の所長。食料品減税へのアンケート収集では特に、多くの税理士の意見を原文のまま掲載しています。是非ご覧ください。







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