
Siwasan/iStock
日本では近年、「若者のものづくり離れ」が盛んに語られている。
工業高校の志願倍率低下、製造業の人手不足、若手従業員の短期離職。こうした現象を見ると、「若者は製造業を嫌っている」と考える人も多い。
しかし私は、それは本質を外していると思う。若者は、ものづくりそのものを嫌っているのではない。「待遇の悪い製造業」を避けているのである。
私は2014年に、スイスの高級時計メーカー オーデマ・ピゲの工房を見学した。そこで強く印象に残ったのは、工房で働いていた時計師たちが比較的若かったことである。
しかも、そこで私は、当時の為替で約3,000万円相当のミニッツリピーター搭載モデルを実際に腕にはめさせてもらった。当然ながら、あれは単なる「時刻を知る道具」ではない。超精密加工、熟練技術、工芸、ブランド、希少性、歴史、文化。そのすべてが詰め込まれた工業製品である。
そして重要なのは、その高い付加価値によって、若い時計師たちに十分な待遇を与えられているという点だ。つまり、製造業でも、給料が良く、誇りを持てる仕事なら若者は集まるのである。ここを見誤ってはいけない。
日本の多くの製造業経営者は、人が来ない理由を、少子化、若者の根性不足、忍耐力低下、価値観の変化などに求めがちである。しかし、若者は極めて合理的だ。低利益率・低賃金を放置し、将来性不透明な会社を避けるのは当然である。
日本の製造業の多くは、長年にわたり、安く、早く、大量に、真面目に作ることで競争してきた。その結果、価格決定権を失い、利益率が低下し、人件費を抑えるしかなくなった。
すると、派遣社員依存、外国人技能実習生依存、若手離職、ベテラン流出が起きる。そして経営者は「人手不足だ」と言う。だが、それは本当に人手不足なのだろうか。単純に「その待遇では働きたくない」と冷静に労働市場で判断されているだけではないのか。
一方、スイスの高級時計産業は違う。
機械式腕時計という商品自体は、スマートウォッチ時代には必需品ではない。むしろ、実用品として見れば「不要不急」の工業製品であるが、彼らは、ブランド、技術、工芸、希少性、歴史を徹底的に積み上げ、価格決定権を確立した。その結果、高収益となり、若い職人を育成できる。
つまり、「ものづくり人材不足」の本質は、教育問題ではない。経営者の質の問題なのである。
本来、日本の製造業経営者がやるべきことは、高付加価値化、ブランド化、価格決定権確立である。しかし現実には、安い仕事を大量に取る、売上規模を追う、人件費を削る、低賃金外国人労働力で補うという経営が続いている。これでは若者が来るはずがない。
若者は「ものづくり」を嫌っているのではない。「安く使われるだけの製造業」を避けているのである。逆に言えば、高付加価値で、誇りを持てて、十分な待遇が得られるものづくり企業には、今後も優秀な若者は集まるだろう。
問題は、若者ではない。経営者なのである。







コメント