水商売でお金持ちになれる人がいない理由

黒坂岳央です。

大きな資産を築くことが出来る職業は何か? 答えはビジネスオーナーである。

例外として投資銘柄が暴騰した投資家、親からの遺産相続、宝くじ当選者もいるが、統計的に有意といえる職は世界中どこを見ても「ビジネスオーナー」だけがその答えといっていい。

だがここで一つ不思議な疑問がある。水商売だ。キャバクラ、ホストやその他ナイトワークなど、この業界は20代という若さの絶頂期に、一般的なサラリーマンが届かない収入を得られる。

月収100万円、200万円という数字は、水商売の世界では特に珍しいものではない。資産形成において入金力こそが最大の因子であるなら、この業界からこそ大量の資産家が輩出されていて然るべきだろう。

だが現実にはそうなっていない。若い内に稼いだお金で蓄財し、数億円規模の金融資産を築いてその運用益で悠々と暮らしているという人間の話は、寡聞にしてほとんど聞いたことがない。

いや、むしろピークをすぎた人間は厳しい状況におかれているケースは少なくない。筆者はその理由を考えてみた。

お断り。これは水商売という職業そのものを貶める意図で書いているのではない。あくまで社会科学的な構造分析として、なぜ「入金力が高い業界」から「資産形成の勝者」が出にくいのかを論じるものである。

yamasan/iStock

理由1.ボーナスタイムは極端に短い

経営者の入金力は、程度の差はあれ継続しやすい。もちろん、安定しているわけではないし、景況感に振り回されることもあるが、長期的に高い収入が持続するものである。

筆者は独立して仕事の実績やスキル、経験の蓄積で時間単価は上がっていった。メディア出演や記事執筆も駆け出しの頃は無報酬だった時期もあったが、今では出演料や原稿料を頂けるようになった。

また、経営するフルーツギフトの会社でもふるさと納税の返礼品に出品したり、郵便局カタログに採用されるなどで販売チャネルの拡大をしてきた。このように個人事業主でもビジネスオーナーでも、スキルや実績は年齢とともに高め続ける事が可能だ。

この昇給カーブは独立事業者に共通する構造であり、水商売の減価カーブとは対称的な位置にある。

一方、水商売における高い入金力は、若さ、容姿、接客といういわば消耗する資産に依存している。ピークは20代に集中し、年齢とともに市場価値は減価していく。

さらに稼ぐ力は30代から大きく減価するという特徴がある。生涯で見た入金力の総量は、瞬間風速こそ高いものの、長期戦を戦う経営者には及ばないケースが多い。

理由2.生活水準の不可逆性

人間は生活水準を一度上げると、それを下げることに極めて強い心理的抵抗を覚える。

月300万円を稼ぐようになれば、高級マンション、ブランド品、高級車、それらが当たり前の生活基準として固定化される。これは経済学でいうライフスタイル・インフレーションそのものだ。

この基準は年齢とともに入金力が落ちても簡単には下方修正されない。上へ行くのは簡単だが、下に行くことを受け入れるのは難しい。

筆者は若い頃、旅行へ行くときは夜行バスの4列シートで移動し、ネットカフェやレンタカーの車中泊ばかりだったが、会社員で働くようになると新幹線や飛行機での移動に変わり、ホテルで寝るようになった。今から夜行バスやネカフェに泊まれと言われると、まったく抵抗がないというとウソになる。

「最初から生活費を上げなければいいのでは?」と言われそうだが、特に東京はそれをするのが難しい場所だ。住んでいる場所やマンションのグレードが名札になるので、きらびやかな生活をしているように見せたい人ほど収入が上がるにつれて上を目指す重力が働く。これは水商売に限った現象ではないが、特に同業者・客との比較が可視化されやすい水商売では、顕著である。

学生時代に住んでいたアパートに月収300万円になっても住み続けられる、そんな人は東京にはほとんどいないのだ。

理由3.上から下にはいけない

人生は不可逆な設計になっている。人生の前半をハードモードで働き、人的資本と資産を積み上げた人間は、後半にイージーモードへ切り替えることが容易にできる。

「稼ぐ力を確保し、資産形成ができたのでこれからは家族との時間を優先する」という選択は、いつでも取れる。

筆者自身がまさにそれをやっていて、自分は30代半ばまで東京で毎日終電コース、時にはホテル宿泊も伴うハードワークで仕事一筋で働き、その後独立して子供が小さい内は24時間、死ぬ気で働いた。

今は意識して働くペースを落とした。土日祝は仕事はなし。平日も15時から16時くらいで店じまい。そこからは家族とのんびり過ごし、子供に勉強を教えたり、料理を作ったり買い物に行く。仕事で煮詰まったら昼から映画館へ行ってのんびり過ごすこともある。だが今のように自分のペースで楽しく働けるのも、30代の内に一生分働いたからだと思っている。

これは自分の入金力が資産に転換された後だから可能な選択であり、転換ができていない場合は年齢を重ねてもハードモードから降りられない。

これとは逆に人生の前半をイージーモードで過ごし、高い入金力を消費だけに使い切ってしまった人間が、後半になってハードモードに切り替えるのは極めて難しい。

一度緩めた生活水準と労働観を、後から締め直すことは、上げることよりもはるかに困難だからだ。たとえばリモートワークを経験した人が毎日出社する、目覚ましなしで生活していた人が、毎日6時起き。これは非常に大きな苦しさを伴うものだ。

もちろん例外は存在する。少数だが、水商売で得たキャッシュを不動産投資や株式投資に回して専業投資家になった人間もゼロではない。しかしこうした人間は、正確には「水商売で成功した」というより「水商売で得た一時的な高収入を、資産という永続的な形に変換する技術を持っていた」人間である。この変換技術こそが本質で、水商売という職業そのものが資産形成を保証するわけではない。

若くして手にした大金は、それ自体が幸運であると同時に、長期の資産形成という観点では必ずしも有利には働かないという、皮肉な現実がそこにはある。

2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント