森保ジャパンと日本人の遺伝傾向の功罪

杉山 崇

サッカー日本代表、森保ジャパン。ブラジル代表戦。敗戦でした。

前半に先制しながら後半に追いつかれ、ロスタイムで逆転弾を決められてしまう…。

その瞬間、日本代表は一瞬でしたがマークがズレていました。ただ、マークを誤った選手を責めるのは酷でしょう。1点目もそうですが、ブラジル代表はこのような隙を作るのが上手いのです。

本当は日本代表がブラジル代表に隙を作らせるような戦い方をしたかったところですが、結果としては世界の頂点との差がはっきりと分かった一戦でした。

惜敗?完敗?4年での進歩は?

サッカーの識者の間では善戦、惜敗という声もあれば、実力不足、惜敗とも言えない完敗など、評価はさまざまです。

ですが、4年前より進歩した部分もあったかと思います。その進歩が王国ブラジルには遠く及ばなかったわけで、そこはやはり「悔しい」と感じるべき一戦だと言えるかと思います。

“死んだふり作戦”を使わずに挑んだ成果は?

日本代表の戦績としては、勝った相手は、チームとして崩壊していたチュニジア代表だけ。FIFAランクでは勝っていたスウェーデン代表にも引き分け。世界の強豪オランダ代表には引き分けたものの、ブラジル代表には勝てませんでした。

しかし、“死んだふり作戦(タナトーシス)”のような奇策を使わずに自分たちの成長を示して臨みました。前回大会カタールW杯でドイツ代表、スペイン代表を破り、世界を驚かせた“死んだふり作戦”。結果はさておき、「弱者の兵法」だったと言えます。

今回の日本代表は、一切この作戦は使いませんでした。そして、無冠の王者と言われる世界の強豪オランダ代表と渡り合い、引き分けを勝ち取りました。そして王国ブラジル代表には敗れましたが、猛攻にさらされながら後半ロスタイムまで同点だったのです。

弱者としてではなく、強豪国と対等に戦う姿勢でこの結果です。4年前だったら、弱者の兵法なくしてはグループリーグ突破もなかったことでしょう。

今回の結果は残念ですが、日本サッカーの発展が見て取れた4試合でした。

サイドからのパワープレー、日本の新たな弱点

その中で何が足りなかったのでしょうか。敗因を挙げれば後半のブラジル代表のシステムチェンジで猛攻を浴びる形になり、5-4-1守備ブロックに自分たちが閉じ込められてしまったこと。

サイドから放り込む形のパワープレーを繰り返し受けることになり、選手たちは疲れ切ったことでしょう。その中でよくロスタイムまで耐えたと言えるのかもしれません。ただ、耐えるばかりで何も変えられなかったことは少々残念です。

日本人の遺伝傾向

筆者には、この結果には日本人の遺伝傾向の良い面、悪い面の両方が出ていたように思えます。日本人に顕著な遺伝傾向はセロトニントランスポーター遺伝子SS型の人が多いところにあります。

この遺伝傾向は無難な予定調和を好ませる遺伝子です。目的が明確で、何をすればよいのかがはっきりしていれば、良い意味で粘り強くこなせるという強みがあります。

しかし、サッカーのように相手の出方次第で何かを変えなければならないとき、この遺伝子は悪い方向に働くことがあります。それは、予定以外の行動を取ろうとする試みを阻害するのです。

後半、特に給水タイム以降の日本代表はブラジル代表の猛攻を前に、何も変えられずに耐え続けて失点を喫した…という印象がありました。もちろん、ブラジル代表の猛攻が強すぎて何も変えられなかったのかもしれません。ですが、5-4-1ブロックをより強固に…という行き過ぎた予定調和に陥っていたのかもしれません。

前半からその兆候はありました。佐野海舟選手のボールカットからゴールに至るプレーは素晴らしかったのですが、これまでのゲームで見られていたサイドの仕掛けなどがあまり見られませんでした。先制したことで、さらに5-4-1ブロックという予定調和に意識が向かっていたのかもしれません。

「予定」に強いという強みを活かして

ですが、この遺伝傾向はしっかりと「予定」が準備されていたら、話が変わります。完璧なプランがあれば、完全なる強みに変わるのです。世界のサッカー評論の中では、日本代表は「小さなロボット」と評されることもありました。この大会でも最後はロボットになっていたのかもしれません。

ですが、後半ロスタイムまでブラジルと同点だったということは、決して小さなロボットではないということを示したと言えるでしょう。そのロボットをより精密に、そして対戦国の予想を超えるようにプログラムできれば次の発展も見えてくることでしょう。

今回のW杯北中米大会では残念な結果となりましたが、日本も、この国のサッカーもまだまだ続きます。筆者は日本代表の次の発展を楽しみにしています。引き続き注目してまいりましょう。

杉山 崇(脳心理科学者・神奈川大学教授)
臨床心理士(公益法人認定)・公認心理師(国家資格)・1級キャリアコンサルティング技能士(国家資格)。
1990年代後半、精神科におけるうつ病患者の急増に立ち会い、うつ病の本当の治療法と「ヒト」の真相の解明に取り組む。現在は大学で教育・研究に従事する傍ら心理マネジメント研究所を主催し「心理学でもっと幸せに」を目指した大人のための心理学アカデミーも展開している。
日本学術振興会特別研究員などを経て現職。企業や個人の心理コンサルティングや心理支援の開発も行い、NHKニュース、ホンマでっかテレビ、などTV出演も多数。厚労省などの公共事業にも協力し各種検討会の委員や座長も務めて国政にも協力している。
サッカー日本代表の「ドーハの悲劇」以来、日本サッカーの発展を応援し各種メディアで心理学的な解説も行っている。

心理マネジメント研究所(代表:杉山崇@脳心理科学者・臨床心理士・公認心理師/神奈川大学教授)|note
「心理学でもっと幸せに!」を実現する研究所。各種研修、採用・組織運営コンサルティング、データ解析、心理カウンセリング、キャリアコンサルティング、などを組織と個人に提供中。代表の杉山は著書多数の他、NHKニュース、フジテレビ「ホンマでっかテレ...

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