ドル円相場がついに39年ぶりの水準となりました。私の定義では「1985年9月のプラザ合意後の暗黙の枠組み」を抜けた新世界入りです。為替の予想については非常に難しく、私もこのブログで触れてきましたが、その動きについては外すこともしばしばでした。ただ、長期的な動き、あるいは160円の壁については何度か力説し、それを抜けるとどこまで走るかわからないとも述べてまいりました。またその理由については金利差もありますが、国力の差ではないかとも指摘させていただきました。
二国間の為替は通貨量によって決まる、これは理論的には正しく、それを基準とするわけですが、その基準値からの振れ幅は大きく、数十パーセントに及ぶこともある、と考えています。仮説的に言えばドルと円の通貨量から探る均衡相場は120円、この基準を中心とした振れ幅は33%あれば160円から80円という許容可能な枠ができると考えています。
もちろん誰も33%とか160円から80円に収まると決めたことではありません。ただ、市場には暗黙知のようなものがあり、通貨量に基づく理論値からすればその程度が限界とみていたのがこの40年だったと思います。この間には日本のバブルとその崩壊、失われた30年、東日本大震災、リーマンショックやコロナなど国内外の様々な為替に影響する事象が起きる中でもこの枠組みの中で収まってきたのです。
これを書くNY時間の6月30日の昼過ぎで円ドルは162円台半ばまで下落しています。「抜けてきた」というのがベストな表現だと思います。今日の相場つきはドルに対して円が安くなる一方、ドルに対する他通貨は強含んでいます。つまり今日だけに限れば円独歩安に近い状況にあります。何故か。これは前日の片山大臣の発言から「為替介入には言うほど熱心ではないのではないか?」とみられたからです。産経の記事から抜粋すると(片山大臣は)「『必要に応じていつでも適切に対応する』と述べた。介入前の〝常套句〟である『断固たる措置』には後から言及し、『普段より踏み込んでいない印象だ』という市場関係者の見方もある」と評しています。
このトーンは他のメディアでも報じらており、市場が共通して認識している公算が高く、円売りが積みあがってきている状態とみています。これに投機的動きが乗っかれば円が「真空地帯を駆け抜ける」ことも想定しなくてはいけません。片山氏が介入に躊躇しているのかどうかはわかりません。ただ、前回の介入効果がわずか1か月だったこと、介入はそう頻繁にやるべきではないという国際金融上のこれまた暗黙のルールがあります。また頻繁に介入すれば逆に円が弱いという認識が強く演出され、それこそ英国ポンドがジョージ ソロスの売り仕掛けに負かされた1992年の「ブラック ウェンズディ」を想起することになってしまうのです。
もう1つは高市首相が近いうちに判断するであろう食品消費税にかかる政策発表待ちであります。流れからすると高市氏の強行突破の公算があり、その場合、市場はそれが恒久的減税になる公算を見越し、財政負担が重くなると予想します。更なる円安を演出するシナリオを勝手に想像するわけです。するとポーンと円安の勢いが出てしまい、165円程度まで行ってもおかしくなくなるわけです。

高市首相 首相官邸HPより
私の勝手な想像ですが、片山氏はそこを読み取っているので介入に積極的になれないのではないでしょうか?これも私見ですが、高市内閣が発足して片山氏が財務大臣として登用された際、高市氏にとって強力な助っ人であり「右腕」と認識されたのですが、この数か月の片山氏の様々な発言、あるいぱポッドキャストなどへの出演のやり取り聞いている限り、高市氏に引き続き協力姿勢である点は変わりませんが、もろ手を挙げて寄り添っている感じでもない気がします。粛々と仕事をしている、そんな感じです。
ベッセント財務長官は「この円相場、どうにかしてほしい」と片山氏に相談しているとされます。ただ、手段は限られています。日銀は先般利上げしたばかりでまさか次の会合で連続利上げをするわけにもいかないでしょう。再三申し上げますが、日銀の金融政策は雇用と物価です。為替対策ではないのです。日銀は引き続き利上げのサイクルにあるとは述べていますが、それは織り込みつつあります。
とすれば円安を止める手段から利上げと介入を外せばあと何があるのでしょうか?日本は時として奇策を打ち出しますので賢い高官が何かを考えているのかもしれません。私も今月、友人の一人で元財務省高官と個人的に会います。彼からヒントが出るかどうかはわかりませんが、なかなかシビアな状況にあると言えそうです。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年7月1日の記事より転載させていただきました。







コメント
アゴラの別のエントリーにコメントしましたが、これまでのドル円が異常な水準であり、1985年のプラザ合意で想定された水準である165±15円/ドルのレベルに戻ってきた、というのが正しい理解でしょう。さらに当時と今の日米企業の国際競争力を見れば、ドル円はさらにドル高円安のレベルでも不思議はない。これは例えば、200~250円/ドルということもあり得ると思われるのですね。
> ベッセント財務長官は「この円相場、どうにかしてほしい」と片山氏に相談しているとされます。ただ、手段は限られています。日銀は先般利上げしたばかりでまさか次の会合で連続利上げをするわけにもいかないでしょう。再三申し上げますが、日銀の金融政策は雇用と物価です。為替対策ではないのです。日銀は引き続き利上げのサイクルにあるとは述べていますが、それは織り込みつつあります。
このご意見は全く正しい。きちんと経済をご存じと思われる方の中にも、円安対策として金利を引き上げるべきとご主張される方がおられるのは、まったく奇異な印象を受けます。金利を決める要因として、ここで言われている「雇用と物価」は「景気の過熱状態」の別の言い方なのですが、これこそが金利操作の要因であるべきで、そもそも為替操作などしてはいけないのですね。
だいたい、ベッセント財務長官が日本に「円安を何とかしろ」などというのもおかしい。高市さんは「誰のせいやねん」と返さなくてはいけません。トランプ氏の関税にせよ、彼に要求されて決めた巨額の対米投資にせよ、いずれもドル高円安に作用するのですね。円安が嫌なら、米国が円資産を購入すれば済む話。日銀の金庫にある大量の日本国債など、この目的にピッタリなんですけどね。高市さん、ここはひとつ商売(ディール)されてはいかがでしょうか。
それはともかく、プラザ合意以来の我が国の経済状況を米国と比較すると、まったく、とんでもないことになっております。以下は、世界経済のネタ帳から、日米の一人あたり一人当たりの名目GDP(USドル)の推移を示した図のURLです。https://ecodb.net/exec/trans_country.php?type=WEO&d=NGDPDPC&s=1980&e=2026&c1=US&c2=JP&c3=&c4=&c5=&c6=#google_vignette
プラザ合意時の一人あたりのGDPは、日米とも2万ドルで肩を並べておりました。それが今では、日本の$35,700に対して米国は$94,400と2.6倍の差をつけられております。米国経済は絶好調で、特にこの数年はそのペースを上げております。日本は、1995年以来、少なくともドルベースではまったく成長しておりません。
これで、ドル円が以前と同じ水準に保たれると思う方がおかしい。経済が絶好調の米国が金利を引き上げることは至極当然の話だろうし、ゼロ成長のわが国がそうそう金利を上げてもおられません。その結果、ドル高円安になることも、全然おかしな話ではありません。経済が絶好調なら、通貨も強くなる。あたりまえの話です。
経済が強くなれば、その国の民は良い暮らしをする。一方、経済を悪化させた国は貧困に甘んじることになる。これもあたり前の話ではないですか。そしてその所得格差が、経済的強弱を均す作用もするのですね。つまり、経済的成功を収めた国の民は良い暮らしをするけれど、そういう国の人件費は高騰する。逆に、経済が振るわない国の人件費は低下する。そうして、産業の国際競争力を均す作用をするのですね。
こういった神の見えざる手を妨害してはいけません。経済的には失敗したけれど良い暮らしをしたい、などという国民の声に応えて、自国通貨高政策をとり、物価水準を無理やり下げた国が通貨危機に襲われることは珍しい話ではありません。日本は果たしてその轍を踏むか。これがこの先の最大のリスクであるように思われます。その時最大の被害者になるのは、逃げ場のない庶民なのですね。普通の人も、ポピュリストに騙されてはいけません。
良い暮らしをしたければ、頑張らなくてはいけません。静かな退職などしてちゃいけないのですね。己の能力を磨き、眼前の問題を見つけ出してこれを改善する。こうした営みを積み重ねることで、経済も豊かになり、己も豊かになる。単純な話です。