ANAは「取れない」、JALは「高い」:どちらがマシな裏切りか

(前回:ANAマイルは私設通貨なのか:特典航空券に変えられないマイルをなぜ貯めるのか

見える値上げと、見えない品薄

前回、ANAマイルが普通の企業ポイントと違う理由を論じた。利用者は「1マイル=1円」ではなく、特典航空券に交換することで1マイル数円の価値を期待する。だから航空会社のカードを持ち、年会費を払い、日常決済までANA経済圏へ寄せる。

ANAマイルは私設通貨なのか:特典航空券に変えられないマイルをなぜ貯めるのか
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ところが、特典航空券の枠が絞られれば、その期待価値は静かに下がる。マイルは貯まる。必要マイル数の表もある。だが、実際には取れない。これがANAマイルの問題である。

今回は、この問題をJALとの比較から見る。

誤解のないように言えば、JALを礼賛するつもりはない。JALもマイル価値の毀損と無縁ではない。国内線でも国際線でも、JALは特典航空券PLUSという仕組みを導入している。基本マイルで予約できる席がない場合、予測残席に応じて変動する追加マイルを払うことで予約できる、という制度である。満席便などでは手配できない場合もある。

つまりJAL型も痛い。繁忙期や人気路線では、必要マイル数が重くなる。「前はこのマイル数で取れたのに、今は高い」という不満は当然出る。

しかし、制度設計としてはANAとJALの間に大きな違いがある。

JALは値上げを見せる。
ANAは品薄を見せない。

この違いは、消費者保護の観点で決定的である。

JAL型は「高いが取れる」

JALの特典航空券PLUSは、利用者にとって気持ちのよい制度ではない。基本マイル数だけで取れる席が少なければ、追加マイルを求められる。必要マイル数が変動する以上、マイルの価値は下がりうる。

だが、少なくとも利用者は値札を見ることができる。

この日、この便、このクラスを取るには、何マイル必要なのか。基本マイルで取れるのか。追加マイルが必要なのか。高すぎるならやめるのか。それでもその日程を優先するのか。利用者は判断できる。

これは不満のある制度だが、価格情報は表に出ている。痛みが数字として見える。

経済で言えば、これはインフレである。パンが100円から180円になったなら腹は立つ。しかし、値上げは見える。消費者は買うか買わないかを判断できる。別の店へ行くこともできる。

JAL型のマイル価値毀損は、これに近い。高い。だが、なぜ使いにくいのかは見える。

ANA型は「安く見えるが取れない」

一方、ANA型は違う。

必要マイル数の表は存在する。国内線も国際線も、ANAは必要マイル数を案内している。利用者はその表を見て、「この路線ならこのくらいのマイルで行ける」と期待する。

しかし、実際に予約画面へ進むと、特典航空券の空席がないことがある。現金航空券は売られている。座席そのものが存在しないわけではない。だが、マイル客に開放された枠がない。

ここで起きているのは、値上げではなく棚落ちである。

店頭のポスターには「この商品は100円」と書いてある。しかし棚に商品がない。店員に聞くと「在庫はありません」と言われる。一方、現金客向けの棚には商品が並んでいる。これが繰り返されれば、100円という値札にどれほど意味があるのか。

ANAマイルの不満は、ここにある。必要マイル数が高いのではない。必要マイル数で取れないのである。

価格が高いなら、利用者は怒りながらも判断できる。だが、価格は見えているのに商品がない場合、利用者は判断材料を奪われる。いつなら取れるのか。どの程度の枠があるのか。どの路線で絞られているのか。需要に応じてどのように枠が動くのか。分からない。

この不透明さが、ANA型の問題である。

どちらがマシな裏切りか

ここで、あえて嫌な言い方をする。JALもANAも、マイル利用者から見れば裏切っている。

JALは、かつて期待したマイル数では取れない場合がある。ANAは、期待したマイル数のままに見えるが、そもそも席がない場合がある。どちらも、利用者が長年貯めてきたマイルの価値を下げている。

では、どちらがマシな裏切りか。

私は、まだJAL型の方がましだと考える。

理由は単純である。JAL型は利用者に痛みを見せるからだ。高いなら高いと表示する。追加マイルが必要なら必要だと表示する。利用者は怒れるし、比較できるし、離脱もできる。

一方、ANA型は痛みを見えにくくする。必要マイル数は据え置きに見える。しかし、実際に交換できる市場が狭い。利用者は「自分の検索が悪いのか」「たまたま混んでいるのか」「そもそも枠が絞られているのか」を判断しにくい。

消費者保護にとって重要なのは、安さではない。透明性である。

高い値札は不愉快だが、値札である。空の棚はもっと厄介だ。

マイルは価格ではなく出口で減価する

普通の商品なら、値上げは価格に出る。航空券なら、運賃が上がる。ホテルなら宿泊料金が上がる。利用者は値上げを認識し、別の選択肢を探す。

しかしマイルは、価格だけで価値が決まらない。

必要マイル数、特典航空券枠、空席開放のタイミング、繁忙期設定、キャンセル待ちの扱い、代替交換先。これらが一体となって、マイルの実質価値を決める。

だから、必要マイル数の表だけを見ても意味がない。表に載っているマイル数で、実際にどの程度の席が取れるのか。ここが本質である。

企業側にとっては、特典航空券枠を絞ることは合理的に見えるだろう。現金で売れる座席を、わざわざマイル客に開けたくない。需要が強い路線や繁忙期ほど、現金客に売った方が収益は上がる。

だが、それなら消費者に対して正直であるべきだ。

「この路線は必要マイル数は低く見えるが、実際の特典枠は少ない」「繁忙期は基本的に現金販売を優先する」「特典航空券は余剰座席処理に近い」。そこまで明示するなら、利用者も判断できる。

もちろん、企業はそんな表現をしたくないだろう。だからこそ、消費者保護行政の出番なのである。

米国では、すでに政策課題になった

航空会社のマイルやリワードプログラムは、単なる顧客サービスではなくなっている。米国運輸省は2024年9月、American、Delta、Southwest、Unitedの4大航空会社に対し、リワードプログラムに関する調査を開始した。問題視されたのは、獲得済みリワードの価値毀損、隠れた価格設定、ダイナミックプライシング、追加手数料、競争や選択肢の縮小である。

ここで重要なのは、米国当局が「リワード残高を貯蓄の一部のように見る消費者がいる」と指摘した点である。これは航空マイルの本質を突いている。

利用者はマイルを、無料のおまけとは見ていない。将来の旅行に備える資産のように見ている。ところが、その価値は企業が一方的に調整できる。必要マイル数を上げることもできる。特典枠を絞ることもできる。手数料や条件を変えることもできる。

この構造は、日本でも同じである。

にもかかわらず、日本ではこの問題を正面から見る行政主体がはっきりしない。国土交通省は航空輸送サービスを見る。消費者庁は表示や契約を見る。公正取引委員会は競争を見る。しかし、航空マイルのような巨大なポイント経済圏は、そのどれにも完全には収まらない。

この隙間で、利用者の不満は「取れない」「使いにくい」という体験談に矮小化される。

だが本来問うべきは、もっと制度的な問題である。企業が発行し、消費者が資産のように保有し、発行者が交換市場を支配する私設通貨を、どこまで無規制にしてよいのか。

見える化こそ最低限の消費者保護である

ANAに求められるのは、マイルをばらまくことではない。すべての会員に希望通りの特典航空券を出すことでもない。航空会社に座席数の制約がある以上、特典枠に限界があるのは当然である。

最低限必要なのは、見える化である。

路線別、時期別、会員区分別に、特典航空券枠がどの程度開放されているのか。必要マイル数の表と、実際に取れる席の関係はどうなっているのか。現金販売との優先順位はどう設計されているのか。

これらが開示されなければ、利用者はマイルの価値を評価できない。マイルを貯めるべきか、カード決済を寄せるべきか、スカイコインに換えるべきか、他社へ移るべきか。合理的な判断ができない。

JAL型にも問題はある。必要マイル数が上がれば、マイルの価値は下がる。しかし、値上げが数字で見える分、利用者は判断できる。

ANA型の問題は、利用者に判断させないところにある。

値札はある。だが棚に商品がない。

これは消費者にとって、もっとも厄介なインフレである。

次回は、この問題をマイルから運賃制度へ広げる。

ANAは安い運賃を出し、新幹線やLCCと競争している。一方で、シンプル運賃では事前座席指定を制限し、座席不足時の搭乗優先順位についても、利用者が本当に知りたい情報は十分に見えない。

問題は「安い客を搭乗拒否するのか」という単純な話ではない。オーバーブッキング時にまず協力者を募るのは当然である。問題は、それでも席が足りない場合、最後に誰が積み残されるのかである。

SFC、マイル、運賃、座席指定、搭乗優先順位。別々に見える制度は、同じ方向を向いている。サービスを細かく切り分け、利用者にとって最も重要な出口を不透明にする。

ANAが失いつつあるのは、ラウンジの椅子でも、マイルの使い勝手でもない。ロイヤルティプログラムを支えてきた信用そのものである。

【出典リスト】

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