首相の答弁拒否で空転する国会:60日間の会期延長か

国会が異例の混迷に入っている。発端は高市早苗首相の答弁姿勢である。昨年の自民党総裁選をめぐる「中傷動画」疑惑で、野党側が音声データの確認や秘書の関与について追及したのに対し、首相は当初、有料会員制の記事であることなどを理由に確認を避けた。

その後、音声を確認したとしながらも、秘書本人かどうかの判断は難しいと説明し、疑惑の核心には踏み込まなかった。首相が自ら答えるべき質問を閣僚に肩代わりさせる場面が相次ぎ、野党側は「答弁拒否」だと反発している。

答弁を拒否する首相に反発する野党

予算委員会や党首討論をめぐっても、首相出席の集中審議を求める野党に対し、与党側の対応は鈍い。国会審議は、政策論争ではなく、首相が説明責任を果たすのかという一点に引き寄せられつつある。

こうした中で浮上したのが、会期の60日間延長案である。第221回国会の会期は7月17日までとされているが、政権内ではこれを大幅に延長し、参議院で審議が滞っても衆議院で再可決する「60日ルール」を使う構えが取り沙汰されている。

憲法59条は、参議院が衆議院から送付された法案を60日以内に議決しない場合、衆議院が参議院による否決とみなすことができると定めている。そのうえで、衆議院が出席議員の3分の2以上で再可決すれば、法律は成立する。つまり会期延長は、参議院で過半数を持たない政権が、衆議院の多数を使って法案を通すための手段になり得る。

衆参の「ねじれ国会」で国会が立ち往生

今回の政局が厄介なのは、与党が衆議院で圧倒的多数なのに、参議院で過半数に満たないねじれ国会になっているからだ。参院では自民党101議席、日本維新の会19議席の計120議席で、過半数の125議席に届かない。

会期延長そのものは制度上認められているが、60日ルールを念頭に置いた大幅延長となれば、話は別である。本来、二院制は衆議院の多数決だけで政治を動かさないための仕組みである。

参議院で過半数を取れないなら、政府・与党は野党と協議し、妥協点を探るのが筋だ。それを飛ばして衆院再可決を前提にするなら、参議院の存在意義を軽視しているとの批判は避けられない。

自民党にも説明しない首相の硬直した姿勢

今回の混迷の原因は、野党の審議拒否だけでは説明できない。首相自身が疑惑に正面から答えず、国会での説明を避けてきたことが、審議を不安定にしている。自民党内にも説明しないので、国会対策も動かない。

過去にも大幅な会期延長はあった。2011年は東日本大震災対応、2012年は社会保障と税の一体改革、2015年は安全保障法制をめぐる延長だった。いずれも賛否はあったが、少なくとも政権側は「なぜ延長が必要なのか」という大義を掲げていた。今回の比例代表の定数削減や副首都構想の大義は極めて弱い。

高市政権にいま必要なのは、首相みずからら答えることである。疑惑について説明し、野党の追及に正面から応じ、法案ごとに合意形成を図る。その当たり前の手順を省いて、数の力で突破しようとすれば、国会の混迷はさらに深まる。

60日間の会期延長は、政権にとっては法案成立の切り札かもしれない。しかし、国民から見れば、首相の答弁拒否を覆い隠すための時間稼ぎにも見える。高市首相が国会から逃げるのか、それとも自ら説明責任を果たすのか。会期延長問題は、政権の統治姿勢そのものを問う局面になっている。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント